第43話 バリーとミラ

 夫婦の寿命の問題は、重大だよ。私とサリーは顔を見合わせる。

 だって、ママだけ長生きして、パパが早く亡くなったら困る。その反対でも、嫌だろうな。


「ああ、それは……相手に合わせたいと心から思うのなら、光の魔法を使うのを弱めれば良いのです。アルカディアでも、たまに人間と結婚する森の人エルフがいますが、相手に合わせて歳を取ることを選択する手を使うこともあると聞いています」

 アリエル師匠の説明に、オリビィエ師匠が眉を顰める。


「アリエル! それは、かなり変わった森の人エルフと言えるのでは? まぁ、できなくはないけど、私は賛成しないな」

 確かに、一緒にいる相手を想うという面では良いけど、敢えて早く歳を取るのはどうなのかなと私も疑問に思っちゃう。


「そうか、そういう遣り方もあるんだな。それが良いかどうかはわからないが、本人達がそれを選ぶ事もできるという可能性があるのは、少し前向きに考える理由になるだろう」

 今は、中年の狩人の村の森の人エルフは拒否感が強いみたいだから、選択できるのは良いのかもね。


「それと、アルカディアでは若者にも手に職をつけるのを推奨しているのだ。だが、アルカディアでも若者は狩りが好きだし、後継者不足で困っている分野もある。私は、狩人の村の若者に技術を学び、村で広げて欲しいと考えている」

 オリビィエ師匠は、私にも薬師以外の技術を身につけさせようとしている。私は、もう少し薬師に専念したいのだけどさ。


「ううむ、狩人の村の森の人エルフは、基本的に狩人のスキルを賜っているし、狩りが好きなのだ」

 ヨハン爺さんも身体が思うように動かなくなったから、狩人を引退したけど、ママやパパも狩りが大好きだもんね。


「狩人でも食べていけますが、副収入を得るのも良いと思いますよ。これからの子ども達は、より長生きするようになるのだから」

 アリエル師匠の言葉に、ワンナ婆さんは納得する。


「そうだねぇ、長生きするなら、狩りだけじゃなく、何か他にも収入を得る術を身につけた方が良いかもねぇ」

 狩人の村の赤ちゃんを全て面倒見てきたワンナ婆さんは、その子達が幸せに暮らせるように願っているのだ。


「おお、森歩きの連中が帰ってきたようだ!」

 ヨハン爺さんは、森歩きは引退したのだけど、やはり気になるみたいだね。

「師匠、弟と妹も帰ってきたみたいです!」

 私とサリーは、兄弟達を迎えに出る。


「バリー、ミラ! 大きくなったわね!」

 元々、弟のバリーには背を抜かれていた。ミラよりは少しは背が高かった筈なのに、同じぐらいの目線になっちゃっている。


「お姉ちゃん! 帰ってきたの?」

 帰ってきたわけではないけど、帰宅ではあるのかな?

「ミラ、バリー!」

 兄弟で抱き合う。ああ、やっぱり家族って良いなぁ! アルカディアでも友だちはできたし、師匠達との暮らしも満足している。

 でも、やはり家族は良いんだよねぇ。


 あっ、師匠を今度こそ紹介しよう!

「こちらが弟のバリー、そして妹のミラです。この方が私の師匠のオリビィエ様。そして、サリーの師匠のアリエル様ですよ」

 やっと、師匠達を紹介できた。アリエル師匠は、ちょっとだけ挨拶したら、サリーの弟と話している。


「バリーは斧のスキル、ミラは弓のスキルだと聞いているけど、他の技術を身につける気はないかい?」

 オリビィエ師匠は、私にも薬師以外の技術を取得させようと熱心だ。私の弟と妹にも積極的に勧めているけど……やはり、二人は狩人の村で生活しているからね。狩人として一人前になるのが目標だ。


「俺は、狩人になりたいんだ! パパみたいにね!」

 ふぅ、やはりバリーは駄目そう。

「私もママみたいな弓使いになりたいです。でも……お姉ちゃんみたいに料理も上手くなりたいな」

 ああ、それは大切だよ。でも、本当のことを言うと、ミラよりバリーの方が料理のセンスがありそう。

 ただ、ミラは赤ちゃんの時から私の料理を食べているから、いなくなって辛かったのかもね。

 ママは、前世でいうメシまず? まではいかないけど、塩を振って焼くだけだもん。前にスープ作りを教えたけど、家の前の菜園にはトマトは実っていなそうだからね。


「兎に角、私の家に招待します!」

 アリエル師匠は、サリーの家に行くみたいだから、オリビィエ師匠を案内する。バリーとミラも周りをぐるぐるしながらついてくる。


 小さくて一間しかない我が家。懐かしい! ベッドは両親のベッドの下に収納してあったけど、もうバリーのベッドは子ども用では小さいみたい。

 大きくした子ども用ベッドが収納しきれずに部屋を圧迫しているけど、そこはソファー代わりに使っているのかも?


「ここにお座り下さい」

 おお、ミラがオリビィエ師匠に椅子を勧めている。私の妹、マジ賢いよね!

 あっ、私が感慨に耽っている間に、バリーは暖炉の熾火を起こして、お茶の用意だ。やはり、バリーの方が料理適性が高い気がする。


 ミントは、今年の夏も採れたみたい。ハーブティーをバリーが淹れてくれたので、私はマジックバッグからお土産のクッキーを出して、皆で食べる。


 でも、お土産全部は出さないよ。食欲魔人のバリーに渡すのは拙いもの。ママが食料品の管理をしているのだから、そちらに渡す。

 それに、バンズ村は親戚だらけだから、お土産のお裾分けをするのを考えるのもママだからね。


「君たちは、アルカディアからの話を聞いているかな?」

 師匠は、私やサリーが二歳なのにも驚いていたから、それより年下のバリーやミラが重要な話を知っているのか疑問に思ったみたい。

 

「ええ、アルカディアの森の人エルフが二回来たから……大人たちは顔を合わせたら、その話ばっかりだったし……」

 ミラは、肩を竦める。えっ、他人事じゃないんだけど?


「ミラ! 光の魔法を習得したら、長生きできるのよ!」

 おっと、師匠の話に口を出しちゃった。

「そうだね。それは知っているみたいだけど、私たちは何故、狩人の村の森の人エルフ達が積極的に習おうとしないのかわからないのだ」


 今度は、バリーが言いにくそうに口を開く。

「大人達は、アルカディアが子どもを拐おうとしていると怒っていたよ。でも、俺はお姉ちゃんからの手紙を読んだから、そうじゃないと思っているけど……親が反対するなら、無理じゃないかなと、森歩きのメンバーは言っている」

 

 オリビィエ師匠は、ふむふむと頷きながら、バリーの説明を聞いていた。

「お姉ちゃんは、光の魔法を使えるの?」

 うっ、ミラ! ここで「もちろん、できるよ!」と答えたかったよ。


「まだ、少ししか使えないの。守護魔法とライトをちょこっとだけなんだ」

 見本として、指先にライトを付けた。

「おお! 光っている! 凄い」

 バリーは、喜んでくれた。

「お姉ちゃん! 凄いよ!」

 ミラも褒めてくれたけど、余計に落ち込んじゃった。


「ミクは、半年もしないのに色々と頑張って修業している。薬師としてだけじゃなく、土の魔法を使っての農作業、ガラス作りや美味しい料理、そして勉強もね!」

 ぽふぽふと落ち込む私の頭を撫でて褒めてくれた。



✳︎✳︎


『転生したら、子どもに厳しい世界でした』

MFブックスから1月25日に発売されます。

イラストは朝日アオ様!

キュートなミク! 宜しくお願いします。

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