第42話 ワンナ婆さんとヨハン爺さん
「オリビィエ師匠、大人達は狩りに出かけているし、私の弟と妹も森歩きに行っています」
アルカディアでも、狩人達は日中は狩りに出掛けている。でも、大人も何人かはアルカディアにいる。師匠とかガラス職人とか鍛冶師とかはね。
「ああ、狩人の村だからね。でも、何人かはいるだろう。その人から、狩人の村の人の反応を聞いてみたい」
オリビィエ師匠とアリエル師匠は、こちらからの提案の何処が拙くて受け入れてもらえなかったのか疑問を解決したいと考えているみたい。
「私やサリーが赤ちゃんの時に世話になったワンナ婆さんは、今でも赤ちゃんの世話をしているから家にいると思います」
サリーも同意する。
「そうだわ! それに森歩きを指導してくれたヨハン爺さんも引退して一緒に住んでいるから、バンズ村の意見が聞けると思います」
「バンズ村の長老の話を聞くのは良いと思うわ」
若く見えるアリエル師匠より、ワンナ婆さんやヨハン爺さんの方が年下なんだよね。凄く不思議な気分になったけど、サリーと一緒にワンナ婆さんの家に師匠達を案内する。
「ワンナ婆さん!」
家に行ったら、ワンナ婆さんはいつもの椅子で編み物をしていた。
「おお、ミクとサリー!」
編み物を置いて、立ち上がって出迎えてくれたけど、かなり動作がぎこちない。
「ワンナ婆さん、こちらが私の師匠のアリエル様。そして、ミクの師匠のオリビィエ様です」
私がワンナ婆さんの老いにショックを受けている間に、サリーが師匠達を紹介してくれた。
こんな点が、私の駄目なところなんだよね。本当なら十二年の経験があるのだから、私がちゃんと紹介しなきゃいけなかったのに!
「ああ、ミクとサリーの師匠さんかい。こちらにどうぞ……ヨハン爺さんもすぐに帰ってくるだろう」
赤ちゃんの時に食事をしていたテーブルに全員でつく。
「ヨハン爺さんは?」
小屋にはベッドが二台あるから、ヨハン爺さんがここで暮らしているだと思う。
「ああ、森歩きには早い子どもを村の中で遊ばしているのさ」
私たちは放し飼い状態だったけど、考えたら屋根の上を飛んだり危険なことをしていたかも?
それにしても、ワンナ婆さんが一回り小さくなった気がする。春にバンズ村を出て、今は秋になったばかり。
「失礼ですが、脚を痛めておられるのでは?」
オリビィエ師匠が、お茶を入れようと暖炉に掛けてある鍋を持ち上げようとしたワンナ婆さんを止める。
「ワンナ婆さん、お茶なら私とサリーが淹れるわ。オリビィエ師匠は、優れた薬師なの、診てもらったら?」
ワンナ婆さんを椅子に座らせて、オリビィエ師匠が脚を診る。
「これは捻挫していますね。固定して、湿布をした方が良い」
オリビィエ師匠は、マジックバッグから湿布と包帯を出して、ワンナ婆さんの脚を固定した。
「ありがとうございます。ここには薬師がいないから、脚を痛めて困っていたのです。子どもの面倒もなかなか見れなくて、ヨハン爺さんに手伝ってもらっている有様で……」
ああ、それで子ども達を外で遊ばすのにヨハン爺さんが子守をしているんだね。
「やはり、薬師が村にいると良い」
ワンナ婆さんが私を期待した目で見るけど、一年に数回の出番だと食べていけないよ。
「おお、ミクとサリーじゃないか!」
お茶を淹れて飲もうとしたら、ヨハン爺さんが子ども達を連れて帰ってきた。
チビちゃん達にもクッキーを配っておやつタイムだ。
「そちらの方達はアルカディアの師匠さんですか?」
あっ、クッキーを配るのに夢中で、紹介を忘れていたよ。
「こちらが私の師匠のアリエル様、そして、あちらがミクの師匠のオリビィエ様です」
やはり、サリーの方がこういう方面はしっかりしている。気をつけよう!
ヨハン爺さんも同じテーブルについて、クッキーをつまみながらお茶を飲む。
「これは、ミクが作ったのだな! 料理の腕があがったな!」
うっ、本当は薬師の修業なんだけど、アルカディアでも料理を評価される場面が多い。
「ワンナ婆さん、ヨハン爺さん、アルカディアから光の魔法を使って老化を遅くできるって聞いたでしょう? どう思うの?」
ここは、ママやパパと話す前に狩人の村の意見を聞いておこう。
ワンナ婆さんとヨハン爺さんは、困ったように師匠達を見る。
「私達はもう老化が始まっているから、関係ないと思っている。若い衆は、習えるから習ったら良いと思うが……狩人の村に住んでいる
ヨハン爺さんは、若い頃は人間の町に出たことがあるそうだ。そこで、結婚資金を貯めて、結婚したんだね。
ワンナ婆さんは、外には出たことがないけど、亡くなった旦那さんは出たことがあると言っていた。
一度も狩人の村から出たことがない脳筋(狩り好き)は、頭が固そう! ママもかも?
「良い話だと思うけど、村の連中は自分が習得できないと思っている。子どもには長生きして欲しいが、手放すのは怖いみたいだ。自分達とは違う
師匠達が驚いた。
「アルカディアも同じ
ワンナ婆さんがわかっていると手を横に振る。
「それは、そうなんだろうが……狩人の村の連中は魔法が使えないからねぇ」
ああ、狩人の村では狩人のスキル優遇だからね。魔法が使える
「魔法が使えなくても、
アリエル師匠が説明する。
「狩人の村でも赤ちゃんは、数日で歩き始めるのでしょう? それは、無意識に光の魔法を使って成長を促しているのです」
その件は、前に来たアルカディアの
「それは、初耳だったが、人間の子ども、そして
そうだよね! 戦争から逃れる為にエンダー村の
「では、子どもは光の魔法で成長中だから、習得しやすいのはわかっておられるのですね。サリーは光の魔法を習得しましたし、ミクもかなり頑張っています」
オリビィエ師匠に「ミクも習得できました」と言わせてあげたかったよ。
そうすれば、狩人の村の
「ううん、俺たち年寄りは諦めがつく。だが、中途半端な歳の者は、内心で悩んでいるのだと思う。もし、自分は習得できて、相方は駄目だったらどうするのか? 反対に、相方は習得できて、若々しいままなのに自分は年老いていくかも?」
あっ、そうか! 狩人の村の
「それと、寿命が長くなるのは、良いことばかりではないさ。アルカディアでは、どうか知らないが、狩人の村では夫婦は三人か四人の子どもを産む。狩人の村に残るのは、その中の一人か二人なのさ」
師匠は、ヨハン爺さんとワンナ婆さんの言葉を受けて、考え込んだ。
「アルカディアでも、若者は外に出ます。子育て中はアルカディアで過ごす事が多いですし、年老いたら帰って来ます。だから、狩人の村でも……」
子どもの数が違う気がする。オリビィエ師匠も気づいて、途中で言葉を止めて考え込んだ。
✳︎書籍化✳︎
「転生したら、子どもに厳しい世界でした」
MFブックス様から書籍化します。
イラストは朝日アオ様! 可愛いミクが素敵です!
発売日は1月25日です!
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