第41話 懐かしい村
神父さんが夏の間滞在するのは、魔の森の西のルミナス王国なんだって。それも、王都とかは他の神父がいるそうで、田舎の小さな町を転々と移動しているみたい。
もしかして、神父さんって窓際族なのかな? なんて失礼な事を考えていたけど、
「馬で神父さんを迎えに行った連中が帰って来たら、狩人の村を説得に回る予定だけど、ミクとサリーはバーンズ村に行って貰う」
オリビィエ師匠に計画を説明して貰った。知らない村の説得なんて、二歳児には荷が重たいからね。せめて、私の家族だけでも説得したい。
「ミク、それまでに光の魔法をもう少し練習しておこう!」
サリーに励まされて、光の魔法を練習するのだけど、ライトはちょこっとだけ長い時間つくようになっただけ。ふぅ、上手い事いかないな。
ママやパパの前で、光の魔法を私が颯爽と使ったら、説得しやすくなるんだけどさぁ。
「家にお土産を持って帰りたいなぁ」
アルカディアでは、狩人の村よりも豊かな生活をしている。弟と妹のバリーとミラに甘い物をお土産にしたい。
「ミク、うちの家族にもお願いできるかな?」
「勿論! サリーの家にもお土産を持って行くつもりだったよ!」
二人で何が良いか考える。この夏休みに私はピザ屋でかなり儲けたし、サリーもレモネードを売ったり、
「日持ちがするクッキーが良いと思う。あと、トマトソースの瓶詰めや生姜のハチミツ漬けとか……」
夏休みは終わったけど、まだ暑いから、ケーキとかは日持ちがしなさそう。それに、クッキーならママが他の家に配るのも簡単だもんね。
狩人の村では、皆が親戚だから気をつかうんだ。
サリーに手伝って貰って、クッキーをいっぱい焼く。それを大きなガラス瓶に入れて蓋をする。こうしておけば、湿気なくて良いからね。
「ワンナ婆さんは、クッキーでいいけど、ヨハン爺さんは、お酒かな?」
それと、風邪や腹痛の煎じ薬の紙袋も用意したよ。風邪の薬と言っても、咳を鎮めるだけの症状療法だけどさ。あと、熱冷ましの煎じ薬とか、傷に効く軟膏とかね。
私はまだオリビィエ師匠から混合薬を習っていない。それに、あれは半年ぐらいしかもたないから、お土産には相応しくない。
「ミク、石鹸を分けてくれない?」
「あっ、そうだね!」
狩人の村では無患子で身体を洗っていたんだ。あれは、あれで良いけど、やはり石鹸の方が綺麗になる。
「食器を洗う動物性石鹸と身体を洗う植物性石鹸、それと布が狩人の村では高いから、こちらで布を買って行きたいな」
アルカディアでは、何人かが機織りをしているので、行商人から買うより安いし、品質も良い。
「光の魔法だけじゃなく、ガラスや紙漉き、機織りの技術も習ったら良いのにね」
サリーは、狩人の村のシンプルで貧しい生活に前からうんざりしていたみたい。
「確かに、今のままでは行商人に頼りすぎだもの」
私も魔物の皮とか角とかが、少し安すぎると思っていたんだ。オリビィエ師匠みたいに、街での販売価格とか、そこで生活している
「神父さんが明日にはアルカディアに着くそうだよ」
夕食の時にオリビィエ師匠がそう言った。
「ルミナス王国のどの町にいるかもわからない神父さんを見つけたのですか?」
私は、もっと時間が掛かると思っていたんだけど?
「明日、着くってどうやって分かったのですか?」
サリーは、そちらが疑問みたいで、アリエル師匠に質問している。
「ふふふ……まだ二人は魔導具は知らないのね。今回は、神父さんを探しに行ったメンバーに通信の魔導具を持たせたのよ」
前世のトランシーバーかスマホみたいな物かな?
「そんな物があるのですね!」
サリーも私も興味津々だけど、師匠達は教えてはくれなかった。
そう言えば、アルカディアに掛かっている守護魔法についても、まだ教えて貰っていないんだよね。ヒントは、何個か言われたけど……リグワード様が一人でずっと守護魔法を掛けている訳じゃないとか……そりゃ、疲れるよね。
それと、光の魔法のスキル持ちのリュミエールが、いずれはアルカディアの守護魔法を掛けるようになるだろうとか……大丈夫かな?
リュミエールって、悪い奴じゃないけど、兄弟子の方がしっかりしている様な? まぁ、リグワード様から兄弟子、そしてリュミエールが引き継ぐ頃には、百歳を超えて落ち着いているかもね?
「魔導具かぁ、火が使えるなら、錬金術も習えるのに……」
サリーは野心家だし、魔法を積極的に使いたいと考えている。
「先ずは風の魔法をマスターしてからね!」
オリビィエ師匠より、アリエル師匠の方が、修業について厳しい気がする。いつも、本人はソファーに寝転がって本を読んでばかりなのにね。
神父さんがアルカディアに着いて、一日は休憩する事になった。いつものロバではなく、馬で移動したので疲れたそうだ。ロバは、ルミナス王国の魔の森の近くの村で面倒を見て貰っているみたい。あの子、気性がおとなしいロバだから、私も乗ってみたいな。馬は、背が高いから少し乗るのは怖い。
「さぁ、ミクとサリー、用意は良いかい」
次の日の朝、神父さんは馬に乗って、そして何人かの
一番アルカディアに近いのは、ラング村だ。
師匠と私達は、ここはパスして一気にバーンズ村に行く。
神父さんと、何人かのアルカディアの
「ミクとサリーの両親に挨拶したいと思っていたんだ」
私とサリーと師匠達は、木と木を飛びながらバーンズ村を目指す。
私も春よりは、移動が速くなっている。そんなに森歩きをしている訳じゃないけど、身体が大きくなったからかも?
「うちの両親は、入門料が本当に無くて良いのか心配していたから、師匠達と会えたら、安心すると思います」
サリーは、本当にしっかりしているね。私は、五ヶ月ぶりの帰省にうきうきしちゃっている。
ミラとバリー、大きくなったかな? バリーは、もう私より大きかったけど、ミラは同じぐらいだったんだ。できたら、私の方が背が高いままだと良いのだけど……なんて、考えながら、木と木の間をぴょんぴょん飛ぶ。
「あっ、バーンズ村が見えてきたわ!」
ひまわりは、もう刈ったみたいだけど、今年も咲いたんだ。良かった!
なんて、考えている間なんかなく、私とサリーは村の中に駆け出した。
馬鹿だった。狩人の村では、昼に大人がいることはない。それに、ミラとバリーだって森歩きの最中だ。
「ワンダ婆さんなら居そうだね!」
サリーと顔を見合わせて、がっかりする。いや、ワンダ婆さんも嫌いじゃないし、会いたいとは思っていたよ。でも、先ずは家族に会いたかったんだ。
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