第40話 ちょっと本気!

 夏休みが終わり、学舎が始まった。違うのはガリウスが卒業して、エレグレースが年長となったぐらいだ。


 皆を見渡して、メンター・マグスは夏休みの報告を受ける。

 エレグレースは、この夏休みは狩りに出かけて腕をあげたみたい。マリエールも火の魔法と光の魔法の腕をあげたし、錬金術もかなり学んだそうだ。

 

 ヘプトスは、土の魔法と光の魔法、そして水の魔法を練習しながら、畑の管理をし、木工細工の修行もした。

 リュミエールは、自信満々で光の魔法はかなり修行が進んだし、親と狩りに何回も行ったと報告していた。


「サリーは、風の魔法、光の魔法だけではなく、水の魔法も使えるようになったのだな。それとガラス細工も学んだのか!」

 メンター・マグスにサリーは褒められている。

 ふぅ、本当にサリーは魔法の才能に恵まれているし、努力家だよ。


「私は……まだ光の魔法が少ししか使えません。やっと、守護魔法を自分に掛けられる感じです。それとライトは瞬間だけ……」

 マリエールも夏休み前は、光の魔法が使えなかったのに、あっという間にできるようになった。

 ここにいる子どもで、光の魔法をちゃんと使えないのは、私だけなのだ。


 シュンと俯いている私の肩をサリーが掴んだ。

「ミクは、夏休みの間、火食い鳥カセウェアリーの世話をしたし、畑で野菜を作り、料理をいっぱいしたわ。それに、守護魔法も長い時間掛けられるようになったし、トレントやビッグエルクも討伐したじゃない!」

 周りの子ども達も私を囲んで「頑張っているよ!」「料理美味しいよ!」と励ましてくれる。


「ミク、皆の言う通りだよ。まだ二歳なのに頑張り過ぎな程、頑張っている。光の魔法は、もう少しでマスターできるだろう。この学期は、武術訓練で身体を鍛えよう!」

 メンター・マグス……それ、凄く嫌な目標だよ。まだ、魔法の方が少しは見込みがあるかも? でも、前世とは違う健康な身体があるのだから、頑張ってみよう。


「はい!」と答えたけど、これは難しかった。

 学習の方は、四の巻になったんだけど、リュミエールはチビの私に追いつかれてはいけないと五の巻になったから、私一人だ。サリーは、三の巻。

 これで、魔の森の外の国の名前とか教えて貰えるね。

 

 学舎の一時間目は、学習。これは、ほぼ大丈夫。書き方も計算も安心できる。ただ、地理の授業は、メンター・マグスが来ないと説明してくれないから進まないんだよね。

 教科書には、ざっとした地図で国の名前と首都とか大きな街しか書いていない。


「魔の森に一番近い王国は、東にはハインツ王国、西にはルミサス王国がある。このハインツ王国とリドニア王国は、一年前に戦争したのだ」

 地図を見ながら、メンター・マグスの説明を聞く。

「私は、またこの二国が争うのではと聞いたのですが……」

 なぜ、戦争なんかするんだろう。


「ミクは、よく知っているな。もしかして、バンズ村の森の人エルフも戦争で亡くなったのか?」

 メンター・マグスは悲しそうな目をして言った。


「ええ、何人もの若者と前から人間の街で暮らしていたバーンズ村の出身者が戦争で亡くなりました。それに、魔の森の端のエバー村の人達は徴兵されそうになって、狩人の村に退避したのです」

 悲痛な顔で頷いていたメンター・マグスは「徴兵」と聞いて、拳を握り締めた。


森の人エルフは、人間の王に屈したりはしない!」

 メンター・マグスの怒りの籠った声に、全員が注目した。

「メンター・マグス? どうされたのですか?」

 エレグレースが代表して質問する。


「ミクから、ハインツ王国とリドニア王国の戦争について聞いたのだ。狩人の村の森の人エルフが何人も戦争で亡くなったのは知っていたが、端の村・エバー村にハインツ王国が徴兵を掛けたなんてしらなかった。森の人エルフは、人間の王の支配は受けない!」

 皆もメンター・マグスの憤りに驚いていたが、森の人エルフとしての誇りを刺激されたのか、口々に「人間の王なんかに支配されるもんか!」と叫びだす。


 少し興奮しすぎだと、私とサリーは二人で固まっていた。昔、森の人エルフが奴隷にされた時、国を滅ぼす勢いで攻めて、全員取り返したと聞いた事があるけど、アルカディアに来て『本当かな?』と思うほど、狩人の村に無関心だった。

 でも、今、それが本当だったんだろうなと実感したよ。


「ああ、ミク、サリー! 私たちは森の人エルフの危機に何もしなかった。これは、長老会で話し合わなくてはいけない」

 メンター・マグスは落ち込んでいたけど、冷静さを取り戻した。

 

「皆は、勉強を続けなさい。私は、ミクとサリーに話を聞こう」

 他の子が勉強し始めたので、メンター・マグスは私達に質問した。

 でも、難しい村長同士の話は知らないから、私とサリーはエバー村の子ども達と過ごした日々を話した。


「そうか、エバー村の避難民を狩人の村で引き受けたのか……冬の時期に、他の村の避難民を養うのは大変だっただろう。それにしても、エバー村の森の人エルフは、木と木の移動の仕方も忘れてしまっていたのか……。狩人の村の森の人エルフは光の魔法の使い方も忘れてしまっているようだし……これは、森の人エルフとして、見逃せない問題だ」

 メンター・マグスは、ぶつぶつ言っている。これで、狩人の村の森の人エルフに光の魔法を教えるのに積極的になってくれたら良いんだけどね。

 

 この日は、武術実技で……まぁ、弓は何とか近い的には当たる時もあったけど、他の子のは百発百中だからさぁ、やる気だだ下がりなんだよね。


 この日、師匠達も長老会に呼び出されたみたい。今回は、短時間、それに少ないメンバーで話し合った。


「ミクは、まだ光の魔法を習得はできていないが、守護魔法とライトは使えるよな」

 長老会から帰ったオリビィエ師匠に確認された。

「ええ、ライトは短い時間しかつかえません」

 もっと使えたら、説得しやすいのかも。夏休み、私なりに頑張ったんだけどね。


「いや、まだ五ヶ月しか修業していないのに、ミクは色々とできるようになっているよ」

 オリビィエ師匠は、そう言ってから腰を屈め、私の目を見て重大な提案をした。

「一度、バンズ村に戻って、村の人と話してくれないか?」

 それって、狩人の村の人に光の魔法を教える件だよね。


「サリーも一緒に行って、説得して欲しいの」

 アリエル師匠は、サリーに話している。

「勿論、私達も一緒に行くつもりだよ。それに、神父さんもね!」

 オリビィエ師匠は、そう言うけど……神父さんは、いつも年に一回しか狩人の村には来ないんだけど?


「アルカディアから教会を通して神父さんに要請することになったんだ。魔の森の狩人の村を説得できるまで、人間の村は他の神父さんに巡回してもらおうと」

 確かに、この件は森の人エルフにとっては重要だよ! これまで、アルカディアも何回か説得はしていたけど、ここまで本気ではなかった。


「それって、メンター・マグスからの提案ですか?」

 師匠達は、少し苦笑した。

「ああ、私達も賛成したのさ。エバー村の件を知らなかったし、それの援助もアルカディアはしなかった。その反省を込めて、同族の援助をするべきだと考えたのさ」

 本当に、狩人の村の森の人エルフも光の魔法を覚えて、長生きできるようになれたら良いな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る