第38話 里への便り

 神父さんがエルフの村を回って説得してくれる事になったので、私とサリーは親に手紙を書く。


「うちのパパとママ、あまり字は読めないのよね」


 サリーも簡単に書こうと頭を悩ませているけど、私もだよ。


『神父さんの言うとおりだよ。光の魔法を使って長生きして欲しい。私も光の魔法を習っているんだ』


 やはり、習得できたと書けたら、説得しやすいのだ。やはり、しっかりと光の魔法の練習をしなきゃいけない。




「神父さん! バンズ村にも行くのですか?」


 神父さんは、笑って手紙を渡すと引き受けてくれた。


「あと、これはお弁当です。それと、堅焼きのクッキー! これなら、数日は食べられます」


 護衛と神父さんのお弁当を渡して、アルカディアの門まで送っていく。


 サリーが神父さんが見えなくなるまで心配そうに見送っていた。


「ママとパパ、手紙を読んで光の魔法を習って欲しいわ」




 うちの親より年上でも数歳の差なんだけど、サリーはずっと心配している。手紙もたくさん書いていたけど、読めるのかな? 


「サリーの両親は字をいっぱい読めるの?」


「ううん、でも村長さんに読んで貰うと思ったの。私が言う事なら信じてくれると思うもの」


 そっか、その手もあったね。私は親が分かるように、簡単な言葉だけで書こうとしたんだ。




「信じても、アルカディアに来る気になるか? そこが問題だよね」


 師匠達は、覚えやすい子供をアルカディアに招いて、後はその子が村に帰って教えれば良いと言っていたけど、子供を手放すより大人の方が良いのかも?


「あああ、そうだわ! アルカディアには若者小屋がないから、師匠達も気が付かなかったのかも。若者小屋のお兄ちゃんやお姉ちゃん達なら、半分親からは独立しているから、不安にならないかも」


 


 私が言った言葉に、サリーもハッとしたみたい。


「それよ! 子どもを攫うだなんて、アルカディアは考えてなくても、彼方としては不安なんだわ」


 木の家アビエスビラまで二人で走って帰って師匠達に説明する。




「ああ、それは良いかもな。アルカディアでは十歳まで親と一緒に暮らすから、思いつかなかったよ。だが、若者小屋の子も三歳ぐらいなんだろう? 私達が考えていた子どもは八歳以上、少なくとも五歳以上なんだよ」


 そういえば、私とサリーが二歳なのにも驚いていたね。


「もっと狩人の村の情報が欲しいわね。どうもお互いに無関心過ぎるのかも。交流が途絶えているのが問題を大きくしたのよ」


 アリエル師匠もアルカディアにも狩人の村にも問題があると気付いたみたい。


「また長老会を開こう! それにアルカディアの技術を狩人の村にも広げたい」


 伝統工芸とか鍛治や魔導具、そして魔物の畜産、私が飼っている火食い鳥カセウェアリーやサリーが世話しているキラービー、この技術も広めなきゃね。




「ただ、少し問題があるのです。狩人の村の森の人エルフは、狩りが大好きで、菜園も芋しか作らない程だったの。ミクがあれこれ作って、食べたら美味しかったから、少しは他の野菜も作るようになったけど……基本は、狩りをして暮らしたい森のエルフの集団なの」


 サリーが言うとおりなんだよね。


「名前からして狩人の村だからなぁ。それにアルカディアも狩りが大好きな森のエルフが多い。だから、学舎にいる時期だけでも他の技術を手につけるようにと指導しているのだ」


 確かに、菜園で見かける森のエルフは、ほぼ同じメンバーだ。


 


「狩りは、楽しいから仕方ないわ」


 えっ、いつもソファーで本を読んでいるアリエル師匠が、そんな事を!


「ははは、アリエルは竜を狩るのが趣味だからな!」


 ドラゴンスレイヤーだとは聞いたけど、普段は狩りに参加していないよね。


「普通の魔物なんか、いちいち狩る気にならないわ。お肉は美味しいから買うけど、それで十分よ」


 私は、この前小さな鹿をやっと狩ったばかりだから、竜なんか狩るのは怖い。だから、アリエル師匠の言っている意味がわからないよ。




 行商人も明日には旅立つから、少しサンドイッチとか買って貰おう。お金は火食い鳥カセウェアリーの卵やピザ、パンなどを売って、貯めてあるけど、それは自立する時の為なんだ。


 ちょこっとだけ、果物の砂糖漬けとか買いたいから、多めに作ったサンドイッチを持っていく。




「あっ、ミク! サンドイッチだね!」


 丁度、狩人達も帰ってくる時間だったので、集会場でサンドイッチがかなり売れた。


「なぁ、今度はいつピザを焼くんだ?」


 ピザ屋もかなりお小遣い稼ぎになるんだよね。


「明日、開くつもりよ」


 宣伝は大切だからね。


「夏休みなんだから、雨の日以外は焼いたら良いのに!」


 それは、ちょっとね! 他にもしたい事があるし、光の魔法を習得しなくちゃいけないから。




「おお、お嬢ちゃん! 確かミクだったかな? それは何だい?」


 ラリックさんが籠の中のサンドイッチに興味を持ったみたい。


「パンに卵や野菜や肉を挟んだ物です。美味しいですよ!」


 残ったサンドイッチを全部買って貰ったので、果物の砂糖漬けを買って帰る。




*神父さん視点




 アルカディアで思いがけない話を聞いた私は、狩人の村を説得してまわる事にした。


「私も光の魔法を習得できるのだろうか?」


 狩人の村に生まれたが、狩人スキルに恵まれず、得たのは『説得』スキルだけ。


 他の森のエルフ達と違い、成長も遅かった。とはいえ、人間の子ほどは遅くはないし、齢60になるが健康状態にも恵まれている。


 エスティーリョの神に護られていると考えていたが、光の魔法が地味に効いていたのかもな。


 運動神経に恵まれず、木と木の移動も出来ず、劣等感を持ちながら狩人の村で過ごした子ども時代は、今でも心の棘になっている。




「私は良い! 十分に生きたし、神に仕える人生に満足している。だが、ヨシは……あの子は、これから光の魔法を習えば役に立つのでは?」


 狩人の村に生まれたのに狩人スキルを持たない子は辛い。


 ミクやサリーは、ごく少ない成功例だ。サリーは風の魔法使いのスキルという有利なスキル持ちだし、ミクは薬師に料理に植物育成! 何だか、ごっちゃなイメージだけど、この持たせてくれたサンドイッチは美味しいだろう。




 そろそろ腹が減ってきたし、休憩しよう。


「おおい、休憩しないか?」


 木の上で警戒している少年に声を掛けたら、ぴょんと音もなく飛び降りた。やはり、この運動神経だけは何歳になっても羨ましい。




「少し尋ねるのだが、ミクやサリーはアルカディアで上手くやっているのかい?」


 私をラング村まで護衛してくれている10歳程度の少年にサンドイッチを食べながら質問する。確か、ガリウスだったかな?


「ああ、あの二人は学舎でも仲間だと思われているし、いずれ人間の町に出て行く時は、チームを組もうと皆が狙っている」


 ミクの作ってくれたサンドイッチ! こんなの人間の街、王都でも食べられない。


「それは料理目当てかな?」


 ガリウスは、少し笑って否定する。


「まぁ、それもあるけど、あの二人は真面目に努力しているし、優しいからな。最初は、少し私たちも様子を見ている感じだったけど、本当に良い子なんだ」


 まぁ、それは分かるよ。ミクは明るくて、前向きだ。サリーは少し負けず嫌いで、その分努力もしている。




「狩人の村の森のエルフも光の魔法を習得できるのかな?」


 ガリウスは首を捻っている。


「サリーは習得したが、ミクは手こずっている。でも、自分に守護魔法は掛けれるようになったから、あともう一歩なんだ」


 成程なぁ、サリーは魔法が得意そうだ。


 


「長老会のメンバーは、狩人の村の森のエルフも光の魔法で成長が速いのだから、元々は素養があると言っていた。ただ、やはり若い方が習得しやすいかもしれないとも言っていたな」


 若い子は、光の魔法で成長している途中なのだ。大人になると、光の魔法で老化を防いでいるのだが、70歳を超えると、それが劣化してくる。


 アルカディアの森のエルフは、60歳ぐらいから、意識的に自分に光の魔法を掛けて、老化を防いでいるのだ。




「ミクとサリーが説得したら良いのかも?」 


「ははは、それはそうだな」


 サンドイッチを食べて、ラング村に向かう。


 私で説得できなければ、ミクとサリーを連れて行っても良いかもな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る