第30話 長老会は宴会?

 師匠達が言っていた通り、真夏になると人間の町で暮らしている森の人エルフが里帰りしてくる。

「このままアルカディアに住む森の人エルフもいるし、また人間の町に行くのもいる」

 師匠達も、毎年では無いけど、夏にはアルカディアに帰っていたそうだ。

 前世のお盆みたいな感じかな? と思ったけど、冬は寒いから来たくないという理由だった。


「人間の町も寒い場所もあるが、魔の森よりはマシだからな」

 そうなんだね。その分、夏は暑いから、里帰りしたくなるみたい。

「人間の町の夏は暑いし、臭いわ」

 アリエル師匠が思い出して、眉を顰める。


「師匠? 人間の町もスライムでトイレは清潔にできる筈なのに、臭いの?」

 オリビィエ師匠が肩を竦める。

「石鹸が高いから、汗臭いのさ。それに服を何枚も持っている人間は金持ちしかいないから」

 うっ、それは嫌だな。サリーと顔を見合わせる。

 修業が終わったら、人間の町で暮らしてみたいと思っていたのだ。


「夏場はアルカディアに帰るか、避暑地に行くかして過ごしていたわ」

 避暑地って、リゾート? 行ってみたい。海で泳いでみたいけど、泳げるかな?

「ミクとサリーが人間の町で暮らすなら、清潔にする事を広めて欲しい」

 それは、絶対だね! 


「あれっ? 師匠は?」

 オリビィエ師匠は苦笑する。

「私も頑張ってみたんだけど、石鹸より食べ物を優先するのは仕方ないと諦めた」

 それは、そうかも? でも、不潔にしていたら病気になりそう。

「人間は森の人エルフよりも弱い。すぐに病気になるから、薬師も治療師も必要なのだ」

 あああ、そういえば生まれて2年、一度も病気をした事が無いよ。雪の降る中、ワンナ婆さんの小屋まで駆けて行っても風邪一つひかなかった。


森の人エルフには薬師や治療師は必要ないのでは?」

 師匠達に大笑いされた。

「ミクはまだ幼くて、光の魔法に護られているから、病気にならないのよ。年をとれば病気もするわ」

 そうなんだ! 光の魔法は、成長を促すだけじゃないんだね。

 あっ、細胞を成長させているから、病が入り込む隙が無いのかも?

「光の魔法をちゃんと使えるようにならなくては!」

 前世では身体が弱かったから、今度は元気で長生きしたいからね。


「その件を長老会で話し合わなくてはな」

 狩人の村の森の人エルフが使い方を忘れているとは、アルカディアは知らなかったみたい。

 村長さんが一度来ただけで、交流なんてないからね。

「こちらは提案するけど、彼方が受けるかはわからないわ」

 アリエル師匠が難しい顔をする。

「やってみなければわからないさ」

 オリビィエ師匠は、楽天的だね。


「この件は、意見が割れそうだな」

 楽天的なオリビィエ師匠も、他のメンバーがどう考えるかは分からないみたい。

「お願いします!」

 ママやパパやミラやバリーにも長生きして欲しい。

「お願いします」

 サリーも頼んでいる。家族に長生きして欲しいのは誰でも一緒だよ。

「頑張ってみるよ!」

 オリビィエ師匠が私とサリーの頭をぽふぽふと撫でた。


 七変人と噂されている放浪の吟遊詩人アオイドスとトルヴェールのニ人がアルカディアに帰った次の日、長老会が開かれた。

 この二人は、変人と言われているけど、長老会に入っているみたい。

 長老会のメンバーは、人間の暮らしに詳しい二人が帰ってくるのを待っていたのかも? 昨年の戦争みたいな事が起こるなら、早目に知っておきたいから。


 私は、なんとなく長老会って、国会をイメージしていたけど、違った。まぁ、国じゃないのはわかっているし、市議会に近いものだと思っていたけど、全然違うよ。

 集会場で、長老会が開かれたのだけど、雑談している感じなんだよね。


 何故、それが分かるのか? 発言はできないけど、長老会を見学はできるからだよ。

 サリーと私は、狩人の村の件が気になるから、集会場に行ったんだ。


 吟遊詩人のアオイドスは、白髪の老人で、去年の戦争を仕掛けたリドニア王国を旅したみたい。そこの状況を話していた。

「戦争で敗北して、莫大な賠償金を支払うことになり、リドニア王国は逼迫している。このままでは済まないな」

 ええっ、また戦争になるのかな?

「ハインツ王国も疲弊している。戦争なんか、ろくでもない!」

 アオイドスよりもかなり若そうなトルヴェールが声を荒げた。


 議長っぽいリグワードとメンター・マグスが話を進める。

「なら、また戦争になりそうなのか?」

 アオイドスは、首を横に振る。

「今は、両国とも戦争をする財力はないだろうが、数年先には分からないな。特にリドニア王国は、元々、ハインツ王国の東部は自分の領地だと主張する者が多いから、諦めないだろう」

 トルヴェールも頷く。

「賠償金を取ったが、かなりの土地が荒らされた。その上、農民もかなり亡くなったから、ハインツ王国も数年は内政重視だろうが……」

 住むとしたら、この二国は避けたいな。


 それから、色々と質問したり、議論が続いたので、私とサリーは木の家アビエスビラに戻った。

「早く四の巻を勉強したいわ」

 地理がわからないから、色々な国の名前が出てきても、理解できなかったのだ。

「狩人の村のことより、人間の国のことばかり話していたわね」

 サリーもやはり心配みたい。

「光の魔法を大人でも習得できるのかしら?」

 私は、それが一番心配なのだ。ミラとバリーはまだ1歳だから、光の魔法を使って成長している。

「ミクのお父さんやお母さんは、まだ若いから大丈夫だと思うけど、うちの両親は……」

 そう、サリーは3番目の子なのだ。

「でも、まだ30歳にはなっていないでしょ?」

 サリーは頷く。どうだろう? 大丈夫だと思いたい。


「オリビィエ師匠の提案を快く受け入れて欲しいから、美味しい昼食をだそう!」

 お腹が空いているより、機嫌が良い方が人に優しくなりやすいよね?

 ワインを出すと聞いていたから、そのアテになる物も考えていた。

 トマトがいっぱいなるから、カットして石窯で低温で長時間焼いて、セミドライトマトにしたんだ。

 それをハーブとヒマワリ油に漬けたら、かなり美味しい!

 小さなビスケットもどきをいっぱい焼いてあるから、その上にセミドライトマトのオイル漬け、チーズ、コーンバター、燻製肉、などを置いていく。

「これをお皿に並べたらいいのね」

 サリーに手伝って貰ってオードブルはできた。


 きゅうりの一本漬けも何箇所かに分けて置いていく予定だから、後はメインだね。

 ピザが好評なので、これを焼いては持っていくことにする。


 オードブルを運んだら、もうワインを飲み始めていた。

 やはり、議会というより宴会? に近い?

 吟遊詩人のアオイドスが年寄りなのに素晴らしい声で歌っていて、つい聞き惚れちゃった。

 オリビィエ師匠とアリエル師匠も配膳を手伝ってくれるので、ピザを焼きに戻る。


 どんどんピザを焼いては、サリーに運んでもらう。途中から、ヘプトスやリュミエールも手伝ってくれた。


 ピザだけでは寂しいから、ローストビーフならぬ、ロースト亜竜をだす。

 これは大皿に盛り付けて、各自で取って貰うから、これで終わりだね。


「手伝ってくれてありがとう!」

 ヘプトスとリュミエールとサリーと私で、焼きたてのピザを食べる。

「夜は、吟遊詩人の歌が聴けるな」

 リュミエールが嬉しそうに笑う。

「ずっとアルカディアに居てくれたら良いのに、皆、心配しているんだ」

 ヘプトスは溜息をつく。若いトルヴェールは、従兄弟みたい。

 戦争があった国にいたみたいだからね。そりゃ、心配するよ。


「狩人の村の件も話し合ったのかしら?」

 最初は人間の国の近況報告だったし、昼食の用意もあったから、その後は知らないんだ。

「ああ、リグワード師匠が話題にしていたよ。何人かは、各村の自治性が云々と反対していたけど、種族として放置するべきではないと決まった」

 良かった! 80歳でも長生きだけど、300歳生きられるなら、そっちの方が良いよね。

「ただ、狩人の村が受け入れるか? 光の魔法を大人が習得できるか? うちの師匠が難しい顔をしていたな」

 ああ、それはアリエル師匠も同じだよ。

 でも、長生きできるなら、習いたいと思うよね!

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