第31話 狩人の村とアルカディア
長老会の夜は、アルカディア全体の宴会みたいになった。
吟遊詩人のアオイドスとトルヴェールの歌を聴きながら、ワインを飲んで踊り騒ぐ。
私達は、最初は少し聴いていたけど、
ワインは飲まないし、段々と大人は酔っ払ってきたからね。
次の日の朝は、オリビィエ師匠もアリエル師匠も二日酔いだった。
あっさりとしたトマトスープしか飲まなかったよ。
狩人の村の件がどうなったのか? これからどうするのか聞きたいけど、昼からにしよう。
サリーは洗濯してから、ガラスを作りに行くと言うので、私は卵とセミドライトマトの瓶詰めを集会場に置きに行って、菜園の手入れだ。
真夏になったので、スイカも植えたんだ。そろそろ、食べられるんじゃないかな?
それと、とうもろこしを全部収穫して、二回目を植えたい。
真夏の菜園、午前中に作業しようと他の人も考えるみたい。
「やぁ、ミク! おはよう」
ヘプトスとはよく会うよ。
「ヘプトス、おはよう」
今日は、野菜の収穫だけみたいだから、ヘプトスはすぐに作業は終わったみたい。
「ミクは、とうもろこしを抜くのかい?」
そうだけど……? ははん!
「手伝ってくれたら、スイカをあげるわ」
アルカディアにはスイカは無かったみたい。
私が植えている時に、甘いと聞いて覚えていたのだ。
ヘプトスは土の魔法のスキル持ちだから、私より上手い。
ザザザザ……ととうもろこしを抜いてくれた。
これを細かく切って、鋤きこむか、
「
ヘプトスも知らないみたい。
「まぁ、試してみるわ」
引っこ抜いたとうもろこしの茎をマジックバッグに入れていく。採った野菜は籠に入れているよ。一緒にするのは、ちょっとさ。
「マジックバッグ、良いなぁ」
そうなんだよね。これがあると凄く便利なんだ。
「師匠も頼まれているみたいだけど、ヘプトスも注文すれば?」
ヘプトスに呆れられた。
「マジックバッグ、金貨100枚するぞ!」
えええ、そんなに高価なの?
「返した方が良いのかしら?」
ヘプトスがケラケラ笑う。
「オリビィエ師匠がくれたんだろう? 弟子だから良いんだよ」
そう言うものかな? 畝を作るのも手伝ってくれたから、スイカを叩いて美味しそうなのを1個あげる。
勿論、
冷たい水にスイカをつけて、とうもろこしの茎を
「何でも食べるわね」
これも細かく刻んで、脂身で固めたら食べそう。
汗をかいたから、水浴びして着替える。農作業は、生成りの服でしているけど、やっと凄いダボダボではなくなった。まだ、大きいけどさ。
薄い茶色の服に着替えて、昼食を作る。まだ二日酔いかな?
あっさりした物にしよう! きゅうりのサラダと、コールドチキンならぬコールドワイバーンだ。
アルカディアには、時々、ワイバーンがやってくる。物見の塔の当番も気が抜けないね。
まぁ、瞬殺されちゃうけどさ。こうして美味しいコールドワイバーンになっている。
冷やしたスイカは甘くておいしかった。
やっと師匠達も頭痛が治ったみたい。オリビィエ師匠の二日酔いの薬、今日は大売れだね。
「ミクとサリーも気になっているだろう」
昼食の後、オリビィエ師匠とアリエル師匠が話してくれた。
「狩人の村、東の9村と西の3村に光の魔法の使い方を教える事になったの。基本的に若者に頼むつもりよ」
この若者ってのは100歳以下ってことなんだよね。
本当に若い
「嬉しいです!」
私とサリーは喜ぶけど、師匠達は少し微妙な顔だ。
「まぁ、やってみないとな!」
オリビィエ師匠は、アリエル師匠よりは前向きだね。
私は、これでミラやバリーや両親も長生きできると安心していた。
だって、長生きできるのに習わないとは思わないもの。
「ミクももっと練習しなくちゃダメよ」
サリーに言われて、私も毎朝練習する。
それに、
ここでも、守護魔法は必須だよ。養蜂箱が二つに増えて、
「そろそろ
朝、アリエル師匠がそう言うので、私も手伝う。少しミードを分けて貰ってお酢を作りたいからね。
ミードを作るのを手伝って、お酢を作った。生酢があれば、これからお酢を作りやすい。
でも、発酵が進みすぎたら困るから、火を入れるか、首の細い瓶に入れて保存する。
半分は火を入れて発酵を止めた。真夏だからね!
半分は、細い首のガラス瓶を使って保存している。
「おおい、できたぞ」
鍛治師のルシウス師匠がオーブンストーブを持ってきてくれた。
台所に設置してくれた。冬になったら暖かいし、良いと思う。
「ケーキを焼いたら持っていきます」
嬉しそうにルシウス師匠は笑って帰って行った。
今日は、マヨネーズを作る予定だったけど、パウンドケーキを作ろう。
卵を卵白と卵黄に分けて、卵白を泡立てる。
本当はバターと砂糖を混ぜて、卵を少しずつ入れ、そこに小麦粉を混ぜて焼くのだけど、砂糖が無いんだ。
ハチミツでもできるけど、バターと混ぜて膨らむか、少し不安だから、卵白も泡立てる。
パウンドケーキというより、カステラの作り方に近い。
ハチミツは温めて牛乳と混ぜておく。
タネができたら、長方形の金属の型にバターを塗ってから、流し込む。クッキングシートが欲しいな。
もう一つの型には、バターを塗って紙を敷いておく。燃えないかな?
後は、温めておいたオーブンで焼くだけだ。
途中で、真ん中だけ膨らんで生焼けにならないようにナイフで線を入れたよ。
「良い香りだわ!」
ケーキって食べるのも美味しいけど、焼いている時の香りが良いんだよね。
前世でも、たまに焼いてくれたよ。脂肪分の少ない健康的なケーキを。その時は、家中に甘い香りがして、とても幸せな気分になったな。
「アリエル師匠、今日のお茶に出します」
今日は暑いから、ミントティーを冷やしても美味しそう。
焼き上がった二つのケーキ。やはり紙を敷いた方が型から綺麗に取れたので、そちらをルシウス師匠の所へ持っていくよ。
あと9個、残っているけどさ!
「おお、これだ!」
お皿を返して欲しいけど、今度にしよう。
「少し、冷えてからの方が美味しいですよ」
注意したけど、焼きたては、焼きたての美味しさがあるよね。
もう切って食べている。
「師匠、一切れ!」
ガリウスがねだって、薄い一切れを貰ったよ。
「ミク、こんなの初めて食べたよ。美味しい!」
良かった! でも、卵、ハチミツ、バター、ミルク、小麦粉! 凄く材料費が掛かる。
ルシウス師匠にはあげるけど、これは集会場では売れないな。
特にアリエル師匠は、一気に全部食べたいと駄々を捏ねたよ。
「夕食のデザートにするつもりです」と断ったけどね。
「そうだ! アリエル師匠は、冷たくできるのですよね。夏らしいデザートを作りたいので、協力して下さい」
スイーツに目がないアリエル師匠は、協力をすると約束してくれた。
ふふふ、なら二重樽を作って貰わなきゃね! 明日は、ポルトス師匠に頼みに行こう。
私が呑気にアイスクリームを作る樽を考えていた頃、アルカディアから狩人の村に行ったリグワードは、不信の目に晒されていた。
どうやら、アルカディアが自分たちを馬鹿にしに来たと感じたみたい。
リグワードは、若者じゃないよね? そう、第一回目の若者の説明は失敗したのだ。
「光の魔法なんか、誰も使えない!」
リグワードは、
「子どもをアルカディアに寄越せとでも言うのか!」
長老会で、覚えやすい子どもから教えて、それで習得可能だと大人にも分からせるって話になっていたのだけど、それが誤解される元になった。
それに、アルカディアとしては、親切心からの提案なのに、狩人の村の
リグワードって、ちょっと堅い感じだからさぁ。
この件が一旦、保留になった事も、私もサリーも知らなかった。
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