第28話 マジックバッグのお手入れ

「ああ、そうだ! マジックバッグの中を綺麗にしたい!」

 覗き込んで、糞はしてなかったけど、なんかね! 食料を入れる気にならない。

「ふうん、中を掃除するのは、少し面倒なんだけど、やってみるか? 私も、そろそろ掃除しないといけない時期だからな」

 師匠! ちょっとズボラだよ。


 油を絞るのは水車でするみたい。私のマジックバッグにはひまわりの種を入れて持っていく。

「ここで油を絞る間に、マジックバッグの掃除をしよう」

 ひまわりの種を大きな布袋に詰めて、水車の杵の下に置く。

 そこは石の器になっていた。

「ほら、そこのストッパーを外すのさ」

 杵を止めている木の杭を外すと、ドスン! ドスン! と凄い音がしてきた。


 外に出て、マジックバッグを肩から下ろす。

「トレントは、ここに立てかけておこう」

 何度見ても、変な気持ちになる。マジックバッグの中から、切ったトレントが何本も出てくる。

「師匠? 枝は?」

 枝も入れたよね?

「枝の葉っぱの油は蒸留したいのだ」

 軟膏の材料かな?

「それは、横に置いておこう」

 枝も小山になったよ。


「さて、マジックバッグの中の物を全部出したよな?」

 師匠は、手を肩まで突っ込んで中を確認している。

「私のには薬草と火食い鳥カセウェアリーだけだったから、何も無いと思います」

 薬草は木の家アビエスビラに置いてきた。

 師匠も中を覗いて、無いのを確認する。


「マジックバッグの中は見た目より広い空間になっているのは知っているだろ?」

 うん、不思議だけどね。

「それを掃除するには、ひっくり返さないと駄目なんだ」

 えええ! 無理じゃないの?

「普通にしたらできないが、空間魔法を使えば、何とかできる。ただ、凄く面倒くさいのだ」

 ふぅ、できるのかな?


「先ずは、見ててご覧!」

 師匠は、マジックバッグの口を持って、ぐんぐんひっくり返していく。

「この時に空間魔法を逆に掛けないと、延々とひっくり返さないといけないんだ」

 それ、私には無理じゃないかな?

 

 ひっくり返されたマジックバッグは、外と同じ大きさに落ち着いた。

 中にはマジックバッグの魔法陣がインクで描いてあったけど、少し薄れている。

「やはり描き直さないといけないな。先ずは、拭こう!」

 腰につけていた小さなポシェットもマジックバッグだったみたい。中から布を取り出して、丁寧に拭いていく。

「魔法陣の上は、ゴシゴシ擦らないように!」

 私に教えながら、拭き終わる。結構、汚れていたよ。

 トレントの木屑や土もついていた。薬草採取の時のかな?

「これから、ひっくり返すのさ。勿論、空間魔法を掛けながら」

 そりゃ、師匠がマジックバッグの掃除が面倒だと言う筈だ!


 ひっくり返して、ペンとインクをポシェットから取り出すと、薄れていた魔法陣を描きなおす。

「これで、マジックバッグの掃除は終了さ」

 ふぅ、これほど大変だとは思わなかったよ。ズボラだなんて思って悪かった。


「私はできそうにありません」

 マジックバッグを作ることもできなかったんだもん。

「ははは……いきなり一人ではさせないよ。一緒にやってみて、何らかの感覚を掴めれば良いのさ」

 そうだよね! 私のは、そんなに中は汚れていなかった。

 でも、空間魔法の反対を掛けるのって、変な気持ちがしたよ。

 マジックバッグの口から、皮をひっくり返していくのだけど、指先の所で妙な上滑りをしている感じがしたんだ。

「ははは、この変な感触を覚えておくんだな。これが空間魔法の逆だよ。これをマスターできれば、成長魔法を逆に掛けることも簡単さ」

 

 うっ、それは難しそう。指先の妙な上滑りの感じだけだもん。

「夏休み中に、アリエルのも手入れするから、コツを掴めるさ。それに注文されていたのもあるから……縫ってくれないか?」

 ははは……、オリビィエ師匠ときたら、マジックバッグの魔法を掛けるより、縫う方が苦手なんだね。

 これは夏休み中の内職になったよ。


「そろそろ油も絞れただろう」

 水車小屋に入って、杵を止める。

「わぁ、油だ!」

 狩人の村でもひまわりの種から油を作ったけど、こんなに多くは取れなかった。

 人力で叩いて絞るだけだったからね。


 師匠と二人で袋の両端を持って、残った油を絞る。

 師匠がポシェットから大きな樽と柄杓を出してきて、油を入れる。

「この残ったカスを火食い鳥カセウェアリーは食べないかな?」

 試してみることにする。


 やはり、ひまわり油は澄んでいて、美味しそうだから、かなり食用に回して貰うことにする。

 油がいっぱいあれば、料理方法が増える。

 サラダのドレッシングにも使えるし、それに酢があればマヨネーズも作れる。

 

 水車小屋には大きな木の箱が置いてあって、そこには小麦を脱穀した籾殻とフスマが山になっていた。

「オリビィエ師匠! このフスマを貰っても良いのでしょうか?」

 行商人が持ってくる小麦は、脱穀しただけの玄麦だ。それを石臼で轢くから、狩人の村で焼いたパンは薄い茶色だった。

 アルカディアの小麦は白色だ。つまりフスマが出る! こんなことに気づかなかった。


「それを食べるのか?」

 オリビィエ師匠が少し眉を顰める。

火食い鳥カセウェアリーに食べさせるのです!」

 狩人が狩ってくる魔物の肉は、集会場で売られているけど、食べやすい部位は高い。筋肉とかは安いし、脂身は蝋燭作りの季節以外は人気がない。

 蝋燭も、植物油(トレント)の方が臭くないから人気みたい。つまり脂身はとっても安いのだ。

 これまでも買ってきて、フライドポテトを作った。


「フスマを火食い鳥カセウェアリーが食べるかな? 不味い物をやると火を吐かれるぞ」

 師匠が心配そうにしながら、ポシェットから大きな布袋を出してくれた。

「これと野菜クズと脂で固めて餌を作るのです」

 私は、前世では鶏を飼ったこともなかったけど、とうもろこしの粉とかの配合飼料を与えていた筈。

 つまり小麦のフスマや野菜クズ、動物の骨の砕いた物、干し草とかを脂で固めたいのだ。

「それなら食べるだろう。ひまわりの種の絞りカスも与えてみたら良い」


 キラービーの死骸が無くなりそうなので、何か栄養のある物をあげなきゃと思っていたけど、虫を捕まえるのは、ちょっと嫌だったので、フスマと脂の混合飼料を思いついたのは良かった。

 狩人の村にいた頃、巨大芋虫キャタピラを一度見たことがある。マジ無理だったから。


 トレントは大雑把にだけどオリビィエ師匠と私とで細かく切って大きな布の袋に入れてから水車で油を絞る。

 オリビィエ師匠が斧でガンガン丸太を割っていったのを、私が手斧で細くしていく感じだ。

 手斧で薪を作るのは、慣れている。上からコンコンと手斧で細くしていく。

 広葉樹より針葉樹の方が柔らかくて割りやすい。この油が取れるトレントも針葉樹ぽっかったから楽だね。

「ミク、そこまで細くしなくても良い」

 つい料理に使う時のように細くしちゃった。


「一気にはどうせできないから、後は葉をこの袋に入れながら待つことにしよう」

 パパだったら、すぐに割り終えたのかもね。

 水車の横で、枝から葉をナイフで取り、袋に入れる。

「細い枝なら入っていても構わない。太い枝だけ除く感じだよ」

 太い枝は、幹と一緒の袋に入れる。

 

 トレントの油は、少しだけ薄緑がかっていて、松のようなヒノキのような匂いがした。

「どうかな? 料理に使えるかわかりません」

 香りが強いから、気になるかも?

「試してみたら良いさ。アリエルのスープよりはマシだろう」

 ひまわり油より多いからね。ちょこっと試してみても良いかも。

 


 

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