第27話 トレント

 サリーに光の魔法を教えて貰うのも日課になった。

「オリビィエ師匠やアリエル師匠に習っても良いけど……そちらは、薬師を習いたいものね」

 そうなんだよ! 夏は、薬草も多いから森歩きもしないとね! ひまわりの種も2回目を撒いたよ。


 だから、朝の火食い鳥カセウェアリーの世話をした後、毎日、少しずつ練習している。

火食い鳥カセウェアリーを捕まえに行こう!」

 オリビィエ師匠が狩人に火食い鳥カセウェアリーの目撃情報を得たみたい。


「薬草も集めなきゃいけないしな!」

 うん、そちらが大事だと思う。

「今回はミクも捕獲してみよう」

 どうも師匠と意見が噛み合わない気もするけど、薬草を採取しながら森歩きをする。

 下級薬草は、何とか成長させられたけど、上級薬草と毒消し草は枯れちゃったんだよね。

「また、試してみるんだな?」

 上級薬草を根から採取していると、オリビィエ師匠に頑張れと激励された。

「下級薬草が栽培できたのだ。上級薬草もできるようになるかもしれない」

 そうだと良いな!


 この日は火食い鳥カセウェアリーを捕獲しに来たのだけど、その前に歩いているトレントにでくわした。

「木が歩いている!」

 聞いてはいたけど、大きな木が根っこを引っこ抜いては、前に進んでいる姿を見て、驚いた。

「シッ! あれは油が取れるトレントだ。討伐するぞ」

 ヒバの木と松の木に似ている気がするけど、前世の木は歩いたりしないからね。針葉樹っぽいのは分かったよ。

「ミク、あの根っこを薔薇の鞭ローズウィスプで捕縛しろ!」

 

 薔薇の実を小袋から手のひらに持って、丁度、歩こうとしている根っこに絡みつける。

「上手いぞ! 引っ張るんだ」

 グッと引っ張るけど、相手の力の方が強い。

 こちらが引きずられてしまう。

「一旦、根っこから外して、もう一回巻きつけるんだ」

 そんな事を言いながら、オリビィエ師匠は、次々と根っこを斧でぶった斬っていく。


「そろそろ、足も止まったな。ミクも手斧で攻撃してみろ」

 えっ、直接攻撃ですか? 薔薇の鞭ローズウィスプをしまって、腰の手斧を構える。

「根っこなら、どこでも良いさ」

 でも、枝も振り回して怒ってるんだけど?

「枝は避けろ!」

 簡単に言うけど、難しい。でも、何とかタイミングを計って、根っこに手斧で切り付ける。


「ふむ、良い攻撃だ。あとは任せるよ」

 ええええ! そんなぁ。

「早く倒さないと逃げられるぞ」

 何本か残った根っこで、後ろに下がっている。

「ええい!」

 一本ずつ、枝攻撃を掻い潜って攻していく。

 ぜぃぜぃ、目に見える根っこは無くなった。


「ミク、あの木の根元をよく見てご覧。少し出っ張りがあるだろう。あそこを攻撃したら、討伐できるのさ」

 はぁ、はぁ、なら最初からそこを攻撃したら良かったのでは?

「さぁ、やってみよう!」

 枝の攻撃も緩やかになっているから、木の根元に近づけた。

「えいぃ!」

 根本の出っ張りに渾身の力を込めて、手斧を振り下ろす。


「ミク、逃げろ!」 

 師匠に手を引っ張られて、倒れてくるトレントの下敷きを免れた。

「今度からは、素早く逃げるか、守護魔法を掛けた方が良いな」

 はぁぁ、疲れたよ。


「これをどうやって持って帰るのですか? 狩人達に手伝って貰うのですか?」

 倒れたトレントは、もう動かないから木と同じだ。つまり大きい。

「先ずは枝を切ろう!」


 枝を師匠と切り落としていく。

「この枝からも良い油が取れるのだ」

 切った枝は師匠のマジックバッグに入れていく。

「このくらいで良いだろ。ミク、少し離れておけ」

 師匠の後ろにかなり下がって見ている。


「ストーンバレット!」

 前にひまわりの花を刈ったように、回転する円盤がトレントを1メートルぐらいにカットしていく。

「さて、マジックバッグにしまおう。次までに、根っこを枯らす魔法を覚えておけば、簡単に討伐できるぞ」

 それって、簡単に覚えられそうにないんだけど?


 もう少し森の奥まで移動する。まだ私はアルカディアの近くの森しかわからないから、師匠の後ろから付いていくよ。

「ああ、あそこだ!」

 目的の火食い鳥カセウェアリーは、狩人が言った場所に6羽いた。

「雄はいらないけど、どうする?」

 それって、食べるって事かな?

「このまま放置しては駄目ですか?」

 腕を組んで考えている。

「雌を捕獲するのを邪魔しそうだな。まぁ、秋までは飼っても良いかも?」

 ふぅ、数が増えるけど、一度卵を温めさせたいと考えていたから、雄が二羽になるのは良いのかも?


「はい! 私は雄を捕まえます」

 身体の大きな雌5羽は師匠に任せるよ。

薔薇の鞭ローズウィスプ!」

 雄を鞭でぐるぐる巻きにする。

 後は、鋭い爪を切らないといけないけど、火を吹いたよ!

「ミク、もう一度ぐるぐる巻にしろ!」

 はぁ、はぁ、まだ小さな雄1羽でも汗だくだ。

 何とか、鋭い爪をナイフで切り落とす。


「よく頑張ったな! さぁ、帰ろう!」

 私の新品のマジックバッグに火食い鳥カセウェアリー6羽が入っている。

 早く帰らなきゃ! 糞をされたら嫌だもの。


 鶏小屋の前まで来て、ふと心配になった。

「師匠、今いる火食い鳥カセウェアリーと喧嘩にならないかな?」

 どうだろう?

「まぁ、中に放つ前にたっぷりと餌と水を置いておくことだな」

 忠告に従い、いつもの3倍の餌と新鮮な水を入れておく。

「さて、中に入れてから鞭を解こう」

 マジックバッグから火食い鳥カセウェアリーを出すと、今までいた火食い鳥カセウェアリーが何事だ? と少し振り向いたが、餌を食べる方が重要みたい。


「鞭よ! 解け!」

 6羽の火食い鳥カセウェアリーは、一瞬、火を吐きそうだったけど、前からの5羽が啄んでいる餌箱に突進した。

「ガァー! ガァー!」

「ギャー! ギャー!」

 何だか、煩さが倍増したけど、卵が増えるのを期待するよ。


「さて、ひまわりの種も乾いただろうし、そろそろ油を絞ろう」

 ふぅ、それもあったね!

「このトレントも油を絞るのですよね?」

 当たり前だと笑われた。

「ミクは、料理に油を使いたいかい? なら、トレントの油だけで石鹸を作っても良いんだよ」

 悩むなぁ! フライドポテトとかは、ラードというか魔物の脂でも作れる。椿油は匂いが良いから、髪や身体に塗りたい。

 

「トレントの油は食用に向かないのですか?」

「いや、食べられないことはないとは思うが、匂いがスースーした感じだ」

 確かに枝を切っている時も、ヒバのような松のような香りがしていた。嫌いな匂いじゃないけど、食用に向くかはわからない。


「なら、ひまわり油は少し残して欲しいです。トレントの油は、ちょっと試してみます」

 師匠は、笑って頷く。

「トレントの油は、頭痛の軟膏にも良いのだ。食べるには、ちょっとキツいとは思うが、ミクなら何か思いつくかもな?」

 ああ、そんな香りだよね。

「頭痛の軟膏ですか?」

 頭痛薬ならわかるけど?

「まぁ、目を使いすぎて疲れた時とかは気持ちがリラックスして良いのさ。他にも精製すれば、傷の軟膏にもなる」

 ふうん、色々とあるんだね。覚えることがいっぱいだ。

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