第26話 蒸し器

 ヘプトスに私が欲しい蒸籠を作って貰いに行く。

 ポルトス師匠は養蜂箱を作っていた。ヘプトスは手伝いをしているみたい。

「ミク? 何か用かい?」

 ヘプトスは作業の手を止めた。

「後で良いから、こんな感じの蒸篭を作って欲しいの」

 木製の蒸篭でも、金属の蒸し鍋でも良かったけど、泡立て器と薪オーブンをルシウス師匠の所で作って貰うから、こちらに頼みにきたのだ。

 

「ふうん、鍋の上に置いて、蒸気で蒸すのだな。下は穴が空いている感じか! 上の蓋も蒸気が少し出た方が良いのかな?」

 これができたら、プリンと肉まんができる。お焼きも好きだけど、ふかふかの肉まん! 食べたいな。

「これで作った肉まんをあげるわ!」

 肉まんを食べた事もないのに、ピザの方が良いと文句を言いながらも、ヘプトスは作ると約束してくれた。


 この日の午後からは、砕いた薬草を量って、紙袋に入れていく作業だ。

「師匠、初めに、腹痛の薬を混ぜてから、紙袋に入れたら早くなるのでは?」

 師匠が笑う。

「いくら混ぜても、偏りがあったら困るだろう。一袋ずつ調合して行くのが、私のやり方だよ」

 腹痛と言っても、何種類もの煎じ薬がある。

 メモを取りながら、覚えていく。

「下痢止めは、下級薬草5、毒消し草3、上級薬草1」

 量って、袋に入れていく。今日は下痢止めだけ何袋も作る。紙袋には、下痢止めと書いておくよ。


「今日は、このくらいにしよう!」

 師匠は胃痛の煎じ薬を作っていた。私の知らない薬草も混ぜている。

 少しずつ覚えたい。


 まだ夕食には早いから、菜園に行って、あれこれ作業する。

 朝に収穫はするようにしているけど、夏はすぐに大きくなるからね。

「トマト、きゅうり……」

 トマトは需要があるけど、きゅうりはねぇ。ピクルスを作りたいけど、酢はワイン作りの秋まで少ししかないんだ。

 でも、塩はあるし、ハーブもある。

「きゅうりの一本漬け、お祭りで売っていたな」

 体調の良い夏祭り、一度連れて行ってもらったんだ。

 細い木の枝をナイフで削ればできそう。ナイフは0歳から使っているから、上手いんだ。


 夕食は肉のトマト煮込みにする。煮込んでいる間、木の枝を台所の椅子に座って削る。

 きゅうりは、洗って塩揉みしてから、ハーブと一緒に漬けてある。

「ミク? 何をしているの?」

 サリーは、今日は養蜂箱を頼みに行った後は、風の魔法の特訓で森歩きしていたみたい。

「これを細くして、きゅうりに刺して売ろうと思うの」

 ちょっと変な顔をされたけど、私が作るのだから美味しいのだろうと笑う。

「ふうん、きゅうりは狩人には不人気だと思うけど、手伝うわ」

 できれば、アリエル師匠に冷やして貰いたいな。

 15本ほど削れたので、きゅうりに刺していく。

 これをサリーの作ったガラスの器に持ち手を上に入れたら出来上がり。


「味見したいけど、アリエル師匠に冷やして貰いたいな」

 サリーが頼んでくれる。

「これを冷やすのね!」

 簡単に冷やしてくれた。これ、使えるようになりたいな。

「きゅうりの一本漬けです。食べてみて下さい」

 オリビィエ師匠もやってきて、皆できゅうりをぱりぱり食べる。

「美味しいな!」

 簡単だけど、美味しいよね!

「これを集会場で売りたいのですが、幾らで売れるでしょう?」

 オリビィエ師匠が銅貨5枚かな? と笑う。

「集会場の中じゃなく、前で売ると良い。狩人達は、中になかなか入らないからな」

 そうだよね!


「冷たいきゅうりの一本漬けです。さっぱりしますよ」

 サリーに手伝って貰う。

「ふうん、きゅうりはそんなに好きじゃないけど、今日は暑かったから食べてみるか?」

 狩人が一本買ってくれた。その場で一口食べて「美味い!」と言ったので、次々と買う人が増えた。

「これは、酒のアテにも良さそうだ」

 メンター・マグスも買ってくれたよ。

「明日も売ってくれ!」

 きゅうりは、毎日、大きくなるからね。

「はい!」と返事をしておく。


 肉のトマト煮込みときゅうりのサラダとパン!

「きゅうりのサラダは、一本漬けとは違う感じね」

 きゅうりを薄く切って塩揉みして、レモンとハチミツで味付けしている。

「これも美味しい」

 トマト煮込みがこってりしているから、シャキシャキきゅうりのサラダが口直しになる。

「ミクは、料理屋を開いたら良いのかもしれないな」

 うっ、アルカディアなら、オリビィエ師匠がいるから、変なちょっかいを出す森の人エルフもいないし、良いのかも? それに2歳だと知られているからね。

「でも、それは薬師の修業を終えてから考えます」

 オリビィエ師匠が「真面目だね!」と笑うけど、その為にここに来たんだもん。

 料理屋は、人間の町へ行ったり、あれこれ体験してからでも良いと思う。


「それは、そうと真夏になれば人間の町に行っている森の人エルフも帰ってくる。長老会のメンバーが揃ったら、狩人の村の問題を話し合うつもりだ」

 あっ、それはお願いしたい。

「でも、狩人の村の森の人エルフは頑固だから、こちらの言う事を聞くかしら? それに、大人はもう光の魔法を取得するのは無理かもしれないわ」

 うっ、パパとママにも長生きして欲しい。

「それは、あちら次第だ。こちらは、提案して、受け入れてくれなければ、仕方ないのかもな」

 それは分かるけど……。

「先ず、ミクは光の魔法を習得しないとな!」

 オリビィエ師匠に言われちゃったよ。

「そうね! スキルがなくても習得できると理解して貰わないといけないわ」


 サリーが少し考え込んでいる。

「私やミクが光の魔法を習得できたとしても、狩人の村の森の人エルフ達は、元々、二人は変わっていたからと思うかもしれません」

 あっ、そうなんだよね! オリビィエ師匠も難しい顔をする。

「ミクもここに来た時は、スキルを持っていない事はできないと考えていたからな。勿論、向き不向きもあるが、森の人エルフには光の魔法は備わっているのだが……それを納得させられるかが問題だ」


 アリエル師匠も難しい顔だ。

「人間の町で出会った狩人の村の森の人エルフも、かなり頑固な考え方だったわ。狩人としてのスキルを優先するのよ。魔法を使おうと考えてもいなかったわ」

 人間の町に出て行った森の人エルフは、狩人の村に残っている森の人エルフよりは、少しは新しい物を望んでいる感じがしたんだけど?


「それと、紙漉きや畜産やガラス作りの技術の後継者が不足している件も話し合わなくてはいけない」

 師匠達が、私やサリーにやらせたがっているのは、知っているけど、本業を終えてからだね。

「アルカディアの子も派手な狩人に憧れるけど、一応は何らかの職を身につけるように指導されている」

 

 学舎の友達を思い浮かべる。

「あれ? リュミエールは?」

 光の魔法のスキルを持っているし、狩人の親と森歩きもしているけど?

「リュミエールは、治療師といずれはアルカディアの結界の保護をする修業だな。錬金術にも興味があるようだが……空間魔法のセンスはなさそうだ」

 スキル以外の魔法も習うけど、なかなか習得できないのもある。

 光の魔法は全員がある程度は習得できるが、やはりスキル持ちは一段違う感じだ。

 私は、やっと守護魔法を掛けられるようになった程度だけど、サリーは安定しているし、ライトとかも使える。


「長老会の集会に、ピザとか焼いて欲しい。機嫌が良いと、光の魔法を忘れた狩人の村へ手を差し伸べる気になるかもしれないからな」

 それなら頑張るよ! でも、アリエル師匠は少し懐疑的だ。

「多分、長老会は賛成する人が多いと思うわ。ただ、私が心配するのは狩人の村が、こちらの提案を拒否するのではないかってことなのよ」

 えっ、寿命が長くなるのに拒否するの? まさかね!


「今までの生活が間違っていたと考えるのは、大人には難しいのよ。それに……習得できない森の人エルフもいるかもしれないから……」

 つまり子どもは習得できる可能性があるけど、大人は難しいって事だね。

 ママやパパには習得して欲しい!ミラとバリーは勿論だ。


「私にできるお手伝いなら、何でもします!」

 勢い込んで言ったら、オリビィエ師匠に頭をぽふぽふされた。

「ミクは、料理をしてくれるだけで十分だよ。それと光の魔法を習得するのを頑張ってくれ」

 サリーが、夏休みの間、光の魔法を教えてくれることになった。

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