第24話 ピザ屋?

 サリーと2人で水浴びをする。

 水も夏はぬるいから、気持ち良い!

 着替えた服を2人で洗濯するよ!

「ミクはピザを焼くのよね?」

 くるくる回る洗濯樽を見ながら、座って話す。

「うん、何だかいっぱいの人が来そうなんだ。あっ、師匠にマジックバッグを借りて、ロフトから椅子とテーブルを運ばなきゃいけないんだ」

 サリーは少し考えてから口を開いた。

「ミクのピザを食べる時にレモネードを出しても良いかな? レモンはミクのだけど……」

「うん! 良いと思うよ! 大人は酒を飲みたがるだろうけど、それは持って帰ってにしてもらうから」

 火食い鳥カセウェアリーの卵の殻を私から買ったから、サリーのお小遣いは減っているものね。


「アリエル師匠にレモネードを冷やして貰うわ!」

 私は、オリビィエ師匠にマジックバッグを貸して貰わなきゃ!

 洗濯物を干して、木の家アビエスビラに急ぐ。

 乾かすのは、後でサリーがしてくれるよ。まぁ、夏だからほっておいても乾くけどね。


「冷たいレモネード! 良いわね!」

 アリエル師匠は、快諾してくれた。というより、自分が飲みたいからかもね。

「マジックバッグなら使えば良いさ」

 こちらも簡単に許可が出た。


 サリーも一緒にロフトに上がってくれる。私は、まだライトが使えないからだ。

「あの折り畳み椅子とテーブルよね?」

 いつ見ても不思議だよ。マジックバッグの中に椅子やテーブルが入る光景はね。


 下に下ろして、レモンを採りに行く。

 これは、少し緊張するよ。だってキラービーの養蜂箱の近くに果樹を植えているからね。

「私が守護魔法を掛けてあげようか?」

 サリーが言ってくれるけど、頑張る。

「ううん、良いよ。さぁ、レモンを採りましょう」

 まだ青いのもあるから、黄色いのを選んで10個採る。


「ふぅ!」

 キラービーの柵の外に出たら、ホッとしちゃう。

「ミク、だから私が掛けてあげると言ったのに!」

 サリーに笑われちゃったよ。


 サリーが作った大きなピッチャーとコップ。どれもグリーンの火食い鳥カセウェアリー卵の欠片が細かく砕いて入っていて、なかなか綺麗。

 それを2人で洗って乾かす。


「テーブルと椅子を出すのを手伝うわ」

 2人ですると早い。それに楽しいよね!

 テーブルの上を拭いて、外の用意はできた。

「ミク、旗を忘れているわ!」

「うん、それは材料を揃えてからにするよ」

 すぐに来たら、バタバタしそうだもの。


 私が玉ねぎや燻製肉を切っている横で、サリーはレモンをスライスする。

 それをピッチャーに入れてハチミツと水で出来上がり。

「冷たくなれ!」

 アリエル師匠に冷たくしてもらって、少し味見だよ。

「夏は冷たい飲み物が美味しいわ」

 今日は、特に暑かったからね。


「そろそろ、旗を立てるわ」

 ピザ生地を何枚か作ってあるし、トッピングもセットしたからね。

 夕食もピザだから、師匠達のは先に焼こう!

 旗を立てて、師匠達のピザを焼いて、私達のも焼こうかな? と思ったけど、ヘプトスがやって来た。

「サリー、これを師匠達に渡して!」

 ここから、忙しくなった。


 学舎の知り合いだけでなく、大人も多くやって来たからだ。

「レモネードも美味しいな!」

 ガリウスも来て、皆と食べている。

 大人はお持ち帰りが多い。お皿は持って来て貰うよ。

 ピザは1枚銅貨50枚、レモネードは20枚! 

 メンター・マグスもお持ち帰り派だけど、レモネードもよく売れた。


「焼けるまで待っている間に、冷たいレモネードは如何ですか?」

 サリーの販売が上手いんだ。それに夕方だけど、まだ暑いからね。

 私は、ピザを焼くのに集中していたけど、サリーは何回かレモネードを作ってアリエル師匠に冷やして貰っていたみたい。


「そろそろ、ピザ生地がなくなるから、旗を下ろすわ」

 サリーに旗をしまって貰い、今日のピザ販売は終わりだ。

「えっ、終わったのか?」

 何人か遅れて来た人に文句を言われたけど、オリビィエ師匠が出てきて「終わりだよ!」と言うと帰った。

 オリビィエ師匠って怖がられているのかな?

 お客様は神様です! の日本とは全く違う接客態度だけど、ここではこれで良いみたい。

 

 私とサリーのと、もう一枚焼く。これは、早めに食べた師匠達に半分ずつ皿に乗せる。

「あら、嬉しいわ! 今度はワインと食べましょう」

 私とサリーはレモネードで食べるよ。

「なぁ、夏休みの間に何回かピザ屋を開いてくれないか? メンター・マグスにも頼まれたのだ」

 今日はかなりお小遣いを稼げたから、それは嬉しい! けど……。


「でも、修行もあるし……」

 オリビィエ師匠が、笑う。

「それもやるさ! 明日は乾かした薬草を薬研やげんで細かく潰したり、石臼で引くのを手伝って貰うよ」

 おお、薬師っぽい! しっかりと覚えなきゃ!


 結局、ピザ屋は数日おきに開くことになった。不定期なのは、雨の日にはしたくないからだ。

 

 夏は時々、嵐みたいな雨が降る。ザーザーとね!

「今日は、薬草を調合するのはやめておこう! 湿気そうだ」

 うっ、そうだけど、薬師っぽい修行を楽しみにしていたんだよぉ。

「ミク、本を読もう!」

 それは、良いけどさ……。

「あれ? この本は?」

 作者がオリビィエと書いてある。

「そう、若い頃に書いた薬草の本なんだ」

 それは、読みたい! 今日は読書の日だね。


「読むのも疲れるね」

 うーんと背伸びする。アリエル師匠は一日中よく読んでいるよ。

 外には出られないから、凝った物を作ろう。

 それと、前から欲しかった道具をガリウスに作って貰いに行こうかな?

「師匠、出かけて来ます!」

 サリーはまだ本を読んでいるけど、私は気分転換をしたくなった。

「良いけど、雨が酷いよ」

 それは平気! 皮のコートを頭から羽織っていく。


「ガリウス? いる?」

 こんな雨の日だけど、鍛冶場の煙は上がっているから、覗いてみる。

「ああ、ミク! 何か用かい?」

 ガリウスは、鍛治士のルシウス師匠の手伝いをしていたみたい。

「すみません、仕事中でしたか?」

 ガリウスが笑って手招きするから、鍛冶場に入る。ここも暑いね!


「前に小さな道具なら作って下さると言われたので……」

 はははと笑う。

「どんな道具なんだい?」

 簡単に泡立て器の図を書いて来た。ママがケーキを焼く時に使っていた泡立て器だよ。

「これは、料理に使うんだね」

 うん! と頷く。こんなのを頼んだら悪かったのかな?


「見せてみろ!」

 ルシウス師匠が紙を見て、唸っている。

「これで、何を作るのだ?」

「卵を泡立てて、甘いケーキを作るのです」

 ふむ、ふむと聞いていたルシウス師匠は、森の人エルフにしては筋骨隆々なゴツイ身体だけど、甘い物! と聞いて真剣になる。

 酒より甘い物が好きなのかも?


「人間の町でケーキを食べた事がある。四角い金属の箱で焼いていた」

 あっ、パウンドケーキだね。

「石窯で焼けるでしょうか? 私はピザのように平たいケーキを考えていたのですが……」

 ルシウス師匠の甘味魂に火がついた!


「冬になったら、外でパンを焼くのも寒いだろう。貴族の台所に薪オーブンがあった。それなら、ケーキが焼ける筈だ!」

 えっ、それは高価そうだよ。

「あのう、私はガリウスにこれを作って貰って、ピザをあげるつもりだったのです」

 つまり、お金が無いと伝えた。

「金ならオリビィエから貰う! いや、大丈夫だ。ケーキを10個くれたら良い」

 オリビィエ師匠に迷惑をかけたくないと首を横に振ったら、言い直した。


 ケーキ10個と薪オーブンが対価として妥当なのか? 前世では違ったよ!

「まぁ、受けておきなよ! 今日は私が泡立て器を作ってあげる。今度のピザを焼く日は、朝に教えてくれ。昨日は危うく食べ損ねかけたからな」

 ガリウスは、泡立て器をすぐに作ってくれた。

「使って、不具合があれば言ってくれ。こんなのを作るのは初めてだからな」

「ありがとう!」と言って木の家アビエスビラに帰る。


「師匠、ルシウス師匠が薪オーブンを作って下さると言われたけど、良いのでしょうか? ケーキ10個で良いと言われたけど?」

 オリビィエ師匠とアリエル師匠に爆笑された。

「良いさ! ルシウスがそれで良いと言ったのだからね。私達は、美味しい物を食べられるし、有難いよ」


 この日、泡立て器で白身をふんわりさせて、ホットケーキを焼いた。

「ハチミツとバター! 美味しいわ」

 アリエル師匠は、3枚食べたよ。

バターは乳を買って来て、サリーに攪拌してもらって作ったんだ。


「これをルシウス師匠とガリウスに持って行きます!」

 ガリウスには、ピザもあげるけど、薪オーブンを作ってもらえるお礼だよ。

 ルシウス師匠は、ハチミツをたっぷり掛けて、満足そうに食べた。

「うん、早く薪オーブンを作らなければな!」

 

 アルカディアでの生活、薬師の修行はまだまだだけど、他の事は順調だよ。

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