第23話 夏の牧場

 今日は一日中農作業になりそう。

「放牧地を耕すから、ミクも手伝ってくれ」

 サリーは、今日もウィトレウムさんの所で火食い鳥カセウェアリーの卵の殻のガラスコーティングを続ける。

「やっと1個できたから、もっと頑張ってみたいの。それに、失敗したので色々と作ってみたいから」

 今日もサリーとは別行動だ。


「昼は簡単に済ますけど、夜にはピザを焼くから、ウィトレウムさんにも持って行くと良いわ」

 アルカディアでは、子どもは大人をさん付けして呼ぶ。

 師匠は師匠、そして長老会メンバーは様つけだ。少なくとも大人の前ではね!

 大人同士は、基本は呼び捨てだけど、メンター・マグスはメンターと付ける。それが呼び名になっているみたい。


「ウィトレウムさんは、何故長老会に入っていないの?」

 あんなに素敵なガラスを作るのに不思議だ。

「彼女は、私達より偏屈なんだよ。長老会だなんて嫌だと拒否したのさ」

 ふうん、変人と呼ばれている師匠達より、偏屈なんだね。

 でも、師匠達がウィトレウムさんを気にかけているのは分かる。

 若い頃にガラス造りを教えて貰ったのもあるだろうけど、アリエル師匠もハチミツを持って行っていたからね。


「ピザを焼くなら、旗を立てないと皆が文句を言うわよ」

 サリーに忠告される。うっ、そうかも? 特に、マリエールとかエレグレースとかにね。

「夕方に立てるわ。昼は焼かないもの」

 多めにピザ生地を作っておこう。


 放牧地だった場所には、ヘプトスや狩人達も来ていた。

「やぁ、ミクも手伝いなんだな」

 リュミエールが農作業? 土の魔法じゃないよね?

「親に言われたんだ。昨日は当番だったし、2日も狩りに行けないんだ」

 なるほど! アバウトにだけど、1家に1人出している。耕すのが苦手な狩人は収穫をするみたい。


 それとリュミエールは、5歳だから物見の塔の当番もあるみたい。

「物見の塔の当番って退屈なんだよなぁ。半日、ぼぉと見ているだけだから」

 ヘプトスに呆れられた。

「見張るのが仕事だろ!」

「それは、分かっているし、ちゃんと見張ったさ」

 でも、退屈だと愚痴るのも、少し分かるな。

「夕方にピザを焼くから、食べに来たら良いわ」

 リュミエールが喜ぶ。

「私も食べに行くよ!」

 ヘプトスも来るみたい。


 何人か、周りで聞いていた人も来るかも? 木の家アビエスビラの前に椅子とテーブルを出した方が良いかも?

 ロフトから下ろせるかな? サリーとロフトを掃除した時に、折りたたみの椅子やテーブルを見つけたんだ。

 師匠のマジックバッグを借りたら、楽に運べるかもね?


 そんな事を考えているうちに、農作業が始まった。

 もう、鋤は要らない。

「先ずは、糞と寝藁を鋤き込んでくれ!」

 ヘプトスは、やはり上手い! リュミエールは、まぁまぁだね。

 私は、2人の間ぐらいかな?


 何人もでしたから、農作業はあっという間に終わった。

 今日中、農作業だと思っていたよ。

「お疲れ様!」と解散したけど、私とヘプトスとリュミエールは、少し遊ぶことにする。


「森の奥には行ってはいけないよ!」

 前はアルカディアの外には出てはいけないと師匠に言われていたけど、ヘプトスとリュミエールが一緒だから、許可がおりた。


「ミクはあまり森歩きはしていないのだろう?」

 リュミエールは、やはり少し偉そうだ。

「師匠と薬草採取には出かけるわ」

 へぇと驚いたみたい。

「まだ小さいのにね!」

 お兄ちゃんぶりたいのかな?

「どこに行くの?」

 2人は木の枝に立ち止まって考える。無計画だったんだね。


「ミクがいるから、森の奥は駄目だ。そうだ、火食い鳥カセウェアリーを生け取りにしよう」

 卵を増やしてくれとは言われているけど、生け捕りにできるのかな?

「野生の火食い鳥カセウェアリーは火を吐くわよ。キックされると怪我をするわ」

 ヘプトスも反対する。

「生け捕りにしても、運べないよ! それより夏の牧場に行ってみないか? ミクは行った事がないだろう?」

 やはりリュミエールより、ヘプトスの方がしっかりしている。


「行きたい!」

 どんな所か見てみたかったんだ。

「なら、そうしよう!」

 2人はよく知っているみたい。私も学舎で地図は見たけど、行ったことがないからね。


「ミク、遅いぞ!」

 リュミエールは、やはり速い!

「遊びなんだから、ゆっくりでも良いさ」

 ヘプトスは、優しい。

「あっちだよ!」

 先に行っているリュミエールが木の上から指す方向には、小高い丘があった。

「まぁ! お花畑もあるのね! サリーも連れて来たかったわ」

 草の中には花を付けるものも多い。

火食い鳥カセウェアリーの餌にもなりそうだな」

 男の子って花に興味は無さそう。


 恐ろしそうな山羊や羊や牛は、柵の中で草を食べているから、近づかないよ。

「ヴェルディさんは、何をしているの?」

 かなり離れたお花畑で、持って帰る花を摘んでいるのだけど、忙しそうに棒を振っている姿が気になる。


「ああ、あれは干し草を作っているのさ。冬に食べさせないといけないからな」

 そんな事も知らないのか! ってリュミエールが教えてくれる。

「私の村では家畜は飼っていなかったのよ。エバー村やニューエバー村では飼っているけどね」

 ヘプトスは少し考えて口を開いた。

「なぁ、火食い鳥カセウェアリーは冬はどうするんだ? 秋に潰すのか? 干し草は食べないかな?」

 3人共、顔を見合わせるけど、誰も知らない。


「ヴェルディさんに訊けば良いんじゃない?」

 リュミエールとヘプトスが微妙な顔をする。

「えっ? 何か?」

 リュミエールが小さな声で教えてくれた。

「アルカディアの7変人の1人なのさ!」

「それって、私の師匠も含まれているんじゃないでしょうね!」

 ぷんぷん怒ったら、リュミエールが慌てて言い訳をする。

「私が言っているわけじゃないよ。それにオリビィエ様とアリエル様は弟子を取ったから、変人じゃなくなったし」

 そうなら良いけど……ヘプトスの顔は微妙だよ!


「ヴェルディさん、ウィトレウムさん、カルディさん、あと誰だっけ?」

 カルディさんって、紙漉きをしている人だよね。

「もしかして、物を作る人を悪く言っているのかしら?」

 ヘプトスが慌てて、リュミエールを諌める。

「私の師匠も大工や木工細工をしているけど、変人じゃない。ええっと、長老会に入らないから、そう言われているだけだよ。後、性格的に難しい人ってことかな?」

 後の2人は、今はアルカディアにいないみたい。放浪の吟遊詩人だそうだ。それは、少し変人っぽいかな?


「ヴェルディさんに訊いてみるわ」

 2人は微妙な顔をしたけど、一緒に丘を登ってくれた。

 近づくと、ヴェルディさんが長い棒の先の鎌で、リズミカルに草を刈っているのが見えた。


「ヴェルディさん!」

 声を掛けたら、作業をやめてこちらを見る。うっ、少し怖い。

「なんだ!」

 口調も怖い! 思わずヘプトスの後ろに隠れちゃった。

火食い鳥カセウェアリーは干し草を食べるでしょうか? 冬に食べさせてたら、潰さなくても良いかなぁと思って……」

 睨まれている? いや、考えているのだ。

 目つきが悪いから、怖い人に見えるけど、私の質問に真面目に答えようとしてくれている。

 ヘプトスの後ろから出る。


「どうだろうな? 野生の火食い鳥カセウェアリーは、雪の下の枯れた草や木の皮や葉を食べて冬を越すのだから、干し草も食べるかもな。少し作って与えてみたら良い」

 やはり、見た目よりは親切だ。

「ありがとうございます! 帰って、師匠に相談してみます」

 ヴェルディさんは、草刈り作業に戻ったので、私達はアルカディアに帰ることにした。


「師匠! 干し草を火食い鳥カセウェアリーは食べるでしょうか?」

 オリビィエ師匠が首を捻っている。

「さぁ、どうかな? 今、やっても食べそうにはないけど、試しても良さそうだ」

 そりゃ、干し草より草や野菜や虫の方が好きそうだよね。

「ははは、夏の牧場に行ったのだな。その花は、早く水切りしないと萎れるぞ!」

 水切りをして、サリーが作った花瓶に生ける。

 昼は、簡単に肉を焼いて、パンと食べた。トマトのサラダは切るだけだからね。

 サリーは、午前中に3個成功したそうだ。

「昼からは、少し休むわ。暑くて!」

 だよね! 水浴びした方が良さそう! 私もだけどさ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る