第22話 ガラス造り

 ウィトレウムの家に行く前に師匠が私に何か美味しい物が無いかと訊く。

「まぁ、ちょっとしたプレゼントがあると良いなと思ったんだ」

 今朝はまだサンドイッチを作っていない。

「サンドイッチかお焼きならすぐにできますよ」

 お焼きも好評なんだよね。

「お焼きかぁ、それも良いな」

 サリーに手伝ってもらってお焼きを作る。

 パン種を使うから、中の具だけだよ。

 かぼちゃ餡と肉とキャベツ炒め餡にする。

 

「これって作ってマジックボックスに入れておくと、焼くだけで良いわよね」

 サリーの言う通りだけど、今はキラービーの死骸が残っているし、綺麗にしないと食品を入れる気にはならない。

「うん、あれが無くなったらね」

 でも、昼の分は作っておくよ。


「美味しそうだな! これならウィトレウムも機嫌良く窯を貸してくれるだろう」

 うん? 貸して貰うために砂を取って来たのでは?

 サリーと顔を見合わせる。ウィトレウムって気難しいのかも?


「やぁ、ウィトレウム、窯を借りに来たよ」

 ウィトレウムの家は木の上にあるそうだけど、ガラス工房は地面に作ってある。

 師匠が声を掛けて扉の中に入ると、暑かった。

「オリビィエ、あんたが弟子たちにガラス作りを教えるだなんて、明日は雹が降るんじゃないか」

 ああ、気難しそうな白髪の森の人エルフが椅子に座っていた。


「これ、お焼きと言うんだ。それと砂は何処に置いたら良いかな?」

 オリビィエ師匠にしては低姿勢だよね?

「砂はいつも一緒だよ。あんたがガラス造りを習った時からね」

 ははん、オリビィエ師匠はウィトレウムにガラス造りを習ったんだ。

「そちらのはアリエルの弟子だろう? 工芸品作りまで教える気なのかい?」

 アリエル師匠もガラス造りの弟子なのかも?


「砂は置いておくよ。さぁ、ミク、サリー、よく見せて貰うんだよ」

 気難しそうなウィトレウムだけど、指導は丁寧だった。

「先ずは、基本のガラス瓶を作るよ」

 ドロドロに溶けたガラスを鉄の棒で絡めとり、筒を吹く。


「わぁ、綺麗!」

 魔法みたいに、膨らんだガラスの球が瓶になっていく。

「ここからは、形を整えるのさ」

 革を鞣したのに押し当てながら、棒をクルクル回す。

「そして、このヤットコで切り離して出来上がりだ」

 あっという間にガラス瓶ができた。


 見ていると簡単そうだったけど、私もサリーも苦戦したよ。

 オリビィエ師匠は、横で薬瓶をいっぱい作っている。

「同じ形、同じ大きさにしないといけないんだ」

 ふぅ、歪なガラス瓶しか作れない。

 それに、めちゃくちゃ暑い!


「少し、休憩しよう!」

 外に出たら、涼しい風が気持ちよかった。

「まぁ、一回ではできないさ」

 薬の瓶は同じ大きさだ。それを作れるようになるのかな?

「何度も練習しているうちにできるようになるから、心配しなくて良い」

 

 休憩して、またガラス造りをしたけど、歪になっちゃうね。

「オリビィエ、あんたもなかなか厳しいね。アレは使わさないのかい?」

 ウィトレウムが面白そうに笑う。

「ウィトレウムがアレを使っても良いだなんて、丸くなったもんだねぇ。私が使った時は、棒を持って追いかけて来たくせに!」


 アレ? 何かな? サリーと2人で首を捻る。

「これで型を取ると同じ瓶になるのさ」

 オリビィエ師匠がマジックバッグから瓶の型を取り出した。

「ふん! そんなのは邪道だよ」

 ガラスの球を型に入れて膨らませると、同じガラス瓶ができた。

「今回は、これで作ろう。でも、慣れたら自分で作れるようになるさ」

 ふぅ、初めからこちらにさせて欲しかったよ。


 私は、トマトソースをいっぱい保存したいから、ガラス瓶と蓋を作る。

 サリーは、少し作ったけど、火食い鳥カセウェアリーの卵の殻の工芸品を作りたいみたい。

「それはアリエルに教えてもらった方が良さそうだ。だが、暑いから今日は来ないだろう」

 確かに夏の午後は暑い! 特にガラス窯の前はね。


 薬瓶も型があるから作れるけど、これはオリビィエ師匠が作った。勿論、型なんか使わずにね。

「サリーは、もう帰っても良いよ。明日の午前中にアリエルから火食い鳥カセウェアリーの卵の殻のガラスコーティングを習うと良い」

 くすくすとウィトレウムが笑っている。

火食い鳥カセウェアリーの卵の殻のガラスコーティングは、難しいよ。さて、何個できるかな?」

 えっ、そんなに難しいの?

「ははは、ミク。サリーに卵の殻を売った方が良さそうだな」

「でも、失敗したらサリーは損をしちゃうわ」

 ウィトレウムが、けたけた笑う。

「アリエルがついているのだから、まるまる損にはさせないさ。あんたに払った額程度は儲けさせるよ」

 ふうん、そうなのかな?

「まぁ、半分売って、後は取っておいても良いさ」

 この日は、いっぱいガラス瓶を作って終わった。


 サリーは早く帰ったので、お風呂を沸かしてくれていたよ。

 アリエル師匠以外は、汗だくになったからね。


 次の日、私はサリーに火食い鳥カセウェアリーの卵の殻を半分売った。

「お金なんか良いのに……」

 でも、サリーは頑固だからね。

「初めは失敗する方が多いとアリエル師匠が言っていたもの。でも、ガラスコーティングできれば、倍の値段で売れるから!」

 そうなると良いな!


「今日は、ミクは森歩きでしょ! 頑張ってね」

「うん!」

 ガラス瓶も薬師の仕事だと思うけど、やはりメインの薬を作る方をやりたい。


「ミク、行くよ!」

 師匠と森の奥まで行く。

「今日は、上級薬草と毒消し草と痺れ草を探すよ」

 上級薬草は、前に教えてもらっている。

「毒消し草は、水辺に多いんだ」

 ラメイン川の近くを探す師匠の後ろをついて行く。

 時々、上級薬草を採取するけど、なかなか毒消し草は見つからない。

「もっと森の奥に行かないと無いかもな?」


 ラメイン川を超えたら、亜竜や竜が住む地区になる。

 これは学舎の森の地理で習ったんだ。

 リュミエールは、親と狩りに行くけど、ラメイン川を越えていないと言っていた。

 親だけの時は、勿論、越えているよ。


「竜がいませんか?」

 オリビィエ師匠が笑う。

「竜がいたら、ミクは木の上に逃げるんだよ。でも、そうそう竜には遭遇しないさ」

 だと良いけど……。


 ラメイン川は狩人の村の近くも流れていたけど、そこよりは幅も狭いし、大きな岩がゴロゴロあるから、師匠の後を飛んでついていく。


「ああ、これが毒消し草だよ。葉っぱの裏が紫色なのだ」

 なんだかドクダミみたいな匂いの薬草だね。

 でも、どんなのか分かったから、毒消し草を探す。

 薬草探しは、目に魔力を集中させてすると見つけやすい。

 

「これも育ててみるつもりかい?」

 オリビィエ師匠に笑われた。下級薬草は少しは増やせたけど、上級薬草は枯れちゃったんだ。

「はい! 試してみても良いですか?」

 トライしなきゃね! 1株、根っこから掘って籠に入れる。


「そういえば、ここら辺で火食い鳥カセウェアリーを見たと言っていたね」

 狩人達は、卵を増やしたいみたい。茹でるだけで食べられるからね。

「卵を温めさせたら、火食い鳥カセウェアリーは増えませんか?」

 雄もいるのだから、有精卵じゃないの?


「どうかな? 生け捕りの方が早くないか? まぁ、見つけたら捕まえよう。それと、油が絞れるトレントを見つけたいな」

 私は、まだトレントが見分けられない。

「普通の大木とトレントの違いは、何処でしょう?」

 師匠に笑われたよ。

「トレントは歩く! 普通の木は歩かない。明らかに違うよ」

 えっ? 歩いてなかったよね?

「あれは、まだ春で寝起きだからな。冬は歩かない。じっとしているが、夏は歩いているぞ。より日当たりの良い場所を探しているのだけどなぁ」

 師匠は見つけられなくて残念そうだったけど、私はホッとしてアルカディアに帰った。


「ミク、ごめんなさい! 私は全部失敗したの。アリエル師匠が3個はやってくれたけど……」

 やはり難しかったみたいだ。

「良いのよ。でも、またやりたかったら火食い鳥カセウェアリーの卵の殻ならいくらでもあるから」

 サリーは、少し迷っていたが、買いたいと言う。

「あげても良いのだけど」

「それは駄目! ちゃんと買ったのをやらないと、駄目な気がするの」

 それは、何となくわかる。

 

 この日は、サリーは1人でウィトレウムの所に行って、何とか1つ成功させた。

「ガラスコーティングされたら、よりグリーンが鮮やかに見えるわね!」

「ありがとう! それと失敗した卵の殻の欠片で、これも作ったのよ」

 グリーンの卵の殻の欠片が閉じ込められた花瓶、なかなか綺麗だよ。

「これに花を飾りましょう!」

 アルカディアの中は、花盛りだからね。

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