第21話 夏休みだ!

 私はガリウスに大きなピザを焼いてあげ、サリーは師匠にガラス瓶を貰って生姜ハチミツをあげた。

「学舎に来なくなっても、困った事があったら言えよ!」

 ガリウスは、鍛治の修行をするみたい。

「作って欲しい道具ができたら、頼みに行っても良い?」

 ガリウスが笑って頷く。

「小さな物なら、ピザと交換で作ってやるよ」


 ピザは学舎で大評判だ。ただ、焼き立てじゃないといけないのが、少し厄介なんだよね。

「簡単な魔導具とピザ10枚を交換しても良いわ」

 マリエールは、錬金術を習っている。

 少し、興味があるけど、夏休みは薬師の修行と菜園も忙しい。それにガラス作りを習わないと薬瓶ができないからね。


「10枚も食べるのか?」

 リュミエールが驚いている。

「違うわよ。ミクがピザを焼く時に10回食べるの」

 それ、ちょっと面倒くさいな。

「夏休みは、薬師の修行で忙しいから、ピザを焼くかどうかはわからないよ」

 ブーイングが起きた。

「学舎も休みだから、焼けば良いよ!」

「そう言うリュミエールだって、狩人の修行をするんでしょう? 昼にはいないじゃん!」

 ガリウスやマリエールはアルカディアにいると笑う。


「ピザを焼く日は、旗を立てたらどうだ?」

 メンター・マグスは、ピザをアテに酒を飲みたいみたい。

「それ良いわね!」

 エレグレースまで、そんな事を!

「何枚もは焼けないわよ」

 たまには焼いても良いけど、ずっと焼くのは嫌だからね。

「私の家は木の家アビエスビラの横だから、すぐに買いに行けるよ」

 ヘプトスが余裕を見せつける。リュミエールが後ろでベーと舌をだしているよ。


 こうして、学舎は夏休みになった。成績表とかは無い! やったね! 

 勉強はかなり頑張っているけど、魔法実技と武術実技は酷いもの。


「そうか、夏休みになったのなら、ひまわりを収穫しよう」

 それで油を絞って石鹸を作るのも薬師の修行だけど、もっと薬師っぽいのもしたいな。

「ふふふ、ミクも焦りすぎだわ。サリーも、もっと他の事もしたら良いのよ」

 アリエル師匠に笑われたけど、薬師に早くなりたいんだもの。


「石鹸は、身体を清潔にできるから、薬師の仕事の一部だよ」

「はい!」と答えるけどね。

「それと、そろそろトレント狩りもしよう」

 えっ、そちらより薬草採取がしたい。

「薬草も採取するさ。それをしながらトレントに遭ったら討伐するのさ」

 それなら良いかも?


 師匠たちが夏休みの課題を決める。

 先ずは、ひまわりの収穫、乾かして種を取って、油を搾る。

 サリーも収穫は手伝うけど、石鹸作りは手伝わない。


 それと、私とサリーにガラスの作り方を教える。

 これも基本の瓶作りは一緒だけど、私は薬瓶を習い、サリーは火食い鳥カセウェアリーの卵の殻にガラスコーティングするのを習う。


 後は、森歩き! 私は薬草採取しながら、トレント狩り。

 サリーは、風の魔法で狩りをするみたい。アリエル師匠って狩りが好きなのかな?


 ひまわりの収穫は、狩人の村でもやっていたけど、ここでは魔法の練習も兼ねる。

「サリー! 風の魔法で茎を切るのよ! ウィンドカッター!」

 アリエル師匠がザザザザッとひまわりの一列を切った。

 サリーは、それを真似しているけど、1本ずつだ。


 私は、ナタで切った方が早いと思うけど、土の魔法の練習だ。

「まぁ、ひまわりはトマトと違うから気楽にやってみよう。ストーンバレット!」

 オリビィエ師匠のストーンバレットって、普通の石礫じゃないよ。

 石の円盤が、ひまわりの茎をシュパパパパッと切断していく。

「ストーンバレット!」

 私のは1本も切れず、茎が折れただけだ。


 少しオリビィエ師匠が考えている。

「これでバラの鞭を出してみよう」

 バラの実を渡してくれた。

バラの鞭ローズウィップ!」

 トゲトゲのついた鞭なんて、痛そう。

 それでひまわりを刈っていくけど、どう見てもナタの方が早い。


「うん、今日はナタで刈ろう」

 つまり、練習だっただけだね。

 ナタは割と上手く使える。

「ミクは、他の武器よりもナタなのかな?」

 オリビィエ師匠が考え込んでいる。

 ナタって武器なの? まぁ、叩けば怪我をしそうだけどさ。


 花は種を取るために乾かす。これはサリーが手伝ってくれる。

 私は残った茎をナタで切って、耕す。

 これは土の魔法で、かなり上手にできるようになった。

 ついでに鶏糞の乾かしたのも耕しておく。

「ちょっと休ませてから、ひまわりの種を撒こう!」


 午前中でひまわりは収穫したので、昼からはガラス瓶を作る準備だけど、何をするのかな?

 昼食は簡単に済ませたよ。パンとオムレツ。オムレツにはトマトと玉ねぎを刻んだのを入れてある。

火食い鳥カセウェアリーを飼って良かったけど、もう少し数を増やせると良いわね」


 それは集会場でもよく言われるんだ。

火食い鳥カセウェアリーを見かけたぞ」

 なんて親切な言葉を掛けてくる森の人エルフもいる。卵は人気だからね。

「ミクは、あと何羽ぐらいなら世話できる? 冬には全部は飼い続けられないと思うから、あまり増やしたくは無いのだが」


 うっ、それはエバー村の山羊でわかっているけど、潰すのは少し嫌だ。

 だって、火食い鳥カセウェアリーが火を吐く事はないんだもん。

 満足そうに鶏小屋で餌と水を啄んでいるのを見ると、何とはなくね。

「冬の餌はとうもろこしになりますか?」

 アルカディアも冬は菜園はできない。

 キャベツとかは塩漬けにするみたいだけど、火食い鳥カセウェアリーにはあげられないよね。


「ううん? 私は火食い鳥カセウェアリーに詳しくないが、ヴェルディに訊いてみてやるよ。うむ、野菜をマジックボックスに入れておく手もあるな」

 だよね! でも、それは私達用にするつもりだったんだ。

 今は時間が止まるマジックボックスの中には、まだキラービーの死骸が少し残っている。

 夏休み中に綺麗にする遣り方をオリビィエ師匠に教えて貰って、秋に食糧を詰め込む予定だった。


 昼からオリビィエ師匠と私とサリーは森歩きに行く。

「サリーは弓、ミクはこれを持って行きな」

 これ? 斧じゃない? でも、パパが持っていたような大きさじゃない。

「これは手斧だよ。ほぼナタと同じ使い方で良いし、根っこを切断できるから慣れておくと良い」

 根っこを切断って、トレントだよね?

「はい」と腰のナタと交換する。少し重いよ。


 森に入って、オリビィエ師匠はずんずん奥へと進む。木と木を飛んで移動するのだけど、時々止まって付いて来ているか確認してくれる。

 かなり、奥に来た気がするけど、まだまだみたい。


「師匠、どこまで行くのですか?」

 枝の上で休憩して、サリーと水筒の水を飲む。

「あの山の麓の滝までだよ」

 木の枝の上に立ち上がって、かなり遠くの山を見る。

「遠いですね!」

「まぁ、大丈夫だろう」

 朝から来たら良かったね。


 そこからは、師匠について行くのに必死だったよ。

 ラメイン川を見ながら、木と木を飛んで山を登って行く。

「もう少しだよ!」

 ぜいぜいと息が上がっている私たちに、師匠が声を掛ける。

 木と木の移動だから、山道も同じだろうと思ったけど、上の枝へ、上の枝へと飛ぶから、やはりしんどい。


「降りるよ!」

 オリビィエ師匠が地面に飛び降りる。私は、数本下の枝に降りてから、飛び降りるよ。

 森からラメイン川に出たら、滝が見えた。

 崖から一筋、水が落ちている。


「あの滝壺付近の砂がガラスの素材になるのさ。ガラス窯を使わせて貰う代わりに、ウィトレウムに多めに砂を取って行こう」

 砂を師匠のマジックバッグの中に詰めていく。

 サラサラで気持ち良い。


「さて、帰ろうか!」

 アルカディアに帰った頃は、夕方だったよ。

 疲れたから、今日は肉を焼いて食べる。


「明日はガラスを作ろう!」

 オリビィエ師匠は疲れないのかな? 私もサリーもこの夜は本も読まずに眠ったよ。

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