第18話 グリーンの卵
前世でも色々な色の卵があったのかもしれないけど、白か薄い黄色か茶色ぐらいしか知らなかった。
「ミク? どうしたんだい?」
台所で籠のグリーンの卵を眺めている私にオリビィエ師匠が声を掛けた。
「あまりに綺麗な色だから……」と誤魔化したけど、バレた。
「ははは……中がどうなのか怖いのかい?」
ぶー! そりゃ少しビビっていたけどさ。
「あれ? 師匠は何故ここに?」
台所にオリビィエ師匠が来る事は滅多にない。
「まぁ、用事があったんだよ。
あっ、それは前世でも同じような事を聞いたよ。
傷に卵殻膜を貼り付けたら、治りが速いとか。
「貼り付けるのですか?」
オリビィエ師匠は、首を横に振る。
「いや、乾燥させ、砕いて、煎じ薬に入れるのさ」
ふうん? それで効き目があるんだね。
「だから、なるべく綺麗に割って欲しいんだ。それに
へぇ、知らなかった。
「
それは、もう壊れているんじゃない?
「卵は、この包丁で真ん中辺りを切るんだ。やってみるかい?」
卵を洗ってから、器の中に置いて、包丁で真ん中を「えい!」と力を込めて切る。
「固いですね!」
何とか切れて、良かった。中は白身と黄身だ。グリーンの黄身でなくて良かったよ。何となくね! 今回は贅沢に2個使おう!
大きいから、前世のLサイズ卵の4倍はありそう。つまり8個分使うんだ。
「その卵殻膜を取って、洗ってから、乾かすんだ。ザルに並べて、日陰でね!」
卵殻膜を外すのは、所々、千切れたりしたけど、何とかやれた。
「これは、ミクの仕事だから、1個分の卵殻膜で10銅貨払う」
下働きが条件で、修行させて貰っているのに、オリビィエ師匠は私にお駄賃をくれるし、内職を斡旋してくれる。
「良いのですか?」
大きな溜息をつく。
「ミクもいずれは独り立ちするんだよ。その時にお金がないと困るだろ? 薬師だからって、すぐには食べてはいけないのだよ。ある程度、信頼されないと薬も売れない。宿代や食費も必要だよ」
ぽふぽふと頭を撫でてくれる師匠に「ありがとうございます」としか応えようがない。
「さぁ、卵があれば色々な料理ができるんだろう? 楽しみにしているよ」
うん、自分でできる事をしよう。
「今夜はご馳走ですよ!」
芋を湯がいている間に、玉ねぎを薄切りにする。
そして、燻製した肉も薄切りにして、脂身で玉ねぎと炒める。
「ミク? 何か手伝おうか?」
サリーが卵を使って何を作るのか覗きに来た。
「ううん、大丈夫! それより、守護魔法の掛け方を後で教えて!」
メンター・マグスやオリビィエ師匠に何回も教えて貰ったけど、ぼんやりと暖かい感じしか分からないんだ。
「うん、私で教えられるか分からないけど」
「お願い!」
サリーは、頷く。
「ミクも
サリーは、やはり親切だよね!
「ありがとう! でも、早く自分で掛けれるようになりたい。それと、少し考えているんだ。
サリーは眉を顰めている。
「それは危ないわ! 駄目よ!」
そうかな? いけると思ったんだけど?
「ミクが掛けれるようになるまでは、私かオリビィエ師匠に掛けて貰うのよ。それが嫌なら、頑張らなきゃ!」
うっ、毎回、オリビィエ師匠に掛けて貰うのが悪いから、あれこれ考えたんだけどな。
「サリーは上達が早いなぁ」
つい、愚痴ってしまった。
「ええっ、ミクはあれこれ出来る事が多いじゃん!」
そう見えるんだ! びっくり!
「植物成長スキルも凄いし、料理も上手い! それに、薬師の修行も頑張っているよ」
慰めて貰うと、やる気が湧いてきた。
「うん! 頑張るよ! あっ、このグリーンの卵を使った工芸品をアリエル師匠が持っているって聞いたけど?」
茹でた芋をザルにあげて、玉ねぎと燻製肉を炒めているフライパンに入れる。
サリーは、首を捻って考えていたけど、卵を解き終わった時、大声を出す。
「あああ、もしかしたらアレかしら? 本棚の上で埃を被っていたのよ」
ふうん、壊れてはなかったみたい。
「とても綺麗で……とても
えっ、酷いよ! この卵の殻もグリーンで綺麗じゃん!
「今日は、卵料理よ!」
後で見せて貰う事にして、フライパンに卵を流し入れる。
ジュー! と音がして、卵液の周りが盛り上がる。
ここからは、少し忙しい。グルグルと木のフォークで回して、全体に火が通るようにする。
そして、弱火にして、蓋をして蒸し焼きするんだ。
じっくりと焼いて、蓋を取ったら、大皿を被せてひっくり返す。
分厚いスパニッシュオムレツだよ。ここには、スペインはないけどね。
「ああ、良い香りだわ!」
「表をひっくり返して焼けば出来上がりよ」
皿から、芋いりオムレツを滑り落として焼く。
「サリー、スープとパンを出して!」
これは最後にしよう!
「焼きたてですよ!」
大皿に芋入りオムレツを乗せて、テーブルに運ぶ。
「おお、これは美味しそうだ!」
アリエル師匠も「久しぶりに卵を食べられるわ」と喜んでいる。
4つに切ってあるから、自分の前の皿に取って食べる。
「ミク、美味しいわ!」
「芋と卵は合うのね!」
オリビィエ師匠は黙って完食だ。
「美味しかった!」
良かった!
「そうだ! アリエル師匠、ミクに
食後、サリーが置物を持ってきてくれた。
「凄く綺麗!」
何だか、前世のファベルジュの卵みたい。本で読んで、欲しくなったけど、値段を知って言わなかったよ。
あれは卵じゃなくて、卵型の宝飾品だったと後から知ったけどね。
「これが
アリエル師匠が嬉しそうに笑う。
「これは若い頃に作った物の1つよ。開けて見て!」
「えっ、開くの?」
サリーも知らなかったみたい。
「埃を拭いただけだもの」
なら、サリーに開けて貰おう。私が差し出すと「良いの?」と目で訊いてくる。
「うん」と頷くと、サリーが慎重な手つきで、卵をパカっと開ける。
「ああ、中に女の人と男の人がいるわ!」
アリエル師匠が「貸してみなさい」と卵を受け取る。
それを逆さにすると、平たくなっていた金属を立てて、ネジを巻く。
「あっ、音がしたわ!」
「踊っている!」
私とサリーの目がまん丸だと、オリビィエ師匠とアリエル師匠が笑う。
「人間の町で暮らす時に、ほとんど売ったのよ。他の人と一緒の部屋で寝るのは嫌だったし、高く売れたから」
あっ、アリエル師匠も独立する時に準備金がいったんだね。
「サリーもミクもお金は幾らでも貯めておいた方が良いわよ。人間の町ではお金が無いと困る事が多いの」
森の中は、魔物がいるけど、それを討伐すれば、ほとんどお金は必要ない。布とか金属を買う必要はあるけど、それも物物交換で何とかなる。
「そうか! お金を貯めなきゃね」
2歳児の言う事じゃないけど、ここは厳しい世界だからね。
「明日の朝は、早いわよ! 早く寝なさい」
アリエル師匠は、
「ミク、当分は一緒に世話をしよう!」
それは有り難い言葉だけど、信頼されているサリーとの差が身に染みるよ。
守護魔法を早く掛けれるようにしよう!
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