第17話 家畜の世話

 火食い鳥カセウェアリーを鶏小屋に放す前に、餌と水をいっぱいやっておく。水は水入れに溢れるほど、餌箱にはにんじんの葉を山ほど入れたよ。

 怒らせて、火を吐かれるのは嫌だからね。


火食い鳥カセウェアリーは何を食べるのですか?」

 これ、大事だから師匠に聞く。

「草でも、野菜でも、ハーブでも、果物でも、残飯でも何でも食べるよ。あっ、虫も食べるぐらいだから、肉も食べるんじゃないか?」

 それって、もう鶏じゃないじゃん!


「ミントも食べますか?」

 食べるそうなので、ミントを鶏小屋の中に撒いて、成長させておく。

 他のハーブも撒いておこう! オレガノ、タイム、フェンネル、バジル! ローズマリーやラベンダーは挿し木して増やしてから、やろう。

 ハーブは基本的に雑草に近い。ミントなんて、蔓延ってしまう。


「あと、時々、骨の砕いたのをやると卵が割れ難くなると聞いたぞ!」

 骨は、スープを取った後のでも良いのかな? カルシウムが必要なら、良いのかも?


 前世の鶏は、玉ねぎやキャベツは食べさせたら駄目だった気がするけど? エバー村の山羊もそうだったよ。

「食べさせたら駄目な物は無いのですか?」

 オリビィエ師匠に笑われたよ。

「彼奴らは魔物だよ。自分で食べてはいけない物は、食べないさ」

 ふぅ、なら何でもやってみて、食べない物はやらなきゃ良いのだ。

「穀物も好きだが、それは勿体無いな。籾殻は食べるのかな?」

 何だか怒って、火を吐きそう! 今年から、とうもろこしを多く植えよう。


「そろそろ、放すぞ」

 鶏小屋に火食い鳥カセウェアリーを5羽放す。

 蔦も解くと、小屋の餌箱の中の人参の葉をグッグッと啄む。

「ほら、餌があれば火なんか吐かないさ。あとは、虫を捕まえて投げてやったら喜ぶぞ」


 虫ねぇ……森の虫は大きくて苦手なんだけど……。そうだ、キラービーも大きいね。

キラービーの死骸が山ほどあるけど? 食べるかしら?」

「食べるかな? 試してみよう!」

 言った瞬間、師匠は森に行って、キラービーの死骸をマジックバッグに入れて帰ってきた。

 やはり、かなり私に合わせてゆっくりと移動していたみたい。


「これを投げてみろ!」

 うげぇ! キラービーの死骸を指で摘んで、鶏小屋の中に投げる。

 キラービーは、ドッジボールぐらいの大きさだ。前世だったら、指で摘んで投げたりできなかったね。


「ガルルルル!」

 パッと1羽の雌の火食い鳥カセウェアリーがジャンプして、キラービーを咥えた。

 他の火食い鳥カセウェアリーと啄んで、あっという間にキラービーを食べた。


「どうやら、好物みたいだな」

 でも、今日や明日は良いけど、キラービーの死骸も腐るんじゃないの?

「ふふふ、良い物があるんだ! ついておいで」

 オリビィエ師匠について、木の家アビエスビラのロフトに上がる。

「この箱を持って降りよう!」

 前世のみかん箱みたいな大きさの箱を、師匠と鶏小屋の前まで運ぶ。


「ここにキラービーの死骸を入れておけば、腐らないさ。これは、実験用に作ったんだ。時間停止の魔法がかかっているマジックボックスさ」

 師匠! どれだけ凄いの! 

「そんな貴重な物にキラービーの死骸なんか入れて良いのですか?」

 オリビィエ師匠は、笑っている。


「何かに使えるかな? と思って作ったのだが、肉を保存したまま忘れてしまうから、使わなくなったんだ。2年も経った肉は、やはり食べたくなかったからな」

 それ! 冬も狩りに行かなくても新鮮な肉が食べられるって事じゃない! 冷凍庫でも、何年も置いていたら、冷凍焼けするのと同じかな?


「いえ、キラービーの死骸なんかより、もっと有意義な使い方があります」

 鼻息荒く、主張したけど、首を傾げている。


「例えば、焼きたてのパンをここに入れておけば、次の日も焼き立てのままなんですよね?」

 オリビィエ師匠は、ピンとこないみたい。

「ミクは毎朝焼いているだろう? もしかして、負担なら、焼かなくても良いんだぞ」

 あっ、通じていない。


「パンを焼くのは好きだから良いのです。これを使えば、筋肉のシチューをいつでも食べられるのですよね?」

 オリビィエ師匠は、筋肉のシチューがとても気に入ったのだ。

「そうか、いつでも美味しい物が食べられるのだな」

 そうだよ! なのに今はキラービーが入っている。これこそ宝の持ち腐れだよ。


「どうせ、長い間、ロフトにしまっておいたのだ。食料を保存するのに使うなら、いったん洗う必要があるのさ」

 それにしても死骸を入れなくてもさぁ。

「そうだ! キラービーの死骸が無くなったら、マジックボックスの手入れの仕方を教えてやろう」

 それは嬉しいけど、作り方が知りたいよ。


 私が鶏小屋で火食い鳥カセウェアリーの世話をしている奥で、サリーはミツバチの世話の仕方を習っていた。

 鶏小屋と養蜂箱の間に柵が立てられていた。

 アリエル師匠とサリーはその柵の外にいるのだけど、大丈夫かな?


キラービーは女王蜂を新しい巣に入れたら良いだけなのよ。他のキラービーは、女王蜂のいるところについて行くからね」

 アリエル師匠が空気のボールの中から女王蜂を空気の指で捕まえて、養蜂箱に入れた。

「空気のボールを解除したら、キラービーは落ち着くまでは、放置しておきましょう。サリーは柵の中に入りなさい」

 サリーが柵の中にはいると、アリエル師匠がソッとキラービーの巣を地面に置いた。

「危ない!」

 思わず叫んだ! キラービーがアリエル師匠に向かって飛んで来たからだ。


「アリエルなら大丈夫だよ」

 キラービーは、アリエル師匠の1メートル以内には入り込めない。

「あれは守護魔法ですよね? サリー大丈夫かな?」

 オリビィエ師匠は、大丈夫だろうと笑っている。


「ミクも守護魔法を早く覚えなきゃな!」

 あの火食い鳥カセウェアリーの卵を毎日集めるのだ。守護魔法を覚えた方が良い。

「火を吐かなくても、キック力が凄いからな。当分は私も一緒に世話をしてやるが、守護魔法を練習して、できるようになったら自分でするんだよ。卵は人気があったから、高く売れるよ」

 アルカディアでも料理は、芋を茹でる、肉を焼くだけの森の人エルフが多いみたい。

 卵も茹でるだけで、食べられるから人気があるのだろう。


 サリーは守護魔法の掛かった柵の扱い方をアリエル師匠に習っている。

「今日は、外の守護魔法はあのままで良いわ。前の巣に集めていたハチミツを運ぶのに忙しいでしょうから」

 朝早くから、守護魔法が掛かっている柵を開けてキラービー達が蜜を集めに行くようにしないといけないのだ。


「その前にサリー自身が守護魔法を掛けれる様にならないとキラービーに刺されてしまうわね」

 アリエル師匠はかなり厳しいよ。

 サリーも頑張って練習しているのだ! 私も頑張ろう!


 次の日から、朝の用事が1つ増えた。

 初めだから、アリエル師匠も起きてきて、サリーがちゃんと守護魔法を自分に掛けられるか見ている。

「外の守護魔法が掛かった柵を横にどけるのよ。夕方、暗くなったら、柵を戻しなさい」

 ハラハラしながら見ていたけど、サリーはちゃんとできたみたい。


「さて、ミクには私が守護魔法を掛けてあげよう。鶏小屋の掃除と餌やりと水やりだよ。卵を産んでいたら、この籠に入れなさい」

 うん、まだ私は守護魔法が掛けられないのだ。

 オリビィエ師匠に掛けて貰って鶏小屋の中に入る。

 水と餌をやったら、5羽とも突進してきた。


「ほら、この隙に卵を集めなきゃ!」

 私は、前世では病院かベッドで過ごしていたのだ。学校の飼育委員もやったことがない。

「はい!」

 あるかな? 昨日、移して神経質になっているから、産まなかったんじゃない? なんて考えていたけど、鶏小屋の部屋の中の敷き藁の上にグリーンのダチョウの卵ぐらいの大きさのが4個ならんでいた。

「あった!」

 注意しながら、籠に入れ、一旦、鶏小屋の外に置いてから、掃除をする。

「糞は乾かせば、肥料になりそう!」

 塵取りにいっぱいの糞、それと何本かの真っ青な羽! これはペンにしよう!


 掃除を終えて、外に出たらホッとした。

「ミク、頑張って守護魔法を覚えよう!」

 だよね! サリーに遅れを取っているけど、頑張って追いつくぞ!

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