第11話 竜の肝

 アリエル師匠が竜の討伐に向かった! サリーもショックを受けたみたい。

「魔法で攻撃するのですか?」

 私の質問に、オリビィエ師匠は、驚いている。

「当たり前だと思うけど……そうか、狩人の村では狩りのスキル持ちが狩りをしていたんだね」

 それって、植物育成スキルの私も魔物を討伐するって事なのかな? まさかね?


 前にトレントを狩るのは聞いた。トレントを見た事は無いけど、木だろうから、斧や魔法で根を枯らすのだろうと想像して、何とか頑張ろうとは思っていた。

 でも、竜は……想像の範囲外だよ。

 私は毒蛙しか倒した事がない。サリーは角兎を射た事はあるけど、小物だよね。

 狩人の村の近くにいる大きなビッグボアやビッグエルクとかは無理だった。


「帰ったぞ!」

 外から歓声が聞こえる。

「見に行こう! 肝を買わないといけないからな」

 オリビィエ師匠について、私とサリーも集会場に向かう。

 森の奥のアルカディアでも、竜の討伐は珍しいのか、何人も集まっている。

「竜の肉は美味しいから、買いに来ているのさ」

 へぇ、そうなんだね。前にリュミエールの親が狩った亜竜も、なかなかジューシーで美味しかったよ。 

 あれは、こうして買った肉だったんだね。


 狩人達とアリエル師匠がワイバーンを運んできた。

 アリエル師匠が、巨大なワイバーンを宙に浮かせて運んでいる。

「これ……」

 恐竜で空を飛ぶのがいたよね? プテラノドンだったかな?

「丁度、行商人も来るから、良いタイミングだな」

 狩人達は、高く売れると嬉しそうだ。

 どうやら、皮が高価に買われるみたい。それに、長い爪や牙も! 

「この翼の部分を傷つけないように解体しろよ!」

 私達は、邪魔になりそうだから、オリビィエ師匠を残して、木の家アビエスビラに帰った。


「アルカディアの狩人が凄腕だとは聞いていたけど、魔法使いも凄いのね」

 サリーは、アリエル師匠みたいに竜を討伐する自信がないみたい。

「まだ1ケ月だもの。10歳までは修行するのだから、先は長いわよ」

 と言ったものの、アルカディアでは学舎に通うのは10歳ぐらいだけど、そこから師匠について修行しているみたいなんだ。

 リュミエールの兄弟子のヴォイヤンスとか、10歳以上だよね。

「いつまで修行するのかな?」

 そんな事を言いながら、昼食の用意をする。


「ワイバーンの肉を貰ってきたわよ! オリビィエは、肝を買う交渉をしているから、遅くなるわ」

 いつもは、ブラウスとスカートとか、ワンピース姿のアリエル師匠がチュニックとズボンを履いていた。

「アリエル師匠、ワイバーンを討伐したのですね!」

 サリーが質問する。

「ええ、空高く飛ぶ相手は、武器より魔法攻撃の方が有効なのよ。サリーにも魔法攻撃を教えてあげるわ」

 風の魔法使いの修行も大変そうだよ。


「ミクも竜を倒せないと、高級な薬は作れないわよ。オリビィエは、今回は留守番で、参加しなかったけど、いつもは討伐するの」

 えっ、薬師の修行に竜の討伐まで含まれるとは知らなかったよ!

 薬草の採取、石鹸の材料のひまわりの栽培やトレント狩りまでは、なんとか頑張ろうと考えていたけど。


「今回のワイバーンは、空を飛ぶからミクの土魔法系とは相性が悪いけど、地上の竜なら倒せるようになるわ! 頑張って修行してね!」

 何だか、一生修行しても無理な気がする。


 オリビィエ師匠が帰って来たので、昼食にする。朝作ったスープ、パン、そしてワイバーンのステーキ!

「美味しい!」

 あの姿からは想像できない美味しさだよ!

「アリエル師匠、筋肉すじにくとか、もっと貰えませんか?」

 貰ってきた肉は、とても綺麗な部位だった。胸肉っぽい感じ。

「筋肉なら、余っているから集会場で売っていると思うぞ。だが、固いから人気はない」

 オリビィエ師匠は、前に筋肉を料理したのかな?

「筋肉でシチューを作りたいのです! 玉ねぎも、にんじんも、小さいのならありますから!」


 サリーに筋肉を買って来て貰う。何故、私が行かなかったのか?

 竜の肝で薬をオリビィエ師匠が作るのを見学するからだ!

「わっ、大きいですね!」

 私の頭より大きな肝が調合部屋の机の上の容器に、水につけて置いてある。

「ワイバーンなどの竜の肝は、良い薬の材料になるのだけど、早く処理しないといけないのだ」

 昼食を先にして良かったのかな?

「水につけて、血抜きをしていたのさ。この水を何回も換えて、血抜きを完璧にしないと、臭い上に、効能も悪くなる」

 成程! 水につけてから昼食だったんだ。


「水を取り替えよう!」

 調合部屋の隅には、流し台と水甕があった。

 それにコンロもね。小さなストーブみたいな金属の箱で、下で薪を炊いて、上で薬草を煎じるみたい。

 3回、水を取り替えたら、匂いがしなくなった。

「これを薄く切って、乾かして、粉にするのさ!」

 料理っぽいね。

「やらして下さい」

 オリビィエ師匠に聞きながら、肝をスライスする。


「ミクの調理スキルは、薬師に役に立つね」

 それより竜の討伐の方が心配だよ。

「オリビィエ師匠、私に竜の討伐は無理じゃないでしょうか?」

 ぷっとオリビィエ師匠が笑う。

「アリエルに激励されたのだな。まぁ、大きくなったら、竜を討伐する遣り方も教えてあげるが、先ずはこれを乾かす方法からだな」


 日陰で干すのだけど、風の魔法で乾かしてはいけないの? アリエル師匠とかサリーに手伝って貰ったら早いと思うんだけど?

「一気に乾かすより、じんわりと時間を掛けて乾かした方が、何故か効能が高い気がするんだよ。アリエルには馬鹿にされるが、私はこの遣り方だよ」

 私は、オリビィエ師匠の弟子だから、この方法を覚えよう!

 忘れないようにメモをしたい。木を薄く切ったのに、炭で書こうかな? 狩人の村ではそうしていたんだよ。


「あっ、やはり紙とペンとインクが欲しいな」

 習った事を、これからいっぱい書き記しておきたい。

「行商人のは高いから、紙は知り合いに譲って貰ってやるよ。ペンは作れば良いし、インクも作り方を教えてあげよう。それと、薬の瓶の作り方も、そろそろ教えても良いかな?」

「教えて欲しいです!」

 どうやら、私がとても幼いから、ここでの生活に慣れるまで待っていたみたい。

「そうだな、ミクは畑仕事に料理にパン作り、それに学舎でも巻3になっているから、薬師の修行も始めても良さそうだ」

 嬉しい! 飛びあがっちゃう!

 やっと、薬師の修行が始まるのだ。まぁ、ひまわりの種を撒くのも仕事の一部だけどさ!

 そうじゃなくて、薬師らしい修行がしたかったんだ。

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