第10話 ここにも行商人が来るんだね
アルカディアに来て、1ヶ月が過ぎた。
学舎では、サリーが2の巻になり、リュミエールが4の巻になって、後ろの席に移動した。
「あっ、何となく光の魔法を渡せた気がします」
サリーは、魔法実技はなかなか出来が良いと思う。
私は、まぁ、こんなもんだよ!
「何となく暖かいような?」
これは根気よく続けるしかないかも?
小麦は、1回目の収穫を終えた。その日は狩人の人達があっという間に刈り取った。
これも分業なのかもね?
小麦が分配されてから、パンの注文が多い。
サリーにこねるのを手伝って貰う。
もっと小麦が欲しいけど、少し土地を休ませるみたい。
「すぐには小麦を撒かないのだ。暖かくなったから、ここで放牧するのだけど、牛には近づかない方が良い。もっと夏になったら、放牧場に連れていくから、それまでの我慢だよ」
山羊や羊も近づきたくない大きさだけど、牛はね! 絶対に近づかないよ。
小麦の藁は、家畜の寝藁にもなる。そして、その糞をした寝藁は、小麦畑に鋤き込まれた。
「臭いわね!」
サリーが芋の収穫を手伝いに来て、鼻を摘んでいる。
「それより、あの柵を越えて来ないか心配だよ」
のんびり雑草を食べているけど、油断できない感じだもん。落ち着いて、畑作業ができない。
「あの柵にも守護魔法が掛けてあるから、こちらには来ないわよ」
サリーは感じ取ったみたいだけど、私は分からなかった。
小麦を収穫した後、ザクザクと簡単な柵を刺して囲ってあったのだ。
「まだ私は守護魔法は感じ取れないわ。光の魔法もよく分からないからかも」
ヨッと芋を引っこ抜きながら愚痴る。
「でも、ミクは空間魔法は感知できるじゃない。私は、全然何も感じないわ」
サリーも、ヨッと芋を引っこ抜いて、愚痴る。
でも、愚痴りたいのは私だよ!
「サリーはアリエル師匠に風の魔法の基礎を習っているじゃない。私はまだ薬草採取に連れて行って貰っていないのよ」
薬師らしい修行としては、ひまわりの種をアルカディアの外の原っぱに、師匠と一緒に撒いただけだよ。
「あら? 行商人が来たら、森に薬草採取に行くだろうとアリエル師匠が言っていたわよ。オリビィエ師匠の薬を買うのも、行商人がここまで来る目的の1つなんだって! だから留守にできないのよ」
森のかなり奥にあるアルカディア。
この1ヶ月の間に、リュミエールの自慢の狩人の親が狩ってきた巨大な魔物に驚いたんだ。
あれって竜じゃないの? アルカディアの人に言わせると亜竜だそうだけど、人間を丸呑みしそうだったよ。
「カーマインさん、大丈夫かな?」
行商人には護衛がついているけど、あんな魔物には勝てないと思う。
「だから物見の塔があるのよ。近くのラング村から出たら、護衛に誰か行くんだって」
サリーはアリエル師匠から色々と聞いているみたい。
神父さんを迎えに来たリュミエールは、護衛になるのかな?
「ああ見えて、弓のスキルも持っているから、何とかなるんじゃないの? それと神父さんや私達には守護魔法を掛けられるし、無理だと思ったら、物見の塔の当番が大人を遣すんじゃない?」
サリーは、私の言いたい事が理解できるから、サクサク会話が続く。
芋を茎から外して籠に入れていく。茎は菜園の端に置いて堆肥にする。あの臭い寝藁も鋤き込めば良いのかも? 近寄れないけどさ。
「あっ、馬の寝藁なら貰えそう! 馬糞って良い肥料になりそうだわ」
サリーは嫌な顔をした。手伝いたくないのだろう。
「良いわよ! 古い服を着て手伝うわ」
やはりサリーは優しいな!
「ありがとう!」
ゴンと拳をぶつけ合う。
こんな話をすると行商人が来るのはフラグかな?
次の日の朝、物見の塔から『カン カン』とのんびりした鐘の音がした。
私とサリーは焼きたてのパンを2個、売っていたんだ。
「何かしら?」
驚いた私達に、ヘプトスが笑いながら教えてくれた。
「ああいう風にのんびりとした鐘の音は、神父さんか行商人がラング村を出たって報せだよ。神父さんはもう来たから、行商人だな。誰かが出迎えに行くと思う」
ヘプトスは、最初の日は学舎の外で私達を無視したけど、知り合ってみたら、少し人見知りしたのだと分かった。
土の魔法だから、よく菜園に来ているし、小麦畑に成長の魔法を掛けていたから、話すようになったんだ。
それに、家が近いからか、よくパンを注文してくれる。
「行商人が来たら、紙とペンとインクを買いたいわ」
それはお金が足りるか不安だよ。
「インクは2人で買おう! 紙とペンは1人ずつ買わなきゃね」
聞いていたヘプトスが笑う。
「ペンなら、買わなくても魔物の羽根で作れるよ。今度、羽根が手に入ったら作り方を教えてやる」
もう1個のパンを注文していたエレグレースが来て、注意してくれた。
「紙もアルカディアで作っているし、インクはオリビィエ師匠なら作れると思うわ。行商人のは高いわよ」
エレグレースもパンをよく買いに来てくれる。
あまり買わないのは、狩人達だ。肉をメインに食べるみたい。
小麦は、同じだけ分配されたから、残っているとは思うけどさ! パンを買わないのは、食べていないからかも?
「なら、買う物はないかな?」
布もアルカディアでは織っている。
「行商人は、何をしに来るのかしら?」
サリーの質問にエレグレースが答えてくれた。同じ風の魔法だからか、サリーと仲が良い。
「行商人は、アルカディアの製品を買いに来るのよ。亜竜の皮とか牙は、人間の町ではとても高価に売れるの。それに、薬やガラスや武器などもね」
じゃあ買う物は無いのかな?
「私は、飴を買うのが楽しみなの!」
ああ、棒飴を配って貰った事があるよ。
「僕は、珍しい種が欲しいな」
ヘプトス、同感だよ!
「私も!」
アルカディアの子どもは、親の手伝い、師匠の用事、物見の塔の当番をした時、お駄賃を貰っているみたい。
私とサリーも、菜園や洗濯や掃除や料理のお駄賃をもらっているんだ。
「でも、下働きが条件で修行させて貰っているのに?」
10日毎に貰うのだけど、初めて銅貨10枚貰った時は驚いた。
「ほんの少しのお駄賃だよ。いつか、2人が人間の町に行く時は、お金が必要になるから、貯めておきな」
またアリエル師匠のゲキマズ茶の入った缶を2つ空けて、私とサリーにくれたんだ。
だから、お駄賃はここに貯めている。
使うのは、パンを焼いて得たお金だけだと2人で決めたんだ。
「わくわくするね!」
2人で顔を見合わせて笑うけど、なかなか行商人はアルカディアに着かなかった。
荷馬車でのろのろ移動するからね。
学舎で苦手な護身術で、何十回目の死を宣告されていた時『カン、カン、カン、カン! カン、カン、カン、カン!』と早鐘が鳴ったんだ。
「何かあったんだ!」
リュミエールったら、メンター・マグスの許可も得ないで飛び出した。
「子ども達は学舎の中にいなさい!」
リュミエールは、メンター・マグスが投げた蔦に捕まえられて、引きずり込まれた。
「リュミエール! あんな早鐘が鳴ったら、どうするのか言ってみなさい」
しょぼんとしたリュミエールは、渋々答える。
「早鐘が鳴ったら、家の中に隠れる……でも、私はもう5歳だよ!」
確かに、狩人の村なら5歳は若者小屋で親から独立して暮らしている。
「大人の足手纏いになるから、家の中にいる規則なんだよ。あの早鐘は、アルカディアの近くに竜が出たと報せているのだ。お前の親が討伐するのに、子がちょろちょろしていたら心配で困るだろう」
赤ちゃん扱いだけど、竜に勝てるとは思わないから、仕方ないよね。
少し経ったら『カン カン カン』とのんびりした鐘が鳴った。
「討伐されたみたいだな。さぁ、もう帰っても良い。ただ、リュミエールには罰の宿題を出すから残りなさい」
「えええ!」と悲鳴をあげているリュミエールをガイアスが「勝手な事をした罰だ!」と笑った。
急いで
「アリエルなら、竜を討伐しに飛び出したよ。血の気が多いから」
えっ、いつもソファーに寝転がり、本を読んでいるアリエル師匠が?
「私が行っても良かったが、今回はワイバーンだったからな。空を飛ぶ竜には風の魔法の方が向いているのさ」
えええ、オリビィエ師匠も討伐とかするの?
「当たり前だろ! 竜を討伐できないと森歩きなんか、落ち落ちできないさ。それに竜の肝は、薬の材料にもなるのさ」
あっ、ファンタジーの読み物では、竜の血でエリクサーとか作っていたよね。
キラキラした目で師匠を見ていたみたい。
「おい、ミクどうしたんだ?」
「あのう、竜の血で凄い薬とか作るのですか?」
オリビィエ師匠が爆笑する。
「そんなのは知らないな! ミクが薬師になったら試してみると良い。だが、竜の血は臭いから、血抜きをその場でするぞ。手に入れるなら、討伐に参加しなくてはな!」
それは、かなり後になりそうだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます