第18話 変化の春!
冬中続いた戦争も、春には終わった。なんとかハインツ王国が勝ったみたい。
「何故、寒い冬に戦争をするのかしら?」
サリーが首を傾げている。
「春になったら、農作業をさせないといけないからよ!」
これは、前世の戦国時代の武将の話を読んでいるから分かるよ。
「ミクは賢いな!」ヨハン爺さんが褒めてくれた。
エバー村の住民の半分は、元の村に帰るみたい。
後の半分は、新しい村を作る事に決まったよ。森の中に作る新しい村は、ニューエバー村だってさ。
こちらには人間は住まないし、狩人スキルの
私の村より倍の大きさになる予定だそうだ。大人達は、狩りに行く人と村を建てる人とに分かれて忙しそうだ。
若者小屋の帰還者の数人は、この村に移るそうだ。他の村も同じみたい。その人達は村作りに専念している。
エバー村の住民が多いけど、他の村から若者を受け入れて、新しい狩人の村ができる。
一つ違うのは、赤ちゃん連れが避難できる様に、集会場に個室を何個か作るみたい。
ここには、神父さんや行商人も泊まるんだってさ。
ケンとミンは、森歩きも卒業だ。親や兄弟達と狩りに行くみたい。
ワンナ婆さんの小屋を卒業したマナとサリーの弟のベンが加わった。
私とサリーは居残りだよ。夏までに卒業しないとミラとバリーに追い越されちゃう! サリーもベンが一緒だから、かなり顔が強張っている。
「頑張ろうね!」と拳をぶつけ合うよ。
狩人の新しい村に移るアリー達は、このまま森歩きに参加する。2歳の子達は、卒業して村作りのお手伝いに行くそうだ。
「卒業って、木から木へ移動できるようになったらだったはずよね?」
サリーは弟のベンと一緒なのが不満みたい。それを言うなら、私も卒業で良いんじゃない?
「2人は、風を使ったり、植物を使っているじゃないか! いざと言う時、魔力切れだと困るぞ。それにミクは護身術も弓も全然だろう!」
ぶー! サリーと文句を言うけど、ヨハン爺さんの合格がでないと辞められないのだ。
ただ春になったら、私は忙しい! 特にこの冬は人数が増えたから、本当なら残っている芋すらも箱の底が見えている状態なのだ。
ママとパパがエバー村の村長に多く売り過ぎたんだよ! 小麦や鏃にお金がいっぱい掛かったからね。
冬の間に、パパとママは木の器とかをいっぱい作った。これは売る用だ!
今度こそ、小麦をいっぱい買えたら、ガラス瓶を手に入れて、天然酵母を作って、柔らかなパンを焼くんだ!
芋を植えたら、森歩きに出発だ。春の森歩きは初めてだ。
少しぬかるんでいるから、私やサリーやアリー達は、木と木を移動しているけど、マナとベンはヨハン爺さんが歩いた後を追いかけている。
ヨハン爺さんは、乾いた地面を選んで歩くからね。
木登り、マナとベンは1日でクリア! 明日は木から木へと移動するみたい。ヤバいよ!
「サリー、このままでは負けそうだよ!」
2人でなるべく風や蔦を使わないで移動しようと頑張る。
「これ!」狩りから帰る途中のジミーが私を見つけて、飛んでくる。
手のひらに、綺麗な黄緑色の蕗のとうを落としてくれた。
「あっ、これ食べられるよ!」
ジミーが笑って案内してくれる。水場の近くだから、ジミーが警戒している間に、蕗のとうを採る。
「水セリも採って良い?」
これは少しだけだよ。これからが本番だからね。
ヨハン爺さんは「おっ、蕗のとうか!」と欲しそうだから、少しお裾分けだ。
サリーは「苦いからいらない!」そうだ。
アリー達は、籠にいっぱい葉っぱや樹皮を採っている。
「明日は、川まで行くぞ!」
マナとベンは歩いてだよね? なんて、年下の子と比べてどうするの?
春になったら巡回神父さんがやってくる。今年は、戦争があったから色々と精神的に不安定な人が多いから、ゆっくりと相談する時間も持つそうだ。
それより、うちはミラとバリーが洗礼を受けるのだ。新しい服2着をママと縫う。
洗礼式の時は、皆で順番に桶で風呂に入り、ミラとバリーは特に綺麗に洗ったよ。
椿油は残り少ないけど、ミラとバリーの髪の毛を梳かす櫛につける。
「可愛い!」
ミラとバリーを抱きしめてキスをする。家の妹と弟、マジ可愛いよ。
マナ、ヨシ、ベン、ミラ、バリーが今年洗礼を受ける子どもだ。ヨシはヨナの弟だけど、ヨハン爺さんの森歩きに参加していない。その理由は……洗礼を受けてわかったよ。
「今年も冬をエスティーリョの子どもが乗り切ってくれたね」
若者は何人も亡くなったけど、今は洗礼式だから、言わない。
「マナは弓使いだ」
だと思ったよ! 木と木の移動をすぐにマスターしたからね。
「ヨシは……神に仕える子になる」
ヨシの両親は、やはりと肩を落としている。神に仕える子は、成長も遅いし、
神父さんも
「この子はどうなるのでしょう?」
神父さんは、後で話そうと、ベンの顔を洗面器にズボンと浸ける。
「この子は槍使いだ!」
サリーの両親は嬉しそうだ。胸が少しズキンとした。
今度は、ミラとバリーだ。
「ミラは、弓使いだな」
緊張していたママがパッと顔を綻ばせる。ズキン!
「バリーは、斧使いだ」
パパがぎゅっとバリーを抱きしめた。ズキン!
ママが私を抱きしめて「ミクは、ミクよ!」と言ってくれた。少しだけ、ズキンと痛む胸が楽になったよ。
私とサリーがこの場にいるのは、神父さんに呼ばれたからだけど、少し居心地が悪い。
狩人の村で、狩人スキルじゃないからね。親もそれを期待しているのがビシバシ突き刺さる。
マナの両親は、集会場から出て行ったけど、ヨシの両親、サリーの両親、私の両親は、残った。
「ヨシは、いずれは人間の町の教会で、神父になる修行をする。それまでは、村でできる事を学んだら良い」
村でできる事? 森歩きにもヨハン爺さんは連れて行かないのに?
「ヨシは、他の
それを聞いて、ヨシの両親は少しホッとしたみたい。
「ミク、文字と数字をヨシに教えてくれないか?」
それは良いんだよ。ヨシの姉のヨナにはワンナ婆さんの家でお世話になったからね。人形遊びの相手にされたとも言うけどさ。
ここでヨシは両親と家に帰った。残るサリーと私は、少しドキドキする。残された理由は、修行先の事だろうか?
「サリーは、人間の町で魔法使いの弟子になりたいと言っていたが、考えなおさないか?」
サリーは不満そうな顔をしたけど、両親はその方が良いと説得モードだ。
「実は、修行先にと考えていた魔法使いが全員亡くなってしまったのだ。この戦争の犠牲者は多く、魔法使いと弓使いは真っ先に攻撃対象になったからな。残った魔法使いは、まだ若くて修行先として不安だ」
神父さんは、亡くなった人を思って少し目を瞑った。
近くの国のハインツ王国の魔法使いは、ほぼ全滅状態だそうだ。若手しか生き残っていない。
相手国のリドニア王国の魔法使いも大勢が犠牲になったと聞いて、サリーのママがぎゅっと抱きしめる。
サリーも戦争に駆り出されるとは考えていなかったみたい。
「師匠が徴兵されたら、弟子も一緒に徴兵されるのですか?」
サリーのパパが神父さんに訊いている。
「修行の最中や年季期間は、そうなるだろうな」
サリーのママが「駄目よ!」と泣き出した。
「でも、アルカディアでは下っ端なのよ! それに下働きをしながら修行なんて嫌よ」
ふぅと、神父さんは大きな溜息をつく。アルカディアの選民意識に批判的なのだ。
「だから、ミクも残って貰ったのだ。ミクと一緒に下働きをするのなら、サリーも楽になるだろう」
今度は、うちのパパとママが困った顔になる。
「ミクは3歳まで村にいる予定なのです。サリーは2歳で修行に出ると言っていたけど?」
ママが神父さんに質問する。すかさずサリーのママが「そちらに合わせるよ!」と勝手に返事をした。
人間の町に行くのは、初めから反対だったみたいだからね。
「ママ、そんな事を勝手に決めないで! 確かに人間の町に行くのは不安になったわ。それに、ミクと一緒なのは心強い。でも、修行する師匠は別なのよ!」
神父さんがニッコリと笑う。
「なら、サリーはミクと同じ師匠の所なら良いのだね」
えっ? 意味不明だよ!
「アルカディアの風の魔法使いの第一人者のアリエルと、薬師のトップのオリビィエは姉妹で、同じ屋敷に住んでいるのだ。2人とも、今回の戦争で
うん? 話だけ聞くと良さそうだけど、何か引っかかる。
「その姉妹は、まだ若いのですか?」
パパが質問するよ。
「いや、アルカディアの長老会に属しているから、師匠として
師匠として
村長さんが聞き難い質問をしてくれた。
「その2人は何か問題を抱えているのですか?」
神父さんが汗をハンカチで拭く。怪しい!
「少し変人だと噂されているだけだ。長老会に属しているから、魔法の腕と薬師としては立派だぞ」
変人? どんな風にだろう?
「それに、この2人には弟子がいないから、兄弟子達に威張られることも無い!」
自信満々に言うけど、それって余計に心配だよ。
「長老会に入るまで弟子を取っていなかったのですか?」
パパも心配そうだ。教えるのは素人って事だよね。
でも、サリーの両親は安心したみたい。変人であろうが、同族の魔法使いだし、長老会のメンバーなら立派なのだろうと思う事にして、私とサリーを説得する。
「ミク、どうする?」
サリーがこんな事を言うのは、自分はそれでも良いと考えているからだ。
「私は元々アルカディアに行くつもりだったから、それでも良いけど……」
こうなったら、神父さんが話を纏める。
「サリーは2歳で修行に出ると言っていたが、2歳半まで待ちなさい。ミクは3歳より早いけど、来年の春に私と一緒にアルカディアに行こう」
2歳と4ケ月で修行に出るみたいだよ! この世界は子どもに厳しいね!
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