第17話 冬を耐える

 11月になると、雪が積もってきた。エバー村長は、何頭かの雄山羊を潰して食べる事にした。

「木の枝や皮も食べるけど、それを採りに行くのに見張りがいないといけないからな」

 雌山羊と種山羊はなんとか生かしておきたいよ。


 帰還した若者だけでも負担だったのに、エバー村の難民は小麦は持っているし、狩りに参加をする人もいるけど、はっきり言って狩人達にはついていけないから、村の食料を圧迫する存在だ。

「雪の中を歩いて狩りをするなんて、時間の無駄だ」

 そう、狩りはしていたけど、小物が多く、木と木を飛んで移動することができない人が殆どなのだ。

 森の村出身の森の人エルフ達は、何とかついていけるが、エバー村で生まれた森の人エルフは、木と木の間を飛んで移動しないのだ。


「こんなに技術が失われるのは早いのか!」

 エバー村長は愕然としている。人間に近い生活をしているうちに森の人エルフの技術を失っていたのだ。

「まだ子どもらなら技術を身につけられる。ヨハン爺さんに習わせたら良い」

 ヨハン爺さんは、村長さんに「何を言うのだ!」と嫌な顔をしたが、同族の子どもならと渋々引き受けた。

 それと、エバー村の親はお金をいっぱい持っているからかもね? これ、大事!


 森歩きに参加するのは、1歳を過ぎたリムとアリーとダヤンだ。この3人は弓や槍のスキル持ちだから、エバー村でも狩人になる予定だ。それで、ヨハン爺さんは引き受けたのだ。

 エバー村の子どもは、狩人以外のスキルもあるそうだ。私と同じ植物育成もあるのかな?


「エバー村では木と木の移動はしないのか? だが、ここでは木に登れないと死ぬぞ! 先ずは笛を配るから、魔物が出たら木に登って、ピーと強く強く吹け! 迷子になったら、木に登って、ピーピーピーと吹くのだ」

 アリーは綺麗なグリーンの髪の女の子だ。

「あのう、木登りをしたことがないのです」

 ヨハン爺さんは、深い溜息をついた。

「他の子は登れるのか?」

 どうやら、エバー村では木登りは必須じゃないみたい。

「今日は木登りだな! サリー、ミク、ケン、ミンは、護身術の練習をしておけ」

 へへへ、やっと優越感を味わえるかなと思っていたけど、相手は狩人のスキル持ち!

 1日で木登りをマスターして、近くの木に飛び移れる様になった。


 それを聞いた親達は、狩人のスキル持ちを全員ヨハン爺さんに預ける事にした。

「村長さん、こんなには面倒見られない! それに何人かは大人じゃないか!」

 確かに! 初めは森の人エルフの歳が分からなかったけど、1年暮らしていくうちに、目を見ると年齢がだいたいわかる様になってきたんだよね。

 年齢は目の色に現れる。私やサリーより、生まれたばかりのミラやバリーは同じ濃い緑だけどより濃くて黒に近い。

 そして、ママやパパは少し暗い緑、ヨハン爺さんは、ほぼ黄色に見える緑なのだ。

 何人かは、少し暗い緑! つまり大人だよ。

「大人は倍払うから! それを貯めたら、春には行商人から酒を買えるぞ。秋は高くて少ししか買えなかったのだろう?」

 村長さんは、村民の弱みを知っているね。ヨハン爺さんは、お酒に弱いのだ。


 大人達は、1歳児ほどは簡単に木と木の移動はできなかったけど、狩りのスキルは持っているから、森の奥へと向かう。

「アリー、リム、ダヤンは、サリー達と木と木の移動だ。魔物を見たら、笛を強く吹くのだぞ!」

 私たちは、ここまでも木の上を飛んできたから疲れていないけど、初めて組ははぁはぁ言っている。


「私は、サリーよ。あちらの金髪がミク。そして、赤毛のミンと金髪のケン!」

 こんな時は、お喋り能力の高いサリーが話をする。

「私はアリー、あちらの赤毛がリム、濃い金髪がダヤンよ」

 こちらのリーダーはアリーみたい。

「ねぇ、木の上で鬼ごっこしない? 身体にタッチしたら、その子が鬼になるの!」

 遊びは任せて!

「やってみよう!」

 リムはやんちゃっぽい。

「じゃぁ、じゃんけんで鬼を決めましょう」

 じゃんけん? ああ、そこから説明だね。

 グー、チョキ、パーを教えて、じゃんけんだ。

 何人かは後出しだったけど、それは良いんだ。どうせ、鬼はまわってくるからね。


「ミクが鬼だな! なら5で良いよ」

 うっ、ケンにハンデを貰っちゃったよ。

「ミクは、狩人スキルじゃないからな!」

 ミン、説明ありがとう!

「数えるわよ! 1、2、3、4、5!」

 皆、蜘蛛の子を散らす様に、木と木を移動して逃げている。

「捕まえるわよ!」

 なら、全力で行くよ! 木の枝の上に飛び上がって、手のひらにブラックベリーの実を握る。

 3本遠くの木に蔦を投げて、5本遠くの木に飛び移り、また3本遠くの木に蔦を投げ、4本先の木の枝にいたミンにタッチする。

「俺より近くにダヤンがいただろう!」

 それで安心していたんだね。

「さぁ、下に降りて10数えるのよ!」

 ミンは、スパッと雪に飛び降りて、数えて始める。逃げなきゃね!


 午前中、鬼ごっこして遊んで、皆、すごく上達した。私もね!

「お昼にするから、ヨハン爺さんの所へ戻るわよ」

 前は、森は何処も同じに見えたけど、今は自分がいる場所がわかる。これは森の人エルフの特徴なのかもね。

 森を俯瞰的に見られるのだ。まぁ、まだ村の近くの森しか歩いて無いから、範囲は狭いけどね。


「ああ、もう昼か?」

 私の顔を見て、ヨハン爺さんは笑う。

「昼? 狩りの時は昼は食べないが?」

 村でも狩人はお昼は食べないよ。

「皆の分は無いけど、アリー達のは持ってきたよ」

 背負い籠から、焼き芋を薄く削った木に包んだのを、布でグルグルにしたのを解いて、サリー達やアリーに渡す。

 アリーは、自分の村の子どもには半分にして分ける事にしたみたい。

 ヨハン爺さんは、黙々と食べている。羨ましそうな目は無視している。

 私達も、枝の上に座って食べる。


「午後からは子どもは、アリーと一緒に木と木の移動の練習だ。大人は、もっと頑張れ!」

 3歳の4人が鬼ごっこに参加だ。後から来た4人は「5で良い」事になった。

 でも、明日からは「10だな!」ってケンが笑っていたよ。

 大人達も、何とか木と木の移動を覚えた。

「あんたらは、狩りはできるのだから、卒業だ!」

 ヨハン爺さんは、大人の世話を長々とする気はないみたい。


 私たちは、エバー村の村長さんに頼まれた、山羊の好きな葉っぱや樹皮を集めながら、森歩きを続ける。

 籠にいっぱい取って帰ると、銅貨1枚か山羊の乳がお椀に一杯貰える。

 悩むけど、山羊の乳にする。かぼちゃスープに入れたら、美味しいからね。

 芋は山ほどあるから、エバー村の子の分も持って行ったら、ヨハン爺さんが交渉してくれて、4日で銅貨1枚貰える様にしてくれたからね。

 8人いるから、1日で銅貨2枚! これで春にガラス瓶が買えるかな? 小麦が高いと無理かな?


 エバー村の村長さんは、山羊の乳と魔物の肉を交換したり、あれこれ交渉を頑張って冬を乗り越えようとしている。

 私が1歳になった12月、他の村長さん達も集まって会議をする事になった。

「山羊の乳と小麦を渡すから、美味しいスープとお焼きを作ってくれ! それと、鮭の燻製と魔物の肉のシチューも!」

 初めのは、材料を少しは提供してくれる設定だけど、スモークサーモンは家のじゃん!

 ママが交渉してくれて、銅貨100枚貰う事になった。

 村長さんも、エバー村長から銅貨はいっぱい貰っているみたいだね。

 でも、銅貨は食べられない! 食料は考えながら使っているんだ。山ほどある芋以外はね!


 村長が集まっての会議は、大揉めになったそうだ。村長さん以外に長老としてヨハン爺さんも参加したから、聞いたんだよ。

 エバー村は人間のハインツ王国に属するのかどうか? これは全員が「属するものか!」と拒否した。

 種族的に違うからね! 人間の王様なんか必要じゃない。

 でも、あちらはそう考えていないのが問題なんだ。


「森の狩人村までは、流石に自分の国だとは言わないだろう。そんな事を言ったらアルカディアが許さないのは明白だからな」

 人間もアルカディアは恐れている。魔法使いが多いし、怒らせると街ごと破壊されそうだからだ。よくは知らないけど、大昔にあったそうだ。

 森の人エルフは綺麗な顔立ちが多いから、騙して奴隷にしたみたい。国ごと滅ぼす勢いで攻めて、取り戻したそうだ。

 アルカディアの森の人エルフ達は、普段は狩人の村を少し下に見ているけど、同じ種族が奴隷にされるのはプライドが傷ついたのか、同族愛なのかな?


 それに人間が森の中まで入って来ないのは、大型の魔物が怖いからだ。

「エバー村は小麦も栽培しているし、家畜も飼っている。それに人間も住んでいるから、国は勘違いし易いのだ」

 鍛冶屋がいるガンツ村は、森の端のエバー村に一番近い。大勢の避難民も預かっているから、負担も大きいから不満を述べる。

「村の若者達も今回の戦争で、人間の町には帰りたく無いと言う者もいる。新しい村を作ったらどうだろう?」

 これが本題なのだ。バンズ村長の願いでもある。

「エバー村の小麦畑や家畜は、また狙われるだろう。その時に、避難できる村を森の中に作っておきたい」

 何個もの村に避難して、肩身の狭い暮らしにうんざりしたエバー村長の希望だ。


 これも、全員が同意したけど、ここから大揉めになったのだ。

「何処に新しい村を作るのか?」

「そこにはエバー村の住民だけでなく、どのくらい他の村の住民を受け入れるのか?」

 大揉めになったけど、ここで昼食休憩だ。


 かぼちゃスープには山羊の乳がいっぱい入っているから、滑らかで美味しい。

 それにお焼き、初めて食べた他の村の人は感激している。

 スモークサーモンには、干したフェンネルを掛けて、臭みを消す。付け合わせは、キャベツの酢漬けだ。

「鮭の燻製か! 美味いな!」

 魔物の肉と芋の炊いたのは、生姜ですっきりさせている。

 デザートは、りんごを焼いたのだ。


「この村には良い調理人がいるみたいだと褒められたよ」

 村長さんにお礼を言われたけど、新しい村の位置は、まだ決まっていないみたい。

 今日中に決まるのかな? それは大人達に任せて、残ったご馳走を森歩きの子ども達で食べる。

 このくらいの役得は無けりゃね! まぁ、代金も貰ったけどさ!

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