第16話 戦争の影響!
行商人が来てから数日すると、春に出て行った若者がパラパラと帰ってきた。
「良かった!」と親達は抱きしめていたけど、何人かは帰ってこない。
「あいつは、同じ冒険者グループと一緒に徴兵されたんだ」
人間と同じグループだから徴兵されたの? それとも仲間を見捨てて逃げられなかったのかな?
「俺たちは、
若者小屋はいっぱいだから、実家に空きがある若者はそこに、無い者は集会場で寝泊まりする事になった。
帰還者は、お金はいっぱい持っていたし、狩りの腕も良い。ただ、人間の町で暮らしていたから、食べ物とか贅沢な口になっていた。
服も、生成りの荒い毛織物じゃない。平和な村が、二つに割れた感じがした。
前からの生活で満足している大人と、外の世界に憧れる若者!
「外の人間の国なんか、戦争ばかりしているのだ!」
それも正しい。
「森よりも豊かな生活ができる!」
どうやら、それも正しいみたい。服の滑らかな生地、弓や矢も高性能そうだ。若者の憧れの目に、大人達は困惑する。
それよりも切実な問題は、計算外の人数を養わないといけない事だ。
基本は、各家族が養っていくが、どこの家も今年は小麦をギリギリしか買っていない。高かったからね。
「芋ならあるけど……」
「ふぇぇ、芋!」
嫌な顔をした若者を、親がガツンと叱った。
「その芋を、お前は作っていないのだぞ! 嫌なら食べるな!」
親以外は、嫌なら出て行け! と言いたそうな顔をしている。
「芋も焼けば美味しい!」
サム、良い人だけど、今はそんな話じゃないよ。
帰還者達は、狩人としての腕は良い。だけど、狩りをいつもより多くしたら、弓使い達から不満の声が上がった。
「鏃が高かったから、あまり買えなかったの。この調子だと冬になったら狩りに行けなくなるわ」
ママも残りが少ないと不安そうだ。
「明日、ガンズ村に行こう!」
村長さんも、言ったけど……これ、本当にフラグだよ。
次の日、エバー村から難民が到着したんだ。人間も住んでいるから、徴兵すると言われたみたい。
良い事は、エバー村は小麦を栽培していたし、家畜も飼っていた。小麦を家畜に積んで持ってきた。
「戦争が収まるまで、避難させて下さい」
エバー村長は、各村に何人かずつ避難させるつもりみたいだ。
集会場にいた若者は、実家と若者小屋にぎゅうぎゅうだけど引っ越した。それに、ワンナ婆さんの家にヨハン爺さんとセナ婆さんも引っ越したよ。
ベッドが2つに増えて、赤ちゃんが遊ぶスペースが狭くなったけど、緊急事態だからね。
ヨハン爺さんの家には、赤ちゃん連れが2組住んだ。集会場は、広くて寒いからだ。
それに、人間の血が混じった赤ちゃんは、
家畜が増えて、山羊の乳とチーズを初めて食べた。美味しい!
でも、家畜の餌も用意しないといけないのだ。
「まぁ、冬になったら潰すさ!」
エバー村長さんは、そう言うけど、肉より乳が欲しい。
「家畜の餌って何かな?」
呑気な私の質問に、大人は誰も答えてくれなかったけど、エバー村の子どもは知っていた。
「草を食べるの!」
なるほどね! 草食動物だもん!
「なら、草を刈らなきゃね!」
食べてはいけない植物も教えて貰ったよ。エバー村の子どもなら全員が知っているみたい。
集会場の横に家畜小屋を作ったけど、餌を集めるのは子ども任せだ。
ここは、森の端ではない。魔物が彷徨く森の中なんだよ!
ヨハン爺さんも呆れている。
「この村に避難したのは、
「ヨハン爺さん、草刈りの見張りをして!」
お願いしたけど、エバー村の親からは指導料を貰っていないので断られた。
「そんな事より、ミクはもっと移動の速度を上げないといけない!」
うっ、それはそうなんだよ。サリーよりも遅いんだ。最終の芋を作っていた間、森歩きに行かなかったからね。
「夏に塩をスミナ山まで取りに行くのに、足手纏いになるぞ! エバー村の家畜の世話は、アイツらに任せておけ」
厳しいけど、正しい! こんな森の中で家畜を飼うのは無理なんだ。
それか、春ならなんとかなったのかも? 春から夏に草を刈って干しておけばね!
「ミク、他の人の事より、自分の事を考えなきゃ駄目よ。護身術も全然駄目じゃない」
うっ、サリー! 確かにね! 風の魔法使いになるサリーでも、弓やナイフの使い方を練習しているのだ。
草刈りは、エバー村の親が警戒しながら、子ども達がする事になった。少し森の暮らしを思い出したみたいだ。
夕方に狩ってこられた大きな魔物を見たからかもね? 森の端では、小物しか見かけないみたい。
私は、ヨハン爺さんにしごかれている。木と木の移動だけでなく、護身術もだ。
ナイフは使わないけど、木の短剣でケンとミンとサリーと練習だ。
「ミク、また死んだぞ!」
嫌な事を言わないでよ! 前世でも短命だったんだからね。
サリーにも連敗中だ。悔しい!
「ケン、ミンは、ミク相手の時は、利き手じゃない方でやれ!」
ハンデを貰っても、惨敗だよ。あまりに腹が立ったから、蔦でケンを転ばした。
「ミク、何をしたの?」
サリーは魔法に敏感だね。
「蔦を伸ばしたのよ……ズルいかしら?」
ヨハン爺さんは、カカカと笑う。
「使える物は、全て使ったら良いのさ。真っ当に戦って死ぬより、ズルい手段でも生き残った方が良いに決まっている」
それからは、より効率的な植物を探して練習した。蔦系でも、早く伸びるのや、強い物がある。
「ミクって不思議! 私はまだ風を少し強くして、髪を乾かす事しかできないのに」
うん、春から秋にかけて、村で菜園をいっぱい作ったから、使い方が何となく分かった気がするんだ。
早く伸びるのはブラックベリー! それに乾燥した実がいっぱいあるからね。
ベルトに小袋を下げて、ブラックベリーを持ち歩く。
手に取って「伸びろ!」と唱えたら、ミンの脚に蔦が伸びる。
弱いから、一瞬の足留めにすぎないけど、その一瞬を利用して、木の短剣を首に押し付ける。
「なかなか良いぞ!」
初めて、ヨハン爺さんに褒めて貰えた。
「ねぇ、ミク? それを木と木の移動に利用したら? 離れていると、飛べないでしょう?」
うっ、サリーは風を使ってかなり遠くの木にも飛べるようになったのだ。
「そうかも?」
やってみたら、遠い木にも飛べるようになったけど、乾燥ブラックベリー、食べても美味しいんだよ! 勿体ない!
ガンズ村には、人間も避難したと聞いたけど、買い物に行っても大丈夫かな?
ママとパパと弓使い達は、ガンズ村に鏃を買いに行ったんだけど、夜になっても帰って来なかった。
「ママ達、遅いわね」
ミラとバリーを抱きしめて、寝かしつける。いつもは夕食の後は勝手に寝るけど、ママとパパが帰って来ないから、寝つかなかったのだ。
「もしかしたら、ガンズ村の方は雪が降ったのかも?」
秋の天候は変わりやすい。もう雪が積もってもおかしくないのだ。
それに、行く時に「泊まるかも?」と言っていた。
0歳児に0歳児の世話! 前世だったら、幼児虐待だけど、ここは厳しい世界だし、いざとなったらワンナ婆さんもいる。
それに、私は前世の背を超えていると思う。ほぼ9歳程度に見えるんじゃないかな? 前世は12歳だったけど、8歳ぐらいにしか見えなかった。
成長は、ジミーとかと比べると遅いけど、サリーも遅い方だ。
「魔力の強い子は、少し成長が遅いのさ。その分、長生きだけどね」
ワンナ婆さん、成長は超早いと思うよ。でも、
次の日の夕方、ママとパパが帰ってきた。遅かった理由は、ロバに乗った神父さんを護衛していたからだとすぐにわかったよ。
木と木を飛んで帰れなかったのだ。
「お帰りなさい!」
私とミラとバリーが抱きつくと、キスしてくれた。
うん? 少し顔が厳しい。
「ママ、鏃は手に入らなかったの?」
「鏃は手に入ったけど……」
ママが言葉を濁す。
「戦争で、何人も亡くなったのだ」
パパも厳しい顔をしていた。
神父さんが時期はずれに訪ねて来たので、村中の人が集まった。
「神父さん、どうされたのですか?」
村長さんに、神父さんは鞄から包みを渡した。
「これは……こんなに亡くなったのか!」
紙に包まれた髪の毛は、何個もあった。
「名簿と髪の毛しか持ち帰れなかった」
村を出た子を持つ親が泣き崩れた。村長さんは、名簿を呆然と眺めていたが、涙を拭いて発表する。
その夜は、村中に悲しみが満ちた。ママの兄弟や甥や姪、そして親友も何人も亡くなったし、パパの村の親戚も大勢が亡くなったからだ。
次の日、髪の毛を燃やして、身内で森に撒いた。
「森を出るべきでは無かったのだ!」
「家を増やせば、うちの子もここで暮らす道を選んだかもしれない!」
子を亡くした親は、悲しみで村長に食って掛かるけど、それが無理なのはわかっている。
「この村の生活が嫌な若者を閉じ込める事はできない!」
それに、家を増やしても、そこに住む人がいないと無理だと思う。
神父さんが、泣いている親達を宥める。
「戦争は何も生み出さない。では、何故、子どもらが逃げなかったのか? 仲間と一緒に戦う事を選んだのだ」
狩人の村でも、狩りで死人は出る。そして、それは諦めるしかないのだ。
「仲間と一緒に死んだのか……ジェフ、お前はそれを選んだのだな」
悲報に悲しみが満ちたけど、森の中は平和だった。人の町では、飢えて亡くなる子どもも大勢いた。
それに、戦死者は
それを、私は全く知らなかった。
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