第15話 冬備え

 ミラとバリーがワンナ婆さんの家に自分で歩いて行けるようになった。

 私は、少し森歩きを休んで、村中の菜園の世話をしている。いつ、雪が積もるか分からないからだ。

 それと、村長さんから「行商人が来たら、夕食を作ってくれ」と頼まれた。

 ママが「幾らくれるの?」とガッツリ交渉してくれたよ。

 だって、双子だったから、春に買った布では足りなくなりそうなんだもん。だから、私は私で儲けないとね!

 ガラス瓶と少し綺麗な布が欲しい。どうも、2歳には修行に出なきゃいけない感じなんだもん。


「ミク、これ!」

 相変わらず口が重いけど、ジミーが椿の花の枝を持ってきてくれた。

「あっ、これ! 何処にあったの?」

 椿の花も綺麗だけど、それより実が欲しい!

 ジミーの説明は、私には理解できなかったけど、ママは「あそこね!」と分かったみたい。

「椿の実が欲しいの!」

 ママは変な顔をする。

「食べられないわよ」

 違うよ! 椿油が欲しいの!

「種から油が取れるの」

 ママの目がキラリと光る。

「油があれば、フライドポテトが作れるわね!」

 あっ、そっちか! 私は、髪の毛につけたり、身体の保湿を考えていたけど、多分、食用もできると思う。

 

 椿の実は、もっと前に拾うべきだったね! 来年は、秋になったら拾いに行こう!

 でも、ジミーに教えて貰った場所にママと行って、背負い籠に実と種をいっぱい拾ったよ。

 何個かはもう根がでていたから、土ごと持って帰る。

「ミク、また村の外に植えるのね!」

 うん、りんごとか果樹は、少し離れた場所に植えたけど、椿の実を魔物は食べそうにないからね。

 ママに見張って貰って、椿の種で根が出ているのを植える。

「大きくなぁれ!」と唱えておく。


「ねぇ、ミクは村に住んでも良いのよ!」

 ママは、やはり外に出すのが不安みたい。だって、ここはママの生まれ育った村で、マックやケンは実は従兄弟だった。金髪だし、似てるかもね?

 うん、村の人はほぼ親戚だよ! ワンナ婆さんは大伯母さんだしね。従兄弟や再従姉妹だらけだ。村人同士の結婚を禁止する筈だ。

 村長さんも親戚だし、ヨハン爺さんもね。

「でも、薬師になりたいの!」

 強く言わないと、なぁなぁにされそう。村長さんは、若者小屋が嫌ならワンナ婆さんの家に住めば良いとか言い出している。

 思わずグラッとしちゃうけど、人生は長いのだ。ずっと賄いの小母ちゃんは嫌だもん。

 それに、薬師って前世にお世話になった恩返しの意味もあるんだよね。


「そうね、薬師になるなら修行しないといけないわね」

 ママがぎゅっと抱きしめてから、笑って言う。何だか、悲しいけど、狩人の村には、このままでは住めないよ。薬師になってからなら、住めるのか? そこはよく分からない。だって0歳だからね。


 その日は、椿油を作った。荒い布に入れて、ガンガン叩いてから、絞るのだ。

「良い香りね!」

 うん、洗った髪に付けたら、きっと良いと思う。

「フライドポテトを作りましょう」

 美少女風のママなのに、狩りと食欲が勝っているのか? 髪につけるのは、来年いっぱい作ってからかもね。


 なんて考えていたけど、ジミーがもっと森の奥からいっぱい実と種を拾ってきてくれた。

 寒いけど、まだ人間の町では秋なのかもね。

「ありがとう! フライドポテトを作ったら、持って行くね」

 嬉しそうにジミーは頷く。

 ジミーは良い奴だけど、結婚相手を見つけるのは苦労しそう。弓の腕も良いし、植物採取も優れているんだけどさ。

 若者小屋の交流会で人気があるのは、先ずは狩りの腕前、そして会話が上手な相手なんだよね。

 狩りは生活必須、そして一緒にいて楽しい相手! 私は、ジミーが好きだけど……再従兄妹だし、やめといた方が良いのかも? 


 秋の暖かい日、ママと私は髪の毛を洗うことにした。無患子は、いっぱい採ってあるし、椿油を使いたいんだ。

 タライにお湯を入れて、身体と髪の毛を洗う。

「ママ、最後のお湯には椿油を少し入れたら良いと思うわ」

 食べられるのに? って顔をしたけど、数滴入れて髪の毛をすすぐ。

 暖炉の前で髪の毛を布で拭いて乾かすけど、いつものようにボアボアにはならない。

「櫛にも少しつけたら良いかも?」

 木の櫛に椿油を付けて、髪の毛をとくと、艶々になった。

「まぁ、これは良いわね!」

 うん、3人の子持ちには見えない美少女だよ。

「ミクの髪も綺麗だわ」

 私の髪も艶々だけど、鏡が無いから、お互いの姿を見て、笑い合う。

 

 狩人のママは、いつもは髪の毛を括っている。私は、二つに分けて緩い三つ編みが多い。基本的に女の人も男の人も髪の毛は伸ばしっぱなしだ。

 美形な森の人エルフだけど、身なりは質素だし、金を掛けるのは武器にだね。

 矢は、木の部分と羽根はあるけど、鏃の鉄は無いから、行商人で買うか、鍛冶屋がいる村で買うしか無い。

 なるべく矢を回収はしているけど、やはり消耗品だ。


「ガンズ村まで行こうかしら?」

 かなり矢が少なくなっているようだ。

 でも、ママは行く時期を逸してしまった。

 次の日は鮭が川を登ってきたのだ。


 今日は、狩人も若者小屋も私達子どもも、全員で鮭漁だ。

 先ずは、大人達が集会場の裏から木の簀みたいなのを運ぶ。

 それを川に設置すると、簀に何匹もの鮭が引っかかった。

 私達、子どもは、鮭の鱗を取ったり、捌く係だ。

 腹を裂いて、内臓を取り出す。

「あっ、卵だわ!」

 筋子って、イクラの素だよね。

「卵はここに入れてくれ!」

 樽に卵は別に入れる。腑は、魔物を誘き寄せる餌にするから、そちらも別の樽に入れていたけど、途中からは土に穴を掘って埋めることになった。

 

 一日中、鮭を捌いて、へとへとだけど、今夜は村中の家で鮭を焼いて食べる。

 明日も、鮭漁だけど、塩漬け組とに分かれる。

「ねぇ、燻製にしても良い?」

 ママとパパは、私の料理スキルをよく知っているし、村人も知っているから、家に配分される分の鮭を先に貰って、釘に吊るしてスモークしておく。

 その間も、塩漬けを作るけどね。

「燻製にした鮭を1匹くれないか?」

 村長さんは、味見をしたいみたい。

「良いけど……鮭を2匹と交換するわ」

 いっぱい保存食が欲しいからね。


「スモークサーモン、美味しい! しまった! 村長さんに3匹と交換したら良かったよ」

 ママとパパに笑われた。

「木のウロをもっと見つけなくてはな!」

 だね! 燻製にするのに時間が掛かるんだもん。


 筋子は、アルコールがあればバラバラにしてイクラにできるけど、ここではそのまま塩漬けにして、お酒のアテにするみたい。

 家のパパもママもお酒は好きみたいだけど、子育て中は、そんな贅沢品は我慢するしかないって感じだよ。

 ワンナ婆さんやヨハン爺さんに代金を払っているからね。

 うちは、下が双子だから、3人分必要なのだ。春から夏なら、菜園を作って1人分は半額にして貰えるかもね。

 だから、筋子分も鮭を貰った。食べ盛りの子どもを育てているからだ。

 ミラとバリーは、生まれた時は小さくて、お粥を食べるのも遅れたけど、それを取り返すように食べている。

 芋やかぼちゃをいっぱい収穫しておいて良かったよ。小麦は残り少ないからね。お焼きは、当分無しだ!


「燻製した鮭と、生の鮭3匹を交換してくれ!」

 村長が食べたのが好評だったみたい。村人から鮭が集まった。

 燻製のウロをもう一つジミーが見つけてくれて良かったよ!

 二日程は、ずっと燻製しながら、半分は塩漬けにした。

 塩鮭からも出汁が取れそうだからね!


「明日こそ、ガンズ村に行くわ!」

 ママがそう宣言したら、行商人がやってきた。これ、フラグになっていない?

 でも、今回の行商人は、少し悪いニュースも運んできたんだ。

「戦争?! 何処の国と国が?」

 バンズ村長さんも驚いている。その上、小麦や豆なども前より高い。

「森の近くのハインツ王国にリドニア王国が攻め込んでいるんだよ。お陰で、食料品の値段が高騰しているのだ!」

 ぼったくりでは無いと、カーマインさんは汗を拭き拭き説明している。


「ちょっと、ハインツ王国って近くの国だよね。うちの息子が春に行った町は、その国なのかい?」

 皆が騒然として、買い物どころじゃない。子どもが行ってなくても、村人は親戚だからね。甥や姪や孫なのだ。

「ああ、近くの町はハインツ王国だ。徴兵されているかもしれない」

 徴兵! この言葉に、皆が怒りだす。

「うちの子は森の人エルフだよ! ハインツ王国の国民じゃないのに!」


 カーマインさんは、汗を拭くのに忙しい。

「それは……まぁ、徴兵を逃れたかもしれないし……私のせいじゃないよ! こちらも大損害なんだ」

 少し、皆も落ち着いた。

「人間に捕まる森の人エルフはいないよ。そのうち帰ってくるさ」

 確かに逃げ足も速そうだ。

 ここからは、高くなった小麦への文句が女の人からブーブーと出たけど、戦争だからと言われると仕方ない。

 

 私は芋のスープと、鮭のソテー、それにキャベツの塩漬けを付けて出した。

 小麦が高いなら、お焼きなんか作れないよ。

「布と鏃は買わないといけないし、小麦も……」

 ガラス瓶を買っても、ふかふかのパンを焼く小麦が無いなら、無意味だよ。

「これで小麦を買って!」

 銅貨100枚を差し出した。キリが良いからね。残りの少しは、来年の春までに取っておく。

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