第14話 お姉ちゃん

 ひまわりの種の2回目の収穫を済ます。

 茎はナタで細かく切って、土に混ぜ込むと肥料になる。

「向日葵の種は、酒のあてに良い」

 ヨハン爺さんも茎を漉き込むのを手伝ってくれる。

 野葡萄を森の手前で栽培したので、それで酒を作ったみたいだね。

 子ども組は、そのまま食べたら酸っぱいから、干葡萄にしたけどさ。

「これで油を取るのが目的だったけど……今年は少しだけだった」

 来年は、春からいっぱい植えよう! 種を煎って食べても美味しい。


「そろそろ、菜園も最後ね! 雪が降っても収穫できる物にしなきゃ」

 ということで、芋を植える。春にいっぱい収穫したけど、かなり食べたし、冬に保存するなら芋が良いからね。

 今回は、村中の菜園の管理をする。芋はもう十分だから、銅貨を貰ったよ。

 

 初雪が降った晩、私はサリーの家に預けられた。ママが赤ちゃんを産むからだ。

 秋の初めに、サリーに弟ベンが産まれた晩は、私の家に泊まりに来たので、おあいこだね。

 夕飯は、私が作った。カボチャのポタージュと持ってきた猪肉の燻製を切っただけだ。

 何だかそわそわして、凝った料理を作る気分じゃなかったからだ。

「大丈夫かしら?」

 サリーは「大丈夫よ!」と宥めてくれる。


 サリーのベッドに2人で寝る。ベンはまだ小さな箱が、ベビーベッドだけど、半年もしたらもっと大きなベッドが必要になるだろう。

 サリーは、来年の秋の行商人に人間の町の魔法使いの所に連れて行って貰うと言っているけど、それは春に巡回神父さんが来てからの話だよ。

 良い魔法使いの師匠が見つかって、そこに弟子入りが決まらないとね!


 私は……まだわからない。できるだけ、ママとパパと暮らしたい。でも、この村は狩人の村なのだと森歩きして実感したんだ。

 私の料理スキルや植物を育てるスキルは、思ったよりもずっと便利だから、村に居ても良いと村長さんは言ってくれるけど、賄いの小母ちゃんを一生はしたくない。

 3番目の子が生まれて、若者小屋に行くぐらいなら、修行に行こう! 

 そう決めて、サリーと寝たけど……。


「ミク、驚くなよ! お前はミラとバリーのお姉ちゃんになったんだ!」

 双子だったんだ! 他の妊婦さんよりもお腹が大きい気はしていたんだよね。

「赤ちゃんに会っても良い?」

 家に走って行く! ママは、少し疲れた顔で笑った。

「赤ちゃん、可愛いわ!」

 ミラは金髪の女の子、ママに似た美少女になるのかな? バリーはグリーンの髪だね。パパに似てハンサムになるのかな?

 初めて妹と弟ができて、お姉ちゃんになった! 嬉しいよ!

「今日は、おっぱいをあげるつもりよ。ミクよりも小さいから」

 その方が良いよ! 抱っこするのが怖いもの。

「ママの好きなトマトスープにするわ!」

 フレッシュトマトはないけど、乾燥トマトで具沢山のミネストローネ擬きを作る。

 

 おっぱいをあげるなら、いっぱい食べなきゃね!

 パパは一気に家族が増えたから、狩りに出かけた。村の狩人達は、もう出発していたけど、小物を狩るそうだ。

 昼も、ミネストローネだけど、肉をミンチにして、生姜と混ぜて肉団子を作って浮かべる。

「この肉団子、美味しいわ」

 だよね! これに麺を入れたら、スープスパゲッティになりそう。


 パパが角兎を狩ってきたから、夜は角兎のソテーだ。

 お粥も食べられるかな? と思ってかなり柔らかなどろどろに作ったけど、ミラもバリーもペッと舌で押し出す。

「まだ無理みたい」


 ママはおっぱいをあげる。ミラとバリーは、夜中にも泣いておっぱいを飲んでいたから、ママは疲れたみたい。

「もしかしたら、2人だからおっぱいが足りていないのかも?」

 不安そうなママ。私はワンナ婆さんの家まで走る。この村で一番子どもについて詳しいからだ。

「ワンナ婆さん、双子は見たことある?」

 ワンナ婆さんは首を横に振る。

「いや、無いけど……ルミは不安だろうから、見に行くよ。産婆のセナ婆さんも呼んで来な!」

 私はセナ婆さんも連れてきた。


「うん、生まれて1日目の感じだね。多分、双子だから、おっぱいが足りないのだろう。明日には、お粥も食べられるさ」

 今、赤ちゃんはオムツを当てている。普通の森の人エルフの赤ちゃんは、すぐに昼はオムツは取れるから、それもママには負担みたい。

「ミク、オマルに日に何回か連れて行くんだよ」

 ああ、それはワンナ婆さんの家でよくやったよ。

 生まれて数日の赤ちゃんは、時々お漏らしをするから、お姉ちゃん達がオマルに連れて行くのだ。

「えっ、ミクは歩けるようになったら、すぐにオマルでしていたわ」


 ワンナ婆さんはケタケタ笑う。

「ミクは、私が見てきた子どもの中でも一番変わっているからね」

 そりゃないよ! 貶しているのか、褒めているのか分からない。

 セナ婆さんもカカカと笑う。

「1人目が手が掛からなかったから、今度は少し手の掛かる子ってだけだよ。数日したら、ワンナ婆さんの所に預けられるさ」

 寒い夜に来て貰ったのだから、とっておきのホットレモネードを出す。

 キラービーのはちみつにレモンの皮を浸けた物に、温かいお湯を入れる。

「ああ、美味しいね!」

 ワンナ婆さんとセナ婆さんは、ホットレモネードを飲んだら家に帰った。


「小さな赤ちゃん、可愛いなぁ! 私が見ているから、ママは寝ていたら良いよ。おっぱいが欲しくて泣いたら起こすから」

 オムツを替えるぐらいは、誰がしても一緒だからね。

 それに、パパは明日からは狩人と出かけるんだ。寝不足で狩りに行って欲しくない。怪我とか怖いもの。


 森の人エルフの村に転生して、まだ1年にならないけど、何人かの若者は怪我をしたし、1人は亡くなった。

 大人の狩人も怪我をした。薬師がいないから、怪我は洗って、布を巻くだけなんだ。それで、膿んだりしたら、死ぬ場合もある。

 亡くなった若者は、腹を牙で突かれて、その場で駄目だったみたい。

 村の集会場で、別れの会をして、村の外の石が積んである台に乗せて火葬された。

 灰は、身内が森に撒くのが森の人エルフのやり方みたい。

「森で生きたのだから、森に帰るのさ!」

 パパは槍使いの若者が亡くなったのがショックだったみたい。

 弓使いは、弓使いに教えてもらうし、斧や槍使いは、それを使う狩人に習うから。


 次の日、夜中に泣かないで朝まで寝たミラとバリーは、大きくなっていた。

「大きくなったわ!」

 驚くけど、パパとママはホッとしている。これが普通みたい。

「お粥を作ろう!」

 パパが張り切っているから、任せるよ。

 私は、昨夜のお礼を兼ねて、ワンナ婆さんとセナ婆さんにお焼きを持って行くから、そちらの用意だ。

 かぼちゃは、赤ちゃんの離乳食にしても美味しそうだから、塩漬にした菜葉を水で塩抜きして、細かく刻んで肉と炒める。1種類でも良いけど、やはり2種類にしよう!

 芋がいっぱいあるから、それで芋餡にする。芋だけだと、かぼちゃほどの甘味はないから、干し葡萄をパラパラと入れる。


 お焼きを焼いていると、パパがお粥を2人に食べさせていた。

「ああ、食べているな!」

 歩かそうと、2人が頑張っているけど、それは今日は無理だったみたい。

 ワンナ婆さんも、数日したらって言っていたのにね。

 でも、ミラとバリーはハイハイを始めたよ。私的には、こちらが普通だと思うけど、パパもママも驚いている。

「ワンナ婆さんに聞いておいてくれ!」

 今日は、パパは狩人達と一緒だ。冬支度の為に大物狩りをするみたい。


 お焼きをワンナ婆さんの家に持って行って、ハイハイについて聞いた。

「ハイハイする子は、時々いるよ。まぁ、数日のことさ!」

 だよね! セナ婆さんも同じような事を言っていた。

 

 ミラとバリーは、生後5日目でワンナ婆さんの家に行った。初日だから、パパとママが抱っこして連れて行ったよ。

 私は、ヨハン爺さんと森歩きだ。木と木を飛んで移動するのが、サリーもできていないから、居残りだよ。

 ジミーは、もう親と狩りに行っている。ケンとミンは、かなり木の移動が早い!

「ほら、あちらの木まで飛ぶんだ!」

 ヨハン爺さん、私とサリーの鈍臭さに呆れているけど、普通の人ってこんな事できないと思うよ。

 でも、これができないと危険なのは、熊に襲われた時に分かったからね。

 大きな魔物は、木の上に逃げても、木を揺すったり、倒したりするんだ。他の木に飛び移って逃げないと食べられちゃうよ。

「そんな事では、ベンとミラとバリーに追い抜かれるぞ!」

 うっ、嫌な事を言う爺さんだね! サリーと顔を見合わせて『イジワルジジイ』と口パクで悪口を言い合う。

 でも、何とか木と木の移動はできるようになったよ。森の人エルフ基準では、とっても遅いみたいだけどさ。

 お姉ちゃんなんだから、ミラとバリーには負けられないよ。いずれは負けるにしてもね!

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