第13話 秋は保存食作り

 夏の交流会、どうやらバンズ村は好評だったみたい。

 こちらの若者も他の村に行ったけど、こちらに来る村の方が多かった。

「ミクのスープとお焼きのお陰だな!」

 褒めても、お焼きはもう作らないよ。短い夏が終わったから、冬に向けて保存食を作らなきゃいけないから。

 森歩きで、小枝を拾うより、きのこや木の実を見つける事に集中する。

 ミンとケンは小枝を拾っているけどね。

 家のパパは斧使いだから、薪は山ほど納屋と小屋の庇の下に積んである。

 それに夏の間、拾った小枝もいっぱいだからね。これは、焚き付けに使うんだよ。


 ジミーは冬までは、森歩きを一緒にすると言ったけど、ほぼ単独行動だ。

「木の実ときのこと、木のウロを見つけてね!」

 最後の木のウロには変な顔をしたけど、黙って頷くと木から木へと飛んで森の奥へ行く。

「ミクの料理スキルは便利だな」

 ヨハン爺さんもきのこを採っていたけど、決まった種類だけだ。

「きのこは、毒があるかもしれないから、知っているのだけ採っていたけど、色々と食べられるんだな」

 毒きのこは、ビリビリした感じだし、食べられるきのこは、よだれが出そうなほど美味しく感じる。

 

 きのこは、肉とソテーしても美味しいし、余ったのは干しておく。

 水で戻すだけで、良いお出汁がでるし、スープの具材にもなるんだよね。

「ウロあった」

 相変わらずジミーは口数が少ないけど、見つけるスキルはアップしている。

 かなり森の奥だけど、パパに伝えて貰って、持って帰って貰う。

 斧使いのスキルなら、上と下をズバッと切ってくれる筈!

「木のウロなんて、何に使うの?」

 サリーは、1番の友達だよ。

「お肉を美味しく保存するの。塩漬や干し肉だけでは、冬の食事が単調になるから」

 冬も狩りに行くから、生肉は手に入るけど、吹雪が続いたら困る時もある。

 非常食があれば、吹雪の時は安心して休めると思ったんだ。

 だって、今年の冬は赤ちゃんもいるし、私も去年の倍以上も食べるからね。


 パパが木のウロを切って持って帰ってくれた。

「ミク、何をするんだ?」

 本当は下に金属の皿が欲しいけど、この村には鍛冶屋がいない。

「硬い木の板が欲しいの」

 パパが、皿代わりの板を切ってくれいる間、私は木をナイフで細かく削りながら少し考えていた。


 夏の交流会で、他の村の若者達が来た時、私は夕飯のスープを作っていたから、少し皆が話していたのを聞いたんだ。

 鍛冶屋がいるのは、ガンズ村で、私の村よりも倍も小屋が多い。何人かはそちらで暮らすのも良いと考えたみたい。ハンサムな青年や綺麗でしなやかな狩人に惚れたのかも?

 そして、驚く事に、人間も住む村もあるそうだ。それは、森の端にあるエバー村で、少し畑も作っているし、家畜も飼っているそうだ。

 ここは、冒険者をして帰ってくる森の人エルフと連れ合いの人間とが住む村から発展してきたみたい。

 村民は、鍛冶屋がいるガンズ村の倍もいる。エバー村の若者に、私が薬師の修行を終えたら、歓迎するから住まないかと勧誘されたよ。


 バンズ村と同じぐらい小さな村も何個もあるみたいだし、それらは森の中に点在していて、だいたい良い狩場が近くにあるそうだ。

 この村の側にも川も流れているし、小川や沼地があるから、魔物が寄ってくる。良い狩場みたい。


「ミク、これで良いのか? このウロの中に何か入れるのだろう? 扉は、これでピッタリだけど、食べ物を保存するのか?」

「違うの、ここに釘を何本か打って!」

 ウロの中に釘を打って貰ったら、生の鹿肉や猪の肉に塩をまぶしていたのを引っ掛ける。

 そして硬い木の板を水で湿らせて、その上に細かく削ったチップをこんもりと置いて火をつける。

 ピシャン! と木の扉を閉めて、煙が外に抜けてないか調べる。


「これで、お肉の燻製ができるのよ」

 パパは、何か美味しい物ができるのだろうと笑っている。

 ママは、かなりお腹が大きくなってきたけど、まだ狩りに毎日行っている。

「ミクも木から木へ移動できるようになったの?」

 ううん、難しい質問だね。

「近くの木にならね!」と簡単に答えておく。

「来年は、夏に塩を一緒に取りに行くつもりだから、木と木を飛べないと日が暮れてしまうわよ」

 これは、1歳以上の子がしなくてはいけない行事みたい。

「マックやヨナは行ったのか?」 

 パパの質問にママが呆れている。

「一緒に行ったでしょう!」

「来年は、大勢いるな!」

 サリー、ジミー、私、ミン、ケン、マナが1歳になっている。


 2時間燻して、塞いでいた木の板をどけると、中にはチップの良い香りが満ちていた。釘に刺した肉を取り出す。

「なんだか茶色になっているわね」 

 ママは少し心配そうだ。

「切って、食べてみましょう」

 今夜はかぼちゃのポタージュだよ。本当はミルクで伸ばしたかったけど、骨の出汁で伸ばしている。

 スモークした鹿肉を薄くナイフで切って、菜っぱの酢漬けと皿に並べる。

「かぼちゃのスープは甘くて美味しいな」

 これは、若者小屋でも人気なんだよ。

 さて、スモーク鹿肉はどうかな? ナイフに刺して食べる。

「うん? 変わった風味だけど、美味しい!」

 パパは気に入ったみたい。ママは、黙って全て食べた。

「燻製したら、肉が長持ちするの」

 パパとママはにっこりと笑って「なら、いっぱい狩って来ないとな!」と同時に言った。


 森歩きで、さくらんぼ、レモン、りんご、なし、柿、胡桃、をジミーが見つけてくれたので、果実や木の実を採った。

 りんご、レモン、なし、柿、胡桃の苗木を森歩きの小道の側に植えたよ。

 毎日、歩くたびに「大きくなぁれ!」と唱えているけど、実がなるのはまだ先だね。


 村の石垣の外に植えた無患子は、どっさりと実をつけたから、村の人も少しなら取って良い事にした。特に若者小屋の人達は、清潔にした方が良いからね。

 ミントは本当に増えやすいから、1週間に1回は森歩き組で刈って、各家のハーブティーにしている。乾かし方も教えたので、冬も飲めるけど、他のハーブも良いかもね。カモミールとか無いかな?

 狩人達が夏に何度かジャイアントビーを見つけて、討伐し、巣を手に入れたから、参加した家には蜂蜜が配られた。

 これにレモンの皮を漬けているから、冬はお湯で割って飲もう。

 りんごの皮も乾燥させてあるから、それもハーブティーに良いよね。


 納屋の中に棚を作って貰った。下の木の箱には芋とかぼちゃがびっしり! キャベツは半分は刻んで塩と樽に入れている。かぶもね! 

 玉ねぎは茎を編んで天井から何本もぶら下がっている。とうもろこしは、生でゆがいて食べても美味しいし、スープにしても美味しい。思ったより残らなかったけど、乾燥させているよ。

 トマト、ガラス瓶があるなら、トマトソースにして保存したかったけど、生でサラダにしたり、スープに入れたら大好評だった。

 切って乾燥させたのは、木の箱に入れて冬の間、大事に使うつもり。

 秋に植えた野菜の最後の一株は、残して花を咲かせて種を取ったけど、来年も使えるかはわからない。

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