第12話 夏が来た!

 熊が出た森歩きの後、小物の魔物以外出会う事もなく、夏が来た! 

 私とサリーは木と木が近い時は、なんとか飛び移れる様になった。

 ジミーは、ぴょんぴょん飛び移って、単独で森の奥へ行っては、珍しい植物があったら案内してくれる。

 お陰で、色々なベリー類が手に入ったよ。それに、花も色々ね!


 特に役に立ちそうなのが、ひまわりと百合と生姜とニンニク!

 ひまわりは、速成させて、種を村の前の開けた土地にいっぱい撒いた。

 今は、花が咲いてとても綺麗な風景になっているけど、それが目的じゃない。

 ひまわりの種って食べれるし、油も取れるんだ。

 

 百合や生姜の花って綺麗なんだよね! 根っこは食べられるしさ! これは魔物も食べそうだから、庭の横に植えたよ。

 木苺に覆われた小屋の横に生姜と百合とニンニクの花が咲いてて、すごくフェミニンだ。

 木苺系は、各家で育てて、サリーの家はラズベリー、ジミーの家はクランベリー、ヨハン爺さんの家はブルーベリーに覆われている。

 

 コケモモは、採って、村人にも少しお裾分けした。熊に襲われそうになった時、お世話になったからね。

 それと、蓮根は肉と炒めて、3人の家に配ったら、ヨハン爺さんは気に入ったみたいで、沼地へ行く割合が増えたよ。


 夏野菜と豆を収穫してから、スープの味がぐんと良くなった。特にトマトは、調味料になるからね。

 ミネストローネもどきは、若者小屋でも大人気だ。

 かぼちゃスープ、とうもろこしスープも人気だけど、キャベツスープとかぶのスープは少し不人気だから、肉を入れて作っている。


「わぁ、バンズ村って凄く綺麗だな!」

 夏の交流会が始まって、結婚相手を選ぶには早い3歳から7歳の子は、各自の実家に戻り、そこに他の村の8歳以上の若者がやってきた。

 急に村の人口密度が増えた気がするよ。

 先ずは、村の前のひまわりの群生を見て、他所の村の若者達が驚いていた。

 それに、各家の菜園も野菜がどっさりなっているから、目がまん丸だよ。


「今日は、トマトの入ったスープにして欲しい」

 サリーのお兄ちゃんのサムに頼まれたから、ミネストローネを作った。

 春に、10歳になった若者達の大勢が村を出て、人間の町で冒険者になったから、8歳のサムが急にリーダーっぽい地位になり、全く掃除とか考えて無かったみたい。

 でも、セナ婆さんの監督のお陰で、若者小屋も綺麗に保てている。


 この日は、森歩きはしないで、私はいつもは作らない凝った料理を作る。

 先ずは、小麦を挽いて、細かな小麦粉にする。

 家には石臼が無いから、集会場のを使って、ゴリゴリ挽く。

 そして、木のボールにお湯と塩を入れて混ぜたのに、小麦粉を加えて、練って一纏めになったら、布巾を被せて寝かせる。

 その間に、中に入れる具を作る。かぼちゃ餡とキャベツと玉ねぎと肉を細かくした前世の餃子の具っぽいのを作った。

 寝かせていたのが少し膨らんでいるから、これを40個に切り分ける。

 20個をかぼちゃお焼き、もう10個を肉まん風お焼きにする。

 本当はセイロで蒸したいけど、フライパンに油をひいて、先ずはかぼちゃお焼きを並べる。

 パパに作って貰った木の蓋をして、片面を焼いたらひっくり返して、ちょっとしたら水を少し入れて蓋をして蒸し焼きにする。


「一口大だから、サリー、ジミー、ワンナ婆さん、ヨハン爺さんの家に分けてあげよう!」 

 肉まん風のも焼き終えて、木の皿に並べる。

「サリーの家は、お姉ちゃんのリサが家に帰っているから、4人! ジミーの家は3人! ワンナ婆さんは1人! ヨハン爺さんは2人!」

 家には20個! これは、明日も焼き直したら美味しいし、森歩きに持って行っても良い。


 なんて考えていたけど、村長さんが料理の匂いを嗅ぎつけてやってきた。

「ミク、それは何だい?」

 思わず隠しそうになったけど、村長さんには色々とお世話になっているからね。

 若者小屋の前の菜園を使わせて貰っているから、野菜がいっぱい作れるのだ。

「お焼きよ!」と簡単に答えておく。

「1個、銅貨1枚で売ってくれないか?」

 野菜はいっぱいあるけど、私はお金を持っていない。秋の行商人が来る時にガラス瓶が欲しいんだ!

「良いけど……かぼちゃ餡は甘いわ。キャベツ、玉ねぎ、肉餡は、塩味とニンニク味なの」

 村長さんは「銅貨2枚で、どちらも欲しい!」と我儘を言い出した。


 椅子に座って貰い、木のコップにミントティーを淹れてあげる。

 前は、白湯オンリーだったけど、村の前に植えたミントが蔓延っているから、ひまわりの種を植える時に、サリーとジミーに手伝って貰ってかなり引っこ抜いたのだ。

 フレッシュミントティーも良いけど、冬の為に乾かしている。家の中はミントの束がいっぱいぶら下がっているよ。

「うん、やはり美味しい!」

 匂いで駆けつけて来たんだもんね! お焼きを2個、ペロリとたべた。


 ミントティーを飲んで、村長さんは交渉開始だ!

「なぁ、ミク、これを若者小屋に差し入れしてくれないか? 明日、狩りに行く時に持って行ったら良いと思うんだ。勿論、代金は私が払うよ」

 うっ、私の弱味をぐぃぐぃついてくる。ガラス瓶が欲しいと前に話したのは、まずかったよ。

「明日は、私も森歩きの日なんだけど……」

 婉曲に断っているのに、それは無視された。

「春からずっと毎日森歩きしているじゃないか。少し休んでも大丈夫だろう?」


 確かに、それも正しいんだ。でも、サリーやジミーと森歩きできるのも秋までかもしれない。

 ジミーは、もうヨハン爺さんの森歩きは卒業できるんだ。秋の収穫は、大人は本気で肉を蓄えたいから、子どもは連れて行かない。

 冬は、ちょこちょこ狩りに親が連れて行くから、ジミーは来なくなる。

 まぁ、ヨハン爺さんの森歩きも、冬は晴れた日しかしないんだけどね。

 ケンとミンが秋から参加するだろうけど、サリーとジミーと私とは違う。友だちと仲間の違いだよ。


「銅貨40枚あれば、ガラス瓶が買えるぞ!」

 うっ、それは……家の全財産より多いかも? 春に布をいっぱい買ったから、金欠なんだよ。

「良いわ!」と引き受ける。

「今日のより、少し大きくしてくれ!」

 村長さんは抜け目ないけど、0歳児にそれは無いよ!

「なら、肉抜きだわ!」

 こっちだって負けないぞ。

「肉は……まぁ、少なくていいさ! かぼちゃ餡20個、肉野菜餡が20個だ!」

 そうと決まれば、さっさとお焼きを配って、小麦を挽かなきゃね。


 お焼きは夜のうちに作っておく。朝早く、焼くつもりだ。

 パパとママは、お焼きが美味しかったから、また作るのかと喜んでいたけど、村長さんに頼まれたと言ったら、羨ましそうな顔をした。

「狩りの時に食べるのかぁ」

 パパとママにも持って行って貰いたいけど、大人の狩人全員分は無理だからね。

 それに夏は遠出をしているみたいで、お昼は食べる暇は無いかも?


 朝早く、お焼きを焼いて、木を薄く削ったのに、2個ずつ包んで、籠に入れて持って行く。

 サムに渡したら、配って狩りに出発したよ。

 私は、少し野菜の手入れをしたり、収穫してから、若者小屋のスープを作る。

「昨夜は、トマトスープだったから、今夜はかぼちゃスープかな?」

 夏だからとろみは少なめにしよう! あっ、若者小屋のスープを作りだしてから、私は親がいなくても火を使っても良くなったんだ。


 この日は、森歩きを休んだから、村の中の木苺をケンとミンと採ったりして過ごした。

 お昼は、ワンナ婆さんの家で、残ったお焼きを持って行って、全員で分けて食べたよ。

「ワンナ婆さん、村長さんは交流会で来た、他の村の若者達に気を遣っているけど、何故なの?」

 ワンナ婆さんは「なぜ攻撃だ」と苦笑する。

「若者にこの村を選んで欲しいからさ」

 えっ、もう満杯じゃん!

「まだ、ミクには分からないかもね。私やヨハン爺さんやセナ婆さんは、数年後にはいなくなる。今年結婚した若者は1組だけだったし、それも相手の村に移ったから、村長さんは不安なんだよ。今年の春、若者が人間の町に大勢出て行ったのもあるかもね」

 顔は見たことがあるかもしれないけど、名前もうろ覚えの若者小屋の人達が春に出て行ったのは知っていたけど、それが問題だとは考えていなかった。

「今は、私は1人で住んでいるけど、老人が集まって住むかもしれない。小屋が空き家になるのを村長さんは心配しているのさ」

 ワンナ婆さんが亡くなる? 凄く元気そうだけど? ヨハン爺さんだって、セナ婆さんだって。

「ミク、お前はまだ0歳だけど、人間の子の0歳とは違うと爺さんに聞いたよ。あちらでは、5歳にならないと手伝いも碌にできないんだってさ。15歳まで、ゆっくりと成長するし、30歳過ぎたら歳を取ってしまうし、寿命も短いそうだ」

 ふうん、そうなんだ。

森の人エルフはさっさと成長して、そこからは年を取りにくい。でも、70歳ぐらいから一気に年寄りになっちゃうのさ。ほとんどの人が80歳になったら死んじゃうね」

 えっ、そうなの!

「ワンナ婆さん、死なないで!」

 抱きついて泣いたら、ミンとケンが驚いていた。

「まぁ、私はもう数年は生きるつもりだよ。セナもヨハンも達者だからね」

 2人の方が年上みたい。髪の毛がまっしろだからね。

 0歳の私には、もう数年はかなり長い先の話に思えたのだった。


 夏、野菜をあれこれ植えていたから、忘れそうになっていたけど、白い袋に入っていたスイカも植えたよ! これは私の家とワンナ婆さん、若者小屋の前の菜園の1畝に植えた。

 若者小屋とワンナ婆さんの家にしたのは、大勢が集まる場所だからだ。

 スイカは丸じゃなくて、長細い形だった。収穫時期は、ポンポンと叩いたらわかるってテレビでやっていたけど、良いのかな?

「一個、切ってみましょう!」

 ワンナ婆さんの家のスイカを一個、朝採って井戸の水を桶に汲んでつけておく。

 森歩きから帰って、切って赤ちゃん達と食べたよ。

「これは甘くて美味しいね! こら、種は食べちゃ駄目だよ。来年、撒くんだからね!」

 ジミーは食べるのも早い。あっという間に食べちゃった。


 若者小屋のスイカは、すぐに無くなったよ。私は4分の3を確保するのに必死だったね。

 でも、若者小屋の人達は、狩りに行くからね! その間に、熟れたスイカを取るんだ。

 家のと確保したスイカは、サリーやジミーやケンやミン、そしてヨナとマナの家に分ける。

 村で暮らすには、心遣いも必要なんだってママとパパが言っていたからね。それに、皆、親戚だからさ。

 それと大きくなってからは、切ったら、半分あちこちの家に持って行ったよ。

 ヨハン爺さんの家や村長さんの家にもね!

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