第11話 狩人の村

 セナ婆さんは、厳しかった。私が起きた時には、もう若者小屋の布団を洗わせていたからね。

「とっとと干さないと夜は布団なしになるよ!」

 それに、芋も収穫させていた。

「ミク、小屋も綺麗にさせるから、夜のスープだけでも作ってやってくれ! その代わり、ここの菜園は好きに使って良いから。まぁ、少し野菜を食べさせてやって欲しいが……」

 セナ婆さんが「はっきり決めた方が良い」と言ってくれた。

「ええっと、4分の1でどうかな?」

 前は3分の1だったけど、私の取り分が増えたなら、それで良いよ。

「それで良いです! でも、水汲みはしておいて欲しいな」

 居間には大きな鍋があった。それに大きな水瓶もね!

「よし、それはさせておくよ」

 セナ婆さんに任せよう!


 ここには、連作できないトマトかナスを植えるつもりなんだ。でも、まだ早いから、基礎野菜の玉ねぎとキャベツの苗、そして人参の種を撒く。

 水遣りをしてから、門まで走る。

「ハハハ、うちの婆さんと色々話していたな」

 ヨハン爺さんは、自分にあれこれ命令する暇が無くなるのが嬉しいみたい。

 今日は、ハーブを見つけたいな!

 ヨハン爺さん的には、木と木の移動ができるようになるのが目標みたいだけど、ジミーは合格できそうだけど、私とサリーは無理じゃないの?

 でも、なるべく足音を立てないように歩きながら、小枝を拾うよ。

 

「今日は、少し違う道を行くぞ!」

 昨日は、小川が途中にあったけど、今度は沼地に出た。

「ここには、魔物が多く集まるのだ」

 少し緊張するけど、それより、あれって蓮だよね!

 沼地に入るのは、少し勇気がいるけど、靴を脱ぐ。

「ミク? 何をする気だ?」

 ヨハン爺さんは、靴を脱いだ私を不審に思ったみたい。

「あの根っこは食べられるの!」

 全員に呆れられたよ。

「魔物が出るぞ」

 あっ、そうなんだけど……食べたい!

「毒蛙が出たら、ジミー撃つんだ!」

 ヨハン爺さんも靴を脱いで、ズボンの裾を巻き上げてついて来てくれた。

 蓮根って、掘るの大変だね! ナタで沼地を掘って、ヨハン爺さんと引っ張って抜く。

 何本か抜いていたら、大きな蛙が出て来た。

「ゲロ!」と鳴いた瞬間には、ジミーの矢が当たっていたよ。


「毒蛙だけど、毒袋を破かなければ、なかなか美味いのだ。それに、この皮は水筒にできるぞ」

 これは、見た目は美味しそうに見えないけど、ジミーは嬉しそうに籠にぶら下げている。

 私は、蓮根を1本ずつ分けようとしたけど「食べ方がわからん」と断られた。

「なら、雨の日に作って持って行くわ」

 蓮根の挟み揚げ、蓮根まんじゅう、好きだったよ。それは作れるか分からないけどね。

 肉と炒めただけでも美味しそう!

「ああ、普段の日は賄いスープを作るから忙しそうだものな」

 そうなんだよね! 0歳児なのに、賄いの小母ちゃんだよ。

 

 草で沼地の泥を拭き取って、森歩きを続ける。

「お昼にしましょう!」

 ヨハン爺さんも、焼き芋お昼に慣れたみたい。

 座れる岩がある場所に連れて行く。

「この芋って、熾火に埋めたらできるのよ」

 サリーとジミーとヨハン爺さんに教えておく。

 サッサと食べたら、もっと奥へと進む。


「あれは?」

 少し歩いたら、川に出た。そこから、山が見えたんだ。

「あれはスミナ山だ。夏には、塩を取りに行くのさ」

 かなり遠そうだけど?

「日帰りで行くのさ」

 うん、普通の人間なら数日かかりそう。


 なんて呑気な話をしている場合ではなかった。水辺には、魔物も出やすいけど、植物も色々生えているんだ!

「あっ、タイムとフェンネルだわ!」

 これって植物成長スキル? 料理スキル? 前世では聞いただけのハーブでもすぐに分かる。

「あっちにはミント!」

 ミントは園芸の敵! って言われるほど、蔓延るから菜園には植えないけど、門の外なら勝手に生えるんじゃないかな?

「根っこごと持って帰りたいです!」

 ヨハン爺さんも、慣れたみたい。

「わしとジミーで見張っておくよ」

 いそいそと、タイム、フェンネル、ミントを根っこごと採る。焼き芋を包んでいた薄い木に包んで、籠に入れるよ。

「これを刻んで肉を焼く時に振ったら、臭みがなくなって美味しいのよ」

 

 そして、少し歩いた場所で、ローズマリーを見つけた。

 これは根っこからは持って帰れない。

「サリーも持って帰ったら? 良い香りなのよ」

 手で葉っぱを触っただけで、ローズマリーの香りがする。

「本当ね! これはどうやって使うの?」

 肉を焼く時に使えば風味が良くなるし、芋と肉を炒めるのにも使えると言ったら、ヨハン爺さんもジミーも何本か枝を切って籠に入れる。


「ミクって、不思議ね? だって初めて見た植物でもわかるなんて!」

 サリーに言われて、前世の記憶なのか、スキルのお陰なのか、首を捻っちゃうよ。

「まぁ、料理と植物成長スキルだからな! 食物の事は、ミクに任せたら良さそうだ」

 後は、ニンニクとか生姜とか、砂糖が欲しい。蜂蜜でも良いし、楓糖でもね!

 ローリエは、ないかも? 寒い地方みたいだから。

 

「秋になったら、野葡萄もあるから、ミクに栽培して欲しい。酒がつくれるからな」

 お酒、調味料にしても良いけど、多分飲まれちゃいそう。

 どうも、私といると食べ物の話しが多くなる傾向があるよ。


 でも、一日目と違って、木登りは格段に早くなった。

 何故、木登りしたのか? 大きな魔物と遭遇したからだ。

「ミク、サリー! 木に登れ! ジミーもだ」

 ジミーは、一瞬躊躇ったけど、背負い籠を置いて、弓矢だけ背負ったまま素早く木に登った。


 ヨハン爺さんも、私達が木に登ったのを見てから、一瞬で木の上に飛び上がった。

 ピー! と鋭い音で笛を吹く。

 足音でも逃げる魔物が多いのに? と思ったけど、大物魔物は、そんな事は気にしないみたい。

「ジミー、弓では無理だから、撃つな!」

 現れたのは、大きな熊だった。ヨハン爺さんは、もう一度、ピー! と笛を吹く。


 熊は、ヨハン爺さんの登った木を揺さぶっている。怖い!

 折れちゃいそう! と思ったら、ヨハン爺さんは、他の木に飛び移って、またピー! と鋭い音で笛を吹く。

 熊は、ヨハン爺さんの飛び移った木に突撃する。

 でも、また飛び移って、笛を鋭く吹く。


 私は木のかなり上まで登って、小さくなって隠れているけど、ドキドキが止まらない。サリーやジミーも音を立てないようにじっとしている。

 ヨハン爺さんは、熊の気を引いているのだ。

 何時間も経った気がしたけど、数分の事だったみたい。

 木と木を移動しながら、村の狩人達がやって来た。

 魔物が出た笛を聞きつけたのだ。

 何本かの矢が刺さったが、熊はより怒っただけだ。でも、脚は止まった。ママの矢が関節を射抜いたのだ。

 脚が止まった熊を、サリーパパの槍とうちのパパの斧で倒した。


「ミク、大丈夫か?」

 パパが私がいる枝に飛んで来たよ。

「うん、大丈夫!」とは言ったけど、ぶるぶる震えちゃった。

 パパは、私を抱いて、地面に飛び降りた。ママが抱っこしてくれたよ。

「こんな熊を取り逃すな!」

 ヨハン爺さんに、狩人達は叱られている。

 まだ、ここは村に近い森みたいだ。大物の魔物を村に近づけないのは、狩人の決まりみたい。

「ああ、悪かったよ!」

 サリーやジミーも親に抱っこされている。ジミーは下ろして欲しいって顔をしているけどね。


 今日は、ここで森歩きは終わりにして、村に帰る。狩人達は、大きな熊を解体してから運ぶみたい。

「弓では倒せない魔物がいるんだ」

 弓スキルのジミーは、ショックみたい。

「目を射抜けば、倒せるさ! だが、それには地上から撃たないといけない。適材適所を覚えないと早死にするぞ。それに鳥系の魔物は斧では狩りにくい」

 少し考えて、ジミーは頷いた。

「脚を止めたのは弓だ!」

 ヨハン爺さんは、ポンと肩を叩いている。

 うん、ここはやはり狩人の村なんだ。私は、一生、賄いの小母さんをするだけでは嫌だ!

 サリーと顔を見合って、黙って手を繋いで村まで歩いた。

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