第10話 初めての森歩き

 次の日の朝は少し早く起きて、芋を熾火に4個埋めて、菜園の水遣りをした。

 若者小屋の前の菜園は、まだ芋が収穫されていなかったから、パスしたけどね。

「おやおや、今日からはヨハン爺さんの森歩きなんだね。ううん、なら人参の4分の1はあげなきゃいけないね」

 そう、今までは預かり賃を半額にして貰っていたのだ。

「人参、好きなのに良いの?」

 ははは……とワンナ婆さんは笑う。

「前に食べたいから種を買ったけど、上手く育てられなかったから、良いんだよ。それより、遅れるよ!」

 おお、そうだった!


 慌てて家に帰って、背負い籠とポシェットを掛ける。ポシェットの中には、木を薄く削ったのに4個の焼き芋を包んで入れる。

 ナイフは、ベルトに挟み、ナタを手に持って村の出口まで走る。

「遅いぞ!」

 ヨハン爺さんに叱られたけど、サリーは「私も今来たところよ」と笑って言った。

「今日から、サリーとミクも森歩きだ。注意する点を言っておく。魔物が出たら、木に登れ! わしとジミーで狩るから、邪魔にならないようにするのだぞ」

 まぁ、狩人のスキルは無いからね。

「それと、これを渡しておくから、逸れたら笛を吹け。吹く時は木に登ってからだぞ」

 木登りできるかな?

「あのう、木登り苦手なんだけど……」

 サリーも、ミンやケンみたいに家の屋根を飛んだりしていないもんね。

「えええ、そうなのか? なら、今日は木登りの練習からだな」 

 ヨハン爺さんに、溜息をつかれたよ。


 笛は木でできてて、紐で首から下げられる様になっている。

「ピー! と強く吹くのは、魔物が出た時だ。ピーピーピーは迷子になった時だな」

 吹き方の練習をして、村から出る。

 無患子を植えた時にちょこっと出た事があるだけなんだよね。

「ヨハン爺さん、無患子を育てて行くね!」

 門の横にある無患子を植えた土地に手をついて「大きくなぁれ!」と唱えてから、走ってサリーの横に行く。


 まだここら辺には木は生えていない。魔物が出なければ、小麦を植えたいよ!

「ミク、ここに食べ物を植えても、魔物に食べられるだけだ」

 そうなんだよね! 一日中、見張っていられないもの。

 前世でも鹿とか猪とかの農作物被害がニュースになっていた。まして、魔物が出る森の中だからね。

 木々が生い茂る森の中の小道を歩く。

「ほら、雪で折れた小枝とかを拾いながら歩くんだぞ」

 ジミーは慣れているから、少し小道から外れた所の小枝を拾っているので、サリーと私は近くのを拾う。


 ちょっと森に入った場所で、ヨハン爺さんは脚を止めた。

「ジミーは薪を拾っておけ。サリーとミクは木登りの練習だ。先ずは、どの木が登り易そうか見極めろ!」

 サリーと2人で、キョロキョロ見渡す。

「さっさと見極めて、登らないと魔物に喰われるぞ!」

 私は、手を伸ばせば枝に届きそうな木にする。

「なかなか良い木を選んだな! サリーも早く選んで登れ!」

 私の方が先に選んだけど、サリーの方が登るのは早かった。

「ミクは……まぁ、練習あるのみだな!」

 鈍臭い! と言いかけて、ヨハン爺さんはやめたみたい。植物成長スキルと料理スキルと薬師スキルだもんね。

 まだ、サリーの風の魔法スキルの方が森歩きには役に立ちそうだよ。


「ミク、下の枝では、魔物がジャンプしたら喰われるぞ。もっと上まで登れ!」

 前世では、木に登った事は無かった。初木登りなのに、割とスルスル登れるのは森の人エルフ特性なのかもね?

「そこからジャンプして降りれるか?」

 無茶言うね! でも、サリーはピョンと飛び降りている。

 私は、二枝降りてから、飛び降りるよ。

「ふぅ、夏の間に特訓が必要だな」

 ヨハン爺さんに、しごかれそう! でも、森の中を自由に移動できるようになりたい。

「はい!」と元気よく返事したら、苦笑された。


 木の枝を拾いながら、もう少し奥に入ると、小川が流れていた。

「言っておくが、水がある場所には魔物が集まる。だから、油断しないように! こら、ミク! 聞いているか?」

 聞いているけど、あれって水セリだよね!

「ヨハン爺さん、あれって食べられそう!」

 植物成長スキルは、食べ物がわかるみたい。ラッキーだよ。

 似ていても毒がある植物もあるからね。

「食べられるのか? なら、採取して良い。見張っておく」

 一本採って、小川で洗って口に入れる。

「ホロ苦いけど、サッとゆがいたら美味しそう!」

 サリーやジミーも真似をする。

「苦い!」ジミーはペッと吐き出した。

「どれどれ?」ヨハン爺さんは、もぐもぐ食べている。

「見張っておくから、わしのも採ってくれ」

 3人で水セリを採る。


 全部は採らずに残しておくよ。

「さて、もっと奥に行くぞ! できたら、小物を狩りたい」

 ジミーとヨハン爺さんは弓と矢を持って来ている。

 静かに歩く練習も必要なのかも?

「こんなに足音がうるさかったら、何も出てこないな」

 サリーと私は、ヨハン爺さんとジミーの倍の足音がしている。

「静かに歩く練習をしながら、小枝を拾うのだ」

 うん、難しいよ。でも、必要なのかもね?


 かなり森の奥に入ったと思ったけど、狩人達は見かけない。つまり、まだそんなに奥じゃないのかも?

「ミク、あっち!」

 滅多に口を開かないジミーが珍しい。

「ああ、もう少ししたら、あそこら辺にはコケモモが生える」

 それは良いな!

「成長させても良いかな?」

 ヨハン爺さんも、頷いているから、ジミーに案内してもらって、コケモモの芽が出ている地面に手をついて「大きくなぁれ!」と唱えておく。

 

 もう少し歩いたら、お腹が空いてきた。

「ヨハン爺さん、焼き芋を持って来たので食べましょう」

 ヨハン爺さんは、少し呆れたみたいだけど、ちょこっと小高くなった岩場でお昼にする。

「森で昼飯を食べるなんて、初めてだ!」

 薄く削った木に包んだ焼き芋を皆に分ける。

「うん? わしのもあるのか?」

 1人だけで食べたりしないよ。

「美味しい!」

 サリーはもう皮を剥いて食べている。

「うまいな!」

 ジミーの家では、湯がくだけなのかな?

「焼いた芋は美味しいな!」

 焼き芋1個だから、あっという間に食べたよ。

 サリーの皮袋から水を貰って、飲んだら、帰る。


「今日は、初日だから疲れる前に引き返そう!」

 ヨハン爺さんは、子どもの森歩きに慣れているから、無理はさせない。

 それに、これから秋までずっと大雨じゃない日は森歩きだからね。


 帰る時は、小道から外れた所を歩いた。

「シッ!」

 私とサリーは、立ち止まって静かにする。

 ヨハン爺さんは、ジミーに狩らせるつもりみたいだ。

 遠くに兎に角が生えたのが1匹見える。

 シュバ! ジミーの矢が当たった!

「まだだ!」

 ヨハン爺さんが小声で指示を出す。

 えっ? ああ、もう1匹いたんだ。

 シュ! 外れたと思ったら、シュバ! っとヨハン爺さんの矢が射止めた。

「この時期のアルミラージュは番いが多い。覚えておけ!」

 ちょっと悔しそうなジミーだけど、0歳で狩りをしているのって凄すぎるよ!

 角兎の脚を縄で括って、籠にぶら下げると、村に帰った。

 

 前世だったら、可哀想とか思ったのかもしれないけど、狩人の村に生まれたからか、美味しそう! って思っちゃうんだよね。

 サッと湯がした水セリと、角兎のソテー! 涎が出ちゃう。

 なんて、呑気に帰ったけど、村の様子が少し変だ。

「何事だ?」

 ヨハン爺さんも少し眉を顰めている。

 埃っぽいと言うか、空気が悪い。

「若者小屋の大掃除だわ」

 サリーが笑っているけど、20人程の若者小屋の人達は、不機嫌そうに洗濯をしたり、布団を干している。

 臭いのは、布団の匂いだ!


「この布団は、洗わないといけないな! 羽根を取り出して、布団の生地を洗うのだ」

 村長さんは、狩りに行かないで、掃除の監督をしているけど、今から洗ったら今夜は布団なしになるよ。

 次々と帰ってくる狩人達も、臭い布団に眉を顰めている。

「不潔にしていると、魔物に逃げられるぞ!」

 村長さんは「明日は、朝から布団を洗うぞ!」と厳命して、若者小屋からブーイングを受けていた。

 でも、村の狩人全員から「綺麗になるまで狩りは禁止だ!」と怒られて、肩を落としている。


 ヨハン爺さんも「アイツらを躾け直す必要があるけど……ワンナ婆さんは、赤ちゃんの守りだし……ルミは掃除が上手いが、狩りに行きたいだろうなぁ」とブツブツ言っている。

「セナ婆さんは?」

 ジミーの言葉に、ヨハン爺さんが笑う。

「アイツなら、若者を躾け直せるだろう。少し若者達が気の毒だけどな」

 セナ婆さんは、ヨハン爺さんの奥さんだ。もう、狩りには行ってないけど、家で織物をしている。

 行商人が来ない期間は、村で布が欲しくなったら、セナ婆さんに頼むしかないのだ。

 村長さんも同じ考えに行き着いて、明日からはセナ婆さんが、若者小屋の監督をする事になった。

「明日は、布団を洗うから、一日中監督をするけど、その後は、朝にチェックするだけだよ。私は織物をしなくちゃいけないからね」

 ちゃんと掃除して、布団をキチンとしないと、狩りには行かせない! と村の大人が決めたみたい。

 

 その日の夜は、鳥系の魔物の骨でスープを取って、芋を煮込んだシチューにする。

 それに、サッとゆがいた水セリを散らしたら、春の味がした。

「美味しいわ!」

 ママとパパは大絶賛だ。

「骨は、皆欲しがらないから、今度からは絶対に貰おう!」

 出汁とか取らないのかな? まぁ、競争率が低い方が良いけどね。

「森歩きは、どうだった?」

 私は、ヨハン爺さんに習った事を報告する。

 ああ、前世でも学校であった事を両親に夕食の時に話したかったなぁ。

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