第8話 野菜を育てよう

 行商人は、朝も商品を並べていた。買い忘れた物を、買いに来る村人も多い。

 それと、若者小屋のお兄ちゃんやお姉ちゃん達は、昨日は小母ちゃん達の迫力でゆっくりと買えなかったみたいだ。

 個人的に狩った魔物の皮や角を売って、布やナイフを買っている。

 小麦とかの生活必需品は、村長さんが若者小屋の取り分で買ったみたい。

 だって、3歳から10歳の子どもだからね。何人かは13歳ぐらいの人もいるけど、まだ大人ではない。


 まぁ、私やサリーは3歳か2歳で修行に出るんだけどさ。やはり、サリーもアルカディアに行った方が良いんじゃないかな? 

 彼方なら、まだ3歳だと分かって貰えるけど、人間は見かけで10歳以上だと思うだろうから。

 でも、それはサリーと親が考える事で、私は自分のするべき事をするしかない。ちょこっとサリーに言ってはみるけどね。

 私は0歳だけど、前世の記憶があるから、ちょこっとだけ有利なんだ。まぁ、ほとんどベッドで過ごしていたから、実体験は少ないけどさ。


 この異常に成長の早い身体と能力は認めるけど、社会的には子どもは、子どもとして扱うべきだと思っちゃうんだよね。

 若者小屋の菜園を作って、より実感したんだ。狩りの能力は大人と引けは取らないのかもしれないけど、生活面はまだママが必要そうなんだもの。

 つまり、部屋は掃除していないから汚いし、チラッと見えた寝室の布団とかもぐちゃぐちゃだ。

 家は、貧乏で物が少ないってのもあるけど、ママとパパがスッキリと片付けて掃除もしている。 

 それに、布団も起きたらキチンと整えている。

 私も自分の小さなベッドの布団をキチンとするようにママに言われて、やっているよ。

 まぁ、キチンとしないと、親のベッドの下にしまえないってのもあるけどさ。


 若者小屋=無秩序なティーンエージャーの汚部屋! イメージ悪いから、もし3人目が生まれたら、私も2歳でアルカディアに行くかもね。

 下働きって何をするのか分からないけど、きっと掃除とかするんじゃないかな?


 と言う事で、ママとパパが狩りに出かけた後、家の掃除をする。暖炉は熾火だけで、火は使ってはいけないと言われているから、料理は駄目だからね。

 本当は買って貰った種を撒きたいけど、それは禁止されたから、行商人が出発するまで、箒ではいておこう。

 雪は溶けたけど、まだぬかるんだ土だから、床にも泥がいっぱいだ。

 本当は、雑巾かモップで拭く方が良いのだろうけど、まだぬかるんでいるから、無駄だよね。


 掃除を終えて、ワンナ婆さんの家に行こうとしたら、行商人の馬車が出発した。

「種を撒いてから、行こう!」

 芋が植えてあるから、端にもう一本畝を作る。

「ハァハァ……0歳で畝を作るのはしんどいよ」

 でも、私の10日前に生まれたジミーは軽々と作っていたのだ。これってスキルが違うから? 植物成長のスキルにも畝を作る必要がありそうなんだけど?

「まだ寒い日もあるから、トマト、キュウリ、ナス、とうもろこしも駄目よね? 豆にしようかな? それともかぶ? 玉ねぎとキャベツも欲しい」

 何にしようかな? 豆の種は、豆だね! かぶの種は小さいから、何本かは間引いた方が良いかも? 玉ねぎとキャベツは、苗を作ってからだ。

 芋が収穫できるまでは、苗を作るために、玉ねぎとキャベツの種を少しずつ撒いておく。

 失敗したくないからね。

「大きくなぁれ! 大きくなぁれ!」

 水をやって、後は若者小屋と頼まれている2軒の水遣りも済ませて、ワンナ婆さんの家に行く。


 外の菜園の水遣りを済ませてから、家に入ったら、新入りの赤ちゃんが1人増えていた。

 綺麗なブルーの髪がふわふわで生まれたばかりみたい。

「この子はマナだよ。昨夜、生まれたばかりなのさ」

 えええ、産んだばかりでママは狩りに行ったの? 子どもにも厳しい世界だけど、ママにも厳しいよ!


 今日は、サリーと一緒にマナのお世話だけど、お人形さん遊びとも言えるね。

 オマルでおしっこをさせたり、ズボンを上げてあげたり、お姉ちゃんになった気分。

 お昼のお粥、今日のは特に柔らかく炊いてあるけど、サリーと2人で匙で潰しながらマナに食べさせる。

「おいちぃ」

 うん、この世界の森の人エルフの赤ちゃんは、生後2日目から、離乳食だし、喋れるんだね。

 改めてビックリだ。ミンとケンは3日目から来たんだもん。もう少し幼児っぽかったような?


「ミク、これは失敗したのかい?」

 何日かして、玉ねぎとキャベツの苗が育っているのを見て、パパが笑う。

「違うよ! これは玉ねぎとキャベツの苗なの。芋を収穫したら、間をあけて苗を植えるの。今日ぐらい芋が採れると思うわ」

 パパも芋には少し飽きているみたい。でも、私の料理スキルを忘れているんじゃないかな?

「今日は、脂をいっぱい貰って来てね!」

 パパとママに変な顔をされたよ。

「蝋燭は秋に作るのよ。夏は、なかなか暗くならないから、蝋燭は必要ないわ」

 そうか、ここはかなり北だから、白夜とかあるのかな? そこまでではなくても、なかなか日が沈まないんだね。

「料理に使うの!」


 肉は、納屋にあるから、私の言うとおりにしてくれた。

 脂身を細かく切って、鍋に入れ、少しだけお水を入れて、ラード擬きを作る。

 芋なら、フライドポテトでしょう! 前世では心臓が悪かったから、塩分と油分は制限されていた。

 でも、どうしても食べたくて、家で少し作って食べさせて貰ったんだ。塩分控えめ、勿論、ラードじゃなくて健康食品の油だったけどね。


 少し経つと、脂身から油が溶けて、小さな茶色い塊がプカプカ浮いてきた。

 その茶色い塊を、ナイフで一日がかりで作った菜箸で拾う。

 予め、切っておいた芋、今回はよく洗って皮付きを、油の中に入れると、ジャーって大きな音がした。

 パパが、サッと私を抱き上げて、鍋から離す。

「ミク、大丈夫か?」

 そう言いながらも、パパの鼻はヒクヒクしている。

「うん、少し水気が残っていたのかも?」

 そろそろ、良さそうだけど、1本取ってあがっているか試したい。

「パパ、下ろして!」

 頼んでも、下ろしてくれないから、ママに菜箸を渡して「一本取って食べてみて!」と頼む。

「これで芋を摘むの?」

 あっ、菜箸は無理だったかな? と思ったけど、一本取って、木の皿に置く。

「熱いから、注意して食べてみてね。中まで火が通っていたら、全部取って皿に置いて欲しいの」

「アチチッ、美味しい!」

 うん、でも塩はまだ振ってないんだけどね。


 私は、油の近くに寄らせて貰えなかったので、ママがフライドポテトを木の皿に全部あげてくれた。

「これに、塩を振って食べるの。油は、明日も使えるわ」

 ママが慌てて、暖炉の端に鍋を寄せる。

 さぁ、塩をパラパラと振って食べよう!

「美味しいな!」

 パパも大満足みたい。私も1本食べる。

「あああ、美味しい!」


 3人であっという間に食べちゃった。

「これ、また作ってくれ!」

 パパがママに頼んでいる。

「肉が余った時だけ、脂身を貰って作るわ。でも、春から夏は狩りも楽だし、脂身は人気が無いから、貰いやすいかもね」

 やったね! これからもフライドポテトが食べられそう。

 前世では、1本か2本しか食べてはいけなかったから、ジャンクフードに飢えているんだ。でも、この世界にはジャンクフードなんて無さそうだけどね。


 前世のママは私の看病の為に仕事も辞めて、ずっと家にいたから、家庭農園もしていたんだ。テレビでもよく見ていたけど、私は畑仕事なんて無理だった。

 ただ、トマトとかナスとかは、同じ場所に何回も植えたら駄目だって事は覚えている。

 肥料、馬の糞とか良いみたいだけど、人糞はねぇ……ちょっと避けたい気分。

 石灰はないけど、灰はある。後は、腐葉土!

 これまで収穫した芋の茎や、皮や生ゴミ、それに木の落ち葉を家の裏に積み上げて、時々混ぜていた。

 なかなか、ふわふわな腐葉土になっているよ。

「夏になったら、森で落ち葉をいっぱい拾って来よう! うん? 森には腐葉土もあるかもね!」

 針葉樹も多いけど、落葉樹もあるみたいだからね。


 ちなみに、オマルの中身は村の外の穴に捨てている。それに手をつける気は無いよ! 

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