第7話 行商人が来たぁ!
村の皆が待っていた行商人がやっと来た。これって相手の方がかなり有利だよね。
まぁ、森の奥まで運んで来る労力を考えたら、値段は高くなっても仕方ないのかな? こちらから、町まで売りに行くのは駄目なのかしら?
なんて考えていたけど、3台の荷馬車と護衛の人達が乗っている馬を見て、わくわくが止まらなくなった。
「パパ、馬って大きいね!」
前世でも馬の実物は見たことがなかったから、初馬だよ。神父さんはロバに乗って来たけどね。
馬はテレビでは見ていたけど、綺麗だし、目が可愛いな。
「ああ、馬があれば町に買い物に行けるのだが……アルカディアには何十頭も馬がいるそうだぞ」
いない理由は
「いつか、パパに馬を買ってあげるよ!」
前世では、親孝行なんかできなかったから、薬師になって馬を買ってあげよう!
「ミク、馬は高いし、飼うのも大変だから良いよ。それに
それは、そうかも? でも、荷物はいっぱい運べないよ。
荷馬車は、村の中に入り、集会場の前で止まった。村中の人がわらわらと集まっている。
「カーマインさん、遅かったな!」と村長さんが、行商人の代表らしい太った男の人と話している。
「バンズ村長さん、今年は雪の溶けるのが遅かったから仕方ないですよ」
先ずは、冬中溜めた皮や角などを売るみたい。でも、それを売り買いするのは、代表の太ったカーマインさんと村長さんだ。
でも、そのお金を分配して貰わないと、商品は買えないんだけどね。
「布を見せて!」
女の人は、支払いは後で! とばかりに、布に殺到している。
男の人の方が「麦とか必要だろう」と冷静だ。
子どもには、小さな棒の飴が配られた。やったね! 初スイーツだよ。薄荷の味がする。
荷馬車から、売り物を出して、台の上に並べていくのを見ているだけで、浮き浮きしちゃう。
「何を買うのかしら?」
サリーと2人で並んで、棒飴を舐めながらお喋りする。
「ママは、布と麦を買うと言っていたわ」
サリーの家も同じみたい。夏には赤ちゃんが生まれるから、布を買うのだ。お古も着せるけど、やはり布は必要だもの。
「種を買ってくれたら良いのだけど……」
それと、ガラスの瓶! 調味料とか……塩味だけだからね。
これから、夏にヨハン爺さんと森に行くから、ハーブとか探したいな。
ピカピカの新品の鍋やフライパン、欲しいけど、余分な物を買うお金は無い。
魔物の皮や、毛皮や角がどっさりと荷馬車に乗せられた。そして、村長さんが皮の袋を受け取る。
「幾らなのかな?」
サリーは、それよりもママが買う布に集中している。
「あれは、私の服用かしら?」
赤ちゃんの服は、生成りだし、今私が着ているのも生成りだ。
大人のは、茶色に染めたりしている服もあるけど、子どもはあっという間に着られなくなるから、生成りオンリーだよ。
でも、サリーのママが手に取っている布は、薄い緑色だ。前世みたいな鮮やかな色の生地ではないけど、なかなか可愛い服になりそう。ちょっと羨ましいな。
「2歳で町に行くって本当なの?」
サリーは秋の終わりに生まれた。少しだけ私よりお姉さんだ。それと、上にお兄さんとお姉さんがいるから、情報通だよ。
「来年の秋の行商人に連れて行って貰うかも? それまでに神父さんに師匠を決めて貰えたらだけどね」
兎に角、今年と来年の秋までは一緒に遊べるのだ。
私は、ギリギリ3歳まで家に居たいな。でも、今年の秋に赤ちゃんが生まれる。次の年も生まれたら、2歳でアルカディアに行く事になるかも? 若者小屋は、狩人だけだから。
2歳や3歳で独立! 厳しすぎるよ! だから、皆は狩人になりたがるのかも? 若者小屋は10歳以上も暮らせるからね。
その後は、冒険者になったり、結婚したりする人が多いけど、他の村を巡ったりするのも楽しいのかも?
行商人が来ても、子どもの私達は、棒飴を貰っただけで、商品とかは近くでは見られない。だって、大人がびっしり周りにいるからだ。
「ママが種を買ってくれたら良いのだけど……」
ガラスの瓶は諦めたよ。布と麦だけで、お金は無くなりそうだから。
「あっ、パパが矢を売っているわ」
冬の間に、個人で作った物も売る。家は、パパの木工細工の器と皮の小袋だよ。
サリーの家は、矢をいっぱい作ったみたい。
ワンナ婆さんも、冬の間せっせと編んでいたセーターや膝掛けを売っている。
その代金と子供の預かり賃で、小麦を買うのだ。種を買うのを忘れないと良いな。
パパとママが種を買うのを忘れるか、買えなかっても、ワンナ婆さんが買ったら、4分の1は貰えるからね。
ママが布を抱き抱えて、私の前までやってきた。
「ミク、種と靴のどちらが欲しいの?」
う〜ん、どちらも欲しいけど、見てみたい!
「見てから決めては駄目?」
ママは、パパに布を渡すと、私の手を引いて周りの大人をかき分けて、商品の前まで連れていく。
「この靴を買ったら、種は買えないわ」
前世のモカシンみたいな靴で、これなら縫えば良さそう。
「手に取って見ても良いですか?」
商人に訊ねたら「どうぞ」と渡してくれた。
ふむ、ふむ、底は木でできている。底に穴を開けて、皮の紐で上の部分を縫い付けているのだ。
うん、この底ならパパが作ってくれそう。穴も開けてくれたら、後はなんとかするよ!
「ありがとう! 種は何があるの?」
靴を返して、種を出して貰う。
茶色い小袋に、字が書いてある。
「豆、とうもろこし、ナス、にんじん、かぼちゃ、菜葉、トマト、キュウリ、玉ねぎ、キャベツ、かぶ……こんなところかな?」
私は、もっと甘い瓜とかあるんじゃないかと期待していたけど、それは期待しすぎだったね。
「ママ、靴は秋で良いから、種を買って!」
サリーに聞いたけど、夏は裸足が基本だからね。
「おや、おや、靴より種かい? 変わったお嬢ちゃんだね。なら、これもおまけしておこう!」
ガサゴソと種子の入った箱の底から、小さな白い紙袋を出した。
「何なの?」
袋には名前も書いてなかった。
「ははは、これを上手く育てたら、甘い物が食べられるよ」
私は、ドキドキしながら白い袋を開けた。
小さな黒い種、これは……スイカだよね?
「もっと暖かい地方じゃないと実はならないかもしれないけど、夏に植えてごらん」
どうやら、間違えて持って来たみたい。でも、頑張って育ててみよう!
行商人は、その日は村長さんの家に泊まった。村中が、何とはなく浮ついた雰囲気だ。お酒を買った人もいるからかも?
家でも、買った物を並べて、ママは浮き浮きしている。
「小麦が少ないかもな」
パパは、少し心配そうだ。冬に小麦が足りなくなったからね。
「芋がいっぱいあるわ」
ママの言う事もあっている。お粥にするなら、芋を潰して食べても良いのだ。
「ミク、靴は買わなくて良かったのか? 夏はヨハン爺さんと村の外にも出るんだぞ」
あっ、裸足じゃ駄目じゃん!
「パパ、こんな感じの靴の底を作って欲しいの。上の皮の部分は、私が作るわ!」
暖炉の灰の上に靴底の絵を描く。
パパは、早速、木を薄く切って、靴底を作ってくれた。穴も開けて貰ったよ。
後は、ショートブーツっぽくするつもり! 靴の形に2枚ずつ皮を切って、それを縫い合わせて、途中からは穴を開けて、革紐をクロスして通して括る。
底とは、革紐で縫い合わせる。これは、かなり難しそう。
「今日はここまでにしよう!」
だって、今晩は新しい小麦で、久しぶりのお粥だもの! 芋には少し飽きているんだよ。
「ミク、種を撒くのは、行商人が出発してからにした方が良い」
うん? 朝一に撒くつもりだったけど?
「そうね! ミクの能力は人間にバレない方が良いわ。大きな農地を作らせるのに便利だと拐われたら困るもの」
それは、困るけど……やはり人間の町は怖そうだ。サリー、大丈夫かな?
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