第4話 巡回神父さん
巡回神父さんがやっと来た頃には、春になっていた。
マックやヨナは、洗礼前なのに親と狩りに出掛けている。
そして、また赤ちゃんが2人増えた。ミンとケンだ。
赤毛のミンと、私と同じ金髪のケン!
巡回神父さんがやってきたので、この日は狩りはお休みで、ママとパパと私もお風呂に入って一番綺麗な服を着た。
お風呂は、時々入る。桶にお湯を入れてね! 石鹸は無いけど、植物の種で泡がでるのがある。
「これは何?」
また「何?」攻撃で、ママは「無患子よ」と簡単に答える。
綺麗な服、私は赤ちゃんから幼児になったので、見た目は5歳児程度に成長したから、新しいチュニックとスボンだ。
靴は、まだ皮を巻いただけ。
でも、桶に汲んだ水に映る自分の顔は、なかなか可愛い。
美少女っぽいママと、かなりいけてるハンサムなパパの子だからね。
集会場には、子どもを連れた親がいっぱいだ。
マック、ヨナ、サリー、ジミー、私、ミン、ケン! ケンはマックの弟だ。それに、ヨナやサリーも、もうすぐお姉ちゃんになりそう。
6組の親と7人の子供!
村長さんが神父さんに名前を教えている。
「今年も多くの子ども達が、冬を乗り越えて良かった」
うん、なかなか優しそうな白髪の神父さんは、良い感じだ。
「エスティーリョの神の子に災いが訪れませんように!」
先ずは一番大きなマックからだ。洗礼って、前世では赤ちゃんの額に水をつけるイメージだったけど、ここでは洗面器みたいなのに顔をつけるみたい。
これ、赤ちゃんだったら溺れそう!
「おお、マックは斧使いのスキルを授かっているようだ」
洗面器みたいな洗礼盤には、周りに石が付いていて、そこがピカリと光る。
両親もマックも嬉しそうだ。大物を仕留めるにも、薪を割るにも便利そうなスキルだものね。
「ヨナは、弓使いのスキルだ」
ヨナも両親も、心から喜んでいる。
問題は、サリーだ。町に行きたいなんて言っていたけど……どうだろう。
「サリーは、おお珍しい! 風の魔法使いのスキルだ。アルカディアで魔法の修行をしても良いし、人間の町で魔法使いの弟子になっても良い」
サリーは満足そうだけど、両親は複雑そうだ。
「神父様、この子を引き受けてくれる師匠はいるのでしょうか? それと入門料とかは?」
神父さんは、後で相談にのると言って、ジミーの顔を洗面器につける。
「ジミーは、弓使いのスキルだ」
ジミーも両親も頷いている。
さて、次は私だ。ドキドキするよ!
「おや、この子は……珍しいな! 植物を育てるスキルと料理のスキル。ははは、ミクは食べるのに苦労はしそうにないな」
なんだか両親は微妙な顔だよ。狩人のスキルじゃないからね。それに、サリーみたいな風の魔法使いとかでもない。
「神父さん、どうしたら良いのでしょう?」
パパが心配そうだ。
「後で、話し合おう」
残りのミンとケンは、弓矢使いと槍使いのスキルで、問題なかった。
集会場に残ったのは、サリーの家族と私の家族と村長さんだ。
「サリーは、二つの道がある。アルカディアの魔法使いの弟子になるか、人の町の魔法使いの弟子になるかだ」
両親は、どちらも手放す事になるから心配そうだ。
「神父様、どちらがサリーにとっていいのでしょう」
神父さんも腕を組んで考えている。
「アルカディアの方だとサリーは下っ端になるだろう。彼方は魔法使いが多いからな。だが、一応は同族だから安心な面もある。人間の方は、かなり優秀な魔法使いとして扱われるだろう。だが、人間は
やはり、人間は前世と同じような成長なんだね。
「あのう、入門料とかは?」
おずおずとサリーのママが訊ねる。
「うむ、アルカディアなら、下働きをしながら修行をするから入門料はいらないだろう。人間の魔法使いは、年季縛りになるかもしれないな。修行して一人前になったら、数年は師匠の元でただ働きしないといけない。食べ物や服は、彼方がくれる」
どっちも、どっちだね。
「私は、人間の魔法使いの弟子になりたいわ!」
サリーは、アルカディアの下働きをしながらの修行は嫌みたいだ。
「まぁ、ゆっくりと考えなさい」
どうも両親は、人間の町よりは同族のアルカディアの方が安心だと思っているみたいだ。
ここで、残った私の話になる。
「料理のスキルだなんて、聞いた事がない!」
パパは、途方に暮れている。だって、この村では、お粥か肉を焼くだけだもの。一番凝った料理が煮込みだったからね。
「植物を育てるスキルなら、春から秋まで畑を作れば良いのでは?」
ママの言葉に、パパも頷いている。
「そうだな! それなら、なんとか暮らしていける!」
ただ、村長は難しい顔だ。
「村の中に畑を作っても、一年中の食べ物は作れないだろう。それに、そのくらいは各家で作っている」
村の外は、魔物が出てくる。呑気に畑仕事なんかしていられないのだ。
今は、雪が残っているけど、溶けたら、各家の前に野菜を植えるみたい。
「人間の村や町なら、ミクの才能も役立つと思う。街道の宿屋や街の食べ物屋なら、料理のスキル持ちは歓迎されるぞ」
料理人! 良いかも?
でも、パパとママは難しい顔をする。
「サリーみたいに魔法使いの弟子になるなら、人間の町でも暮らしていけるかもしれないが、宿屋や食べ物屋で働くのは心配だ。ミクは可愛いから、男にちょっかいを出されそうだ」
0歳児にちょっかい! でも見た目は5歳児程度だし、1歳のヨナは10歳の美少女に見える。
それは困る! 宿屋で酔っ払いの相手とか御免だよ!
神父さんは、腕を組んで考えていた。
「もう一度、能力判定をしてみよう!」
えええ、また顔を突っ込むの?
「何か変わるのでしょうか?」
ママは狩人推しだからね! 期待している。
「いや、複数のスキルがあるのも珍しいし、他のスキルを見落としたのかもしれないからね」
ちゃんと見てよ! 私の人生が掛かっているんだよ。
ということで、2回目の顔ポッチャンだ。かなりグッと押し込まれたよ。
「ふむ、薬師のスキルもあるぞ!」
それ、一番重要そうじゃん! 見落とし禁止だよ。
「それなら、アルカディアで修行したら、良さそうだな」
村長さんもホッとしている。村の子が宿屋で酔っ払いの相手をするとかは嫌だったのだろう。
「サリーと同じだよ。アルカディアで下働きしながら修行するか、人の町で薬師の弟子になって年季縛りを受けるかだ。家で話し合いなさい」
両親も、料理人とかのスキルよりは安心だと喜んでいる。
この世界では、宿屋に生まれるか、料理屋に生まれるかしないと、女の子で料理人で食べていくのは厳しいのかも? 貴族とかの屋敷ならいけるのかもしれないけど、そもそも貴族っているのかな? それに、
家でママとパパは、迷わずアルカディアを勧めた。
「人間よりは同族の方が安心だわ」
まぁ、それは理解できるけど、なんだかアルカディアでは、狩人の村出身者は下働きって感じで、ちょっと馬鹿にされている感じが気にかかる。
「サリーは人間の町に行くのでしょう?」
私も一緒の町だと心強いな。
「それは、アルカディアには魔法を使える
人間には薬師は多いのかな?
「
それは、そうかもしれない。ただ……アルカディアって、少し選民意識が高そうな感じ。
「パパとママは、アルカディアに行った事はあるの?」
2人とも、首を横に振る。
「ママは、この村で生まれ育ったの。パパは隣村の出身なのよ。春から夏にかけては、村と村との交流があるの。同じ村の人とは結婚は避けた方が良いから」
血が濃くなるのを避けるのだ! ふふふ、本はいっぱい読んだから、知っているよ。
「アルカディアに行った事がある村長さんから話を聞いたぞ。魔法使いが多いし、便利な道具もあるそうだ。それに、アルカディアの狩人も凄腕だと言っていた」
ふうん、話を聞くだけだと良さそうだけど、私は村長さんと神父さんに相談したいな。
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