第112話 泥試合

 ギギギギギギときしみながら蓋が開き始めたが、何故か途中から一気に開き、勢いよく扉が壁に当たり突き刺さった。


 2人共に「えっ!?」と声を上げて驚いたが、すると中からムクッと人が出てきた。


「遅いわあぁ!何をしとったんじゃ!」


「何がじゃねえ!壁を壊しやがって!せっかく呪いの軽減化をしてやったのに、恩を仇で返すんじゃねぇ!」


「貴様!それが父親に対する態度かあぁ!」


「何が父親だ!追放した息子の所に逃げてきやがったくせに!」


「バカ息子が偉そうにするでない!どうせその娘とうっふんあっはんとやっておったのであろう!」


「てめぇのために魔力切れで倒れてたアルテイシアに謝れ!彼女は乙女だ!」


「バカモン!まだ手を出しておらんのか!儂がお前の立場なら・・・」


 バキッ!


「貴様良くも父親に手を出したな!こうしてくれるわ!」


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 ・

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 泥臭い殴り合いが数分行われ、最後はお互いの頬を引っ張る無様な姿に。


 アルテイシアはクスクスと笑っており、2人の手を取り引き離した。


「ふふふ。似た者同士の親子なのですわね!仲が良くて羨ましいですわね!」


「良くない!」


 ハモってしまう。


「あいさつが遅れましたわ。私、セルカッツさまの妻の1人となるアルテイシアと申します。その御様子ですと許可はいらなさそうですわね」


 父は不意にアルテイシアの前に行き、顔を額が触れんばかりに近付ける。


「お嬢さん、貴族の妻になるのがどういう事か分かって言っているのか?」


「他家とのしのぎのことでしょうか?覚悟も知識もあると自負しております」


「うむ。ならば良し。ただ・・・本当に此奴のお手付きはまだないのか!?ならば儂の正妻になる手もあるぞ!」


「せっかくの申し出ですが、既に私の身も心、全てをセル樣に捧げております。昨夜も魔力切れでなければ初夜が終わっていたはずですわ」


「これは謝ねばならぬな。良い目をしておる。愚息を宜しく頼む。それと儂の行動範囲はこの屋敷の敷地内だな?」


「はい。今の私にはそれが限界でした」


「誤解するでない。非難しておるわけではなく、感謝しているのだ。下手をすればこの部屋から出られぬやもしれなんだのだ。それを外にも出られるとはな。それにいくら侯爵とはいえ、恩人に仇を返すような真似はせぬ。改めて礼をいう。我が息子の婚約者アルテイシア嬢、此度は恩に着る。ありがとう」


 アルテイシアに目上に対する礼をした。

 公爵と王族を除き初めて見た。


「父上が王族以外にこうやって頭を下げるのを初めて見たな。こんな事ができる人とは思わなかったな」


「お父様、やめて下さい。別に親切心でやった訳でもないのですから」


「愚息の妻になるために恩を着せたと言いたいのだろう。分かった、そういう事にしておこう。中々肝の据わった娘だ。所で声からはメイヤがいるのは分かったが、ハーニャとタニスもいるのであろう?」


「知っているくせに。でもハーニャはやらないぞ!」


「うむ。そんな畏れ多い事はせぬ。ただ、3人を集めろ。大事な話がある」


 とりあえず俺の執務室へ移動し、3人にも執務室へ来るよに伝えた。


 ただ、俺はこの人のことをまともに知らなかったなと感じた。


 まさかあのように子供じみた取っ組み合いをする人とは、14年も息子として生きてきたのについぞ知らなかった・・・

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