第101話 バター
屋敷の厨房はフル回転になった。
子供達に出されるお菓子は試作品だ。
子供達には感想を求め、素直な意見を聞く。
美味しいとしか言わないので、もっと美味しくなったら嬉しいよね?と美味しいお菓子作りに協力してねと告げ、いつの間にか子供達もお菓子作りに参加していた。
ただ、衛生管理が課題だと直ぐに分かった。
碌に手を洗わずにお菓子を作り始めようとしたんだ。
貴族でも手洗いうがいの習慣はなく、手洗いだけだった。
それも一般家庭だと手洗いも疎かになり、見た目で汚れていなかったら子供達が手も洗わずに食事をするなんてのが当たり前だった。
その事実を知り、我が屋敷では手洗いうがいを義務化したんだ。
俺の出身国でも習慣はなく、この国でもそうだった。
根付くまで成人は時間が掛からないだろうが、子供達には手洗いうがいをしなかったらおやつをあげないぞう!とおちゃらけて話すと、やるから!やるから食べさせてと、何とかなりそうだ。
上から押さえつけても効果が薄いので、勉強の前に感染症対策の有効性を話したりする。
まだ紙が高価だが、和紙のようなのは容易に入手できる。
概ねA4サイズ位の紙1枚で昼食代が飛ぶといえば、その価値が分かるだろうか。
しかし、そんな紙を使い紙芝居を使ったりと啓蒙活動をしてみる事にした。
そのままだと破れるので、薄い板に貼り付けて使う。
これが子どもたちには刺さった!非常に刺さった!
紙芝居なんて見たことも無いのもあるのだろうけども、面白おかしく作ったんだ!
アルテイシアが・・・
残念だが俺に絵心はなかった・・・
アルテイシアはお菓子作りが趣味で、イラストレーター志望だった。
あのゲームもイラストが流麗で惹かれたのだそうだ。
で、俺が攻略対象の乙女ゲームだったと。
俺の攻略方法とは何だったんだろうか?
ただ、彼女は転生後はゲームの舞台となった世界だとは思わず、俺と出会うまでは関連性を理解できていなかった。
色々アルテイシアと話していたけど、朝チュンしてしまった。
もちろん手は出していないよ。
現代知識を話し合っていたんだ。
俺は仕事とは無縁だったけど、大学では建築関連を学んだ。
だけど、生活者としては無知に等しい。
バターの作り方も一般教養の範囲だ。
しかし、お菓子作りが趣味であったアルテイシアはバターを自作した事があった。
最初シェイカーを作り、それをフリフリして取り出そうとしたんだ。
それだと自家消費分しか作れない。
商業的に無理で、撹拌となった。
じゃあ町の外に水車小屋を作り、そこで作ろうか?となったんだ。
水車を使っての撹拌は俺のアイデアだったけど作るのに規模がデカくなり、町の外に出なければならない。
そうなると魔物に壊される可能性から囲いを作らなければとなり、かなりのお金が掛かってしまう。
だけど、アルテイシアの一言で終わった。
臼やボウルに乳を入れ魔法で撹拌すれば良いと。
風魔法を応用と思ったら初級以下の生活魔法レベルの魔法で可能だと分かり、短時間で作れる。
朝チュンしたじゃなくて添い寝をした後試したらサクッと作れ、残った乳は朝食時の飲み物となった。
もちろん加熱したりして殺菌はする。
俺の屋敷ではバターを使った料理やお菓子作りが始まり、鏡の販売に向け、併売する商品の開発に熱が入っていった・・・
おかしい・・・魔王を討伐しなきゃならないのに、何でお菓子作りに力を入れているんだろう・・・
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