第73話 握手

 次戦はハーニャ対斧使いのダイダルスだった。


 しかし、俺は見る事が出来なかった。


 兵士達に乱暴に担がれ、治療室に運ばれているからだ。

 昨日振りだ・・・


 そこには、30歳代の貴族?と高そうなローブというか、神官服姿の初老の男がいた。


「おう!派手にやられたねぇ!今大会のヒーローがこれじゃあいかん。我が国が誇る世界最高の治療士たるヤンダリック殿が、我が町に滞在していたのは僥倖だ!金は惜しまん、セルカッツ君の腕を復興させてやってくれ!」


「・・・卿、先代たる・・・卿の父君には大恩があり、過大なお金は要りません。リカバリーを使った時の報酬で宜・・・それより・・・」


 俺はここにいるのが誰か分からなかったが、治療をしてくれるらしい。

 意識が保てなくなってきているが、初老の男は欠損修復魔法であるレストレーションの魔法を唱え、俺に施したのが辛うじて分かるも、意識を手放した。


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 闘技場から?歓声で目が覚めた。

 どれくらいの時間が経過したのだろうか?


 俺の側にはタニスがいて、俺の手を握っていた。


「セル様?目覚めたの?」


「俺はどれくらい気を失っていた?」


「1時間位よ」


「試合は?」


「セル様が目覚め次第、ダイダルスとの準決勝よ。勝ったら次は仮面騎士Kとね」


「という事はハーニャとヨルミクルは負けたんだな」


 ハーニャはダイダルスに手も足も出なかった。

 弓使いだから善戦した方だろう。

 仮面騎士は強かったらしい。

 スメイルもまるで歯が立たず、ヨルミクルも善戦するも30合ほどで決着したそうだ。


 俺は左腕を動かし、少し筋力が少ない以外問題ないのを確認し、タニスに付き添われ闘技場へ向った。


 血を失った為か頭がスッキリしない。

 でも行かなきゃだ。

 何故か?

 そりゃあそこに戦いがあるからさ。

 それにダイダルスとは戦ってみたかったんだよ!


 本来なら棄権して休むところなんだけど、仮面騎士Kともやりたい。


 俺が闘技場に現れると、司会が腕が生えた経緯と、国が抱える治療士が行った欠損修復を称えている最中だった。


 そして会場にどよめきが起こる。

 俺が戻ってきたのを見たからだ。

 司会も気がついたようで、俺が回復して奇跡の生還を遂げたと叫んでおり、生えた腕を掲げて、無事に生やして貰った事をアピールした。


 すると拍手喝采が起こり、対戦相手である斧使いの大男がやってきた。


 何度見ても同じ年とは思えない。


 司会は更に喋りまくり、キルカッツの処遇を話した。


 国外追放とし、今後3年の入国禁止と、この町へ入る事を永久的に禁止するとした。

 闘技大会への侮辱として先の道具も没収すると。


 そうしているとダイダルスが左手を差し出してきたので、俺も釣られて差し出すと、握手をするでもなく観察し、失礼と述べてから握ってきた。


「少し強く握る」


 俺も握り返し、少く共常人の握力がある事を確認したようで司会に頷いていた。


「不思議なものだな。うむ。握力は問題ないようなので、こちらも全力で行かせてもらう!」


 どうやら握力が無ければ戦わないか、ハンデをつける腹づもりだったようだ。


 俺はその後開始位置に行き、タニスが最終チェックをして司会に対し頷き、関係者席へ移動した。


「・・・開始!」


 開始の号令と共に、俺とダイダルスは駆け出したのだった。

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