第7話 2人の事
3人の少女達は同じ奴隷の境遇に置かれながらも、内なる強さと勇気を持って生き抜く事を決意していた。
彼女達の美しさは単なる外見だけではなく、彼女たちが抱く希望と闘志の証となっていた。
俺はそんな彼女達を守っていけるのだろうか?いや、守るんだ!
何故そのように思ったのかは確かめるまでもなく、彼女達が俺を頼って逃げてきたからだ。
そこに思い至らない程馬鹿ではないが・・・頭が痛い。
取り敢えず階段の所で2人の体を軽く叩き、汚れを落とした。
中に入るとそこには心配そうな表情を浮かべるメイヤの姿があった。
「セル様、申し訳ありません。勝手な事を致しました」
「うん。取り敢えず3人共ベッドに腰掛けて」
俺はできる限り優しく声を掛けた。
椅子を持って来て3人の前に座ろうとしたが、2人が泣きながら抱き着いてきた。
「御慈悲を!どうかお助けください」
「勝手な事をして申し訳ございません」
泣いてしまいどうしたものか頭が痛いが、メイヤを見るに独断でここに連れてきたようだ。
俺は2人の背中に手をやり、そっと抱きしめ頭を撫でてやった。
そして1人ずつベッドに座らせ、ハンカチで涙を拭う。
「綺麗な顔が台無しだよ。見捨てたりしないから何があったのかを聞かせて欲しい」
俺も頭が痛いし、甘かった。
計画が全て狂った瞬間だ。
本来2人がこれから向かえるであろう運命が分かっているのに、俺は手を差し伸べようとしなかった。
考え至らなかったのだ。
まだゲーム感覚が拭えないのだろう。
彼女達はゲームの登場人物ですらなく、ゲームでは1文すら語られていないモブキャラになる。
違う!それ以下だ。
そんな2人の少女が俺を頼ってきた。
まだ2人は泣いており、まともに話せないのでメイヤに怒らないからと、説明をするようにさせた。
メイヤ、ハーニャ、タニスも俺がコソコソと何かの準備をしているのに気が付いており、行動を起こすとしたら神託の儀が終わった後だろうと思っていたそうだ。
ハーニャとタニスは神殿での様子から、俺がメイヤを連れ出すのではとそこに一縷の望みを託し、馬車を置きに行った後メイヤに助けを求めた。
そこでメイヤからこれからひと言も発しないでついてきてと言われ、大人しくついてきた。
草むらにある木が見える所にいて、メイヤが合図を出したら姿を見せるように伝えており、それまでは隠れるように言われていた。
朝俺から放逐されるはずで、メイヤを連れて逃げるから先ずは隠れ家に行くので、指示した待ち合わせ場所に隠れるように言われた。
予め馬車を置く車庫の裏に作っておいた子供か女性なら出られる抜け道から真っ直ぐにここに来たと。
俺は予め門番に金を握らせ、メイヤが来ても記録に残すなと言ってあったが、メイヤの同行者にも適用されると判断したようで、通行証を見せるとちらっと確認しただけで、あっさり町を出る事が出来た。
この場所は町の正面入り口を街道から外れた側にあり、危険な魔物が生息する森に隣接している為に普段人は殆ど通らない。
メイヤ達は尾行の無い事を確認して進んで来たと言う。
俺がハーニャとタニスの手を取ろうとしたら拒否された。
「申し訳ございません。その、手が汚れているので洗いたいのです」
2人を風呂場に連れて行き、俺の魔法で水を出すと驚いていたが念入りに洗っていた。
部屋に戻ると今度は手を差し出してきた。
俺は2人の手を握り、直接希望を聞いた。
とは言え、メイヤと2人で隣国に逃げる算段をしており、計画が白紙になった。
ダイランド侯爵領はバリラン王国の北部にあり、モリレシル帝国とルランド公国との国境に向うのが現実的で、最終目標はアルカン王国だ。
これが難しい場合はプランBの出番だ。
プランBは別の地方で別人として過ごす事で、国を出るのは数年先になる事を想定していたが、計画を見直さなければならなくなった。
だから頭の中がぐるぐると回っている。
彼女達が1人のか弱き女性だと言う事を失念していた。
このままだと毛嫌いしている俺の父である侯爵とその息子に凌辱され、孕まされる惨めな運命が待ち構えている。
忘れていたのだ。
だが、本気で泣いて助けを求めて来た少女を今更見捨てる事は無理だ。
目を見てしまい、体の温もりや心臓の鼓動を感じてしまったのだ。
「メイヤと一緒に連れて行ってください!妾でも都合のよい女でも構いません。あの者に比べるのは失礼ですが、セル様ならこの身を捧げるに相応しい方だと思っています」
「勿論メイヤからセル様を奪おうとは思いません。私も妾でも良いのでセル様の側にいさせて下さい」
「セル様、私もセル様の妾で構いません。2人を救ってあげて下さい」
3人が3人共同じような事を言って来た。
俺は取り敢えずしなければならない事をする事にした。
「分かった。俺は1度物資の仕入の為に町に戻る。タニスはついて来い。メイヤとハーニャはここから絶対に出るな。それと3人共服を脱いで下着姿になれ」
3人は迷わず服を脱いだが、ハーニャが下着も脱ごうとしたので止めた。
俺は胸に女性用の下着を着け、胸の膨らみを出すのに下着の間にパッドを入れた。
用意しておいたメイヤの下着だ。
更に悩んだ末にメイヤのスカートとタニスの上着、ハーニャのスカーフを身に着けた。
念の為、変装の手段として女装する事も考えており、使う使わないかはともかく用意はしていた。
タニスには俺の冒険者が着るような服を着させ、メイヤには俺の髪にウイッグを着けさせた。
「どうだ?これで俺とタニスだとは分からないよな?それと中にある服を着てくれ」
「す、凄いです!まるで本物の美少女ですわ」
「私・・・2年もお側にいたのにセル様に女装趣味があるだなんて知りませんでした」
「あのう・・・セル様は男性がお好きな方でしたの?」
3者3様で言いたい放題だった。
「お前らなぁ!好きでやっていると思うなよ。変装の為だからな。俺は男は嫌いだぞ!触れたら蕁麻疹がでるんだ。多分な。夜になったらあんな事やこんな事をしてやるから覚悟しとけ!」
「きゃー!セル様に犯されるうぅ!」
俺は3人を抱きしめてやった。
「俺がちゃんと逃してやるからな!」
3人はただただ頷くだけだった。
俺が3人を安心させるのにおちゃらけて言ったから、合わせたようだ。
俺は偽の身分証を持って隠れ家を出たが、これは使いたくなかった奥の手だ。
今のままだと食料が足らない。
トートバッグに中身を空にした異空間収納のカバンを入れてあるので、ある程度荷物は入るから食料等を大量買しても問題はない。
周りを警戒しつつ俺はタニスと腕を組み、町へ戻るのであった。
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