第8話 偽装用のライブラリーカードを得る
俺はこれからライと名乗る事になった。
セル様と言われるのもそうだが、セルカッツに繋がる名前は捨て去らないといけない。
身分証もライだ。
これからやらなければならない事は2つある。
物資の仕入れと偽の身分証の入手だ。
隠れ家は町の外にあり、セルカッツとして町から正式に出ていった。
これは記録されている。
尾行されており、尾行がいなくなったのを確認してから道を逸れて隠れ家に向かった。
また、隠れ家は町の外にあるが、町のすぐ近くで且つ、魔物が出没する事が少ないところだ。
町の外は危険な魔物が闊歩しており、町の外周は防壁に囲まれている。
人々はその壁に囲まれた狭いエリアに住んでいるのだ。
町へはすんなり入れたが、侯爵家の騎士達が町の中を人探ししているのが見える。
騎士とすれ違ったが一瞥されただけだった。
タニスはオドオドしているが喋るなと言ってある。
声から女だと分かるからだ。
見た目は格好良い系、宝塚系なのだが、声はかなり高い女のそれだ。
俺1人だと怪しまれるのでカップルを装う必要から女装までした。
そうそう、因みに女装趣味はないから。
さっと裏道に入ると迷わずに怪しい店に入ったが、そこにガラの悪そうな奴が1人いた。
「お嬢ちゃん、入る店を間違っているぜ。子供はけーんな」
「ジョス、俺だ」
「なっ!?坊っちゃんですかい?」
「それ以外の何に見えるのかな?」
「そんな見た目で分かる訳ないですぜ!どこからどう見ても美少女ですぜ!」
「そうだったね。14歳から15歳位の女の身分証が2枚欲しいのだがあるか?」
「ちょいとお待ち下せえ」
奥に引っ込みゴソゴソと音がすると、2枚のカードを持ってきた。
「14と16のならありやすが駄目でやすかね?」
「いや、丁度良いよ」
「あのう・・・」
タニスが何か言い掛けたが手で制して黙らせた。
「幾らだ?」
「金貨10枚でやす」
俺は財布から金貨を出した。
「この人達はどうして死んだんだ?」
「冒険者でやした。他の冒険者がカードや遺品を拾って来たようで、孤児院の出だった為に引き取り手がなくここに流れ着きやした。魔物に殺されたのではないでやすかね?それとこのカードは坊っちゃんがこの前買ったカードと同じ所に落ちていたようですので、仲間でありやしょう」
俺はテーブルに置かれた冒険者カードに手を合わせた。
「何人だったんだ?」
「4人でやす」
「そうか。君達のパーティー名を使わせて貰うよ」
俺は先日この裏稼業の者からライブラリーカード、通称カードを買った。
この世界の者は生まれながらライブラリーカードを持ち、役所で名前の登録をしたり、冒険者はこのカードにランクの記録をする。
ファンタジー物の小説であるステータス等が表示されるよくあるやつだ。
そう、念じれば体から出たり入ったりする。
死んだ者のカードは本来使えないが、俺はそれを可能とするギフト【光】を持っている。
また、大掛かりな魔導具にて同じ事が出来なくはないが、その費用はかなりの額になる。
また、屋敷にあった魔導書に奴隷契約変更についても書いてあり、取得している。
屋敷の書庫は数日以内に燃える運命なので、俺はこっそり頂いていた。
本の外装に適当な中身を入れてあり、書棚の蔵書チェックは背表紙と重さ位しかしないので、その書籍に用がない限り発覚しない。
また、1度見た魔法は師事しなくとも魔法書を読めば身に付く。
正確にはくらった魔法だ。
領主の息子として、父が領主の仕事として配下にやらせている事を見て回っており、名前を変えたり、賞罰を記録しているのを見た事がある。
「世話になったな。この前言ったと思うが10日後には必ずこの町を離れていろよ。情報源は言えないが、近しい者がいるならばそいつと離れろ」
「坊っちゃん、いやお嬢様の仰せのままに」
タニスはただ黙ってついてくる。
次に食料を買い込み、道具屋で食器等を買う。
また、冒険者御用達の店にて冒険者が着るような服を適当に買っていく。
女性用の下着を何枚か買うので恥ずかしいが、今の俺は女の格好だから堂々としなければならない。
メイヤの下着はサイズを知っているが、タニスとハーニャのは知らない。
タニスの胸は小さいが、ハーニャはメイヤよりも小さく思えた。
そして別の店でタオル類を持てるだけ買い、その都度異空間収納が付与されたカバンへ入れて行く。
途中露店で食べ物を買う事にした。
鶏肉を使った串焼きでお土産にとつい買って行く。
隠れ家を作る時に町中を通っていたが、道中ちょくちょく買い食いをしていて、ここら辺は俺の行き付けだ。
「ちょいと待ちな!」
トートバッグにしまう振りをして異空間収納のカバンに入れようとしたが、店の人じゃない者から声を掛けられたので俺は警戒をしつつ振り向く。
トラブルは勘弁願いたい。
何かフラグを立ててしまっただろうか?
「駄目じゃないか。こんな可愛らしいお嬢さんの服が汚れたらどうするんだ。全く。タレが垂れるだろうに!」
串焼き店の店主に文句を言っていた。
「悪い悪い。持ち帰るとは思わなかったんだ。ほら、これに包めば大丈夫だ」
そうして内側に油が塗ってある大きな葉に包み直してくれたが、声を掛けて来たのは買い物から戻った店主の奥さんで、いかにもといった下町の恰幅の良い母ちゃんだ。
ほっとしたが容量一杯になってしまったので、串焼きはトートバッグに入れ町を後にした。
1度臨検されたが、トートバッグに先程の串焼きと女性用の下着を入れており、俺の顔を見るも下卑た表情を向けられる程度で直ぐに離れていった。
危険を犯したが、屋敷にいた私兵の目を無事に誤魔化せる事ができたようだ。
タニスはぐっと堪えているが、本来荷物を持つのは男の役目だが、変装の関係で逆転している。
タニスはこの歳の女にしては背が高いので俺と同じ位だ。
だから買い物の大半を持たせ、俺は男に持たせたくない様な物を持つようにしていた。
急げば隣町に夕方には着く時間の為怪しまれずに町を出られたが、1人1人の顔をじっと見たりしており、侯爵家の騎士達も一緒になって身分証を確認していた。
しかし、俺達はその他諸々の人と同じであっさり通された。
尾行に注意しながら進み、森に近いところにある隠れ家に無事に着いたので中に入ったが、俺を見たメイヤは泣きながら抱き着いて来た。
「セル様!セル様!ご無事で何よりです!」
「何か変わった事は無かったかい?」
「特に無かったので、勝手ながら私とハーニャで中を整理してみました」
「知っての通り俺は細かい事が苦手だ。物も棚に無造作に突っ込んでいたけど流石だね。2人共ありがとうな」
ハーニャの頭も撫でてやった。
ついでにタニスの頭も撫でてやる。
「タニス、よく我慢して喋らなかったね。もういいからね。それと荷物を整理してくれるかな。そうそう、これからはライと呼ぶんだよ。この後全員新しい名前に変えるけど、名前の主は亡くなっていて、元は4人組の冒険者だったようだ。魔物に返り討ちにあった人達のようで身分は平民の冒険者だから。怪しまれるので様付けは絶対に駄目だから。今日はまあしょうがないけど、明日からは新しい名前だからね」
「はい!セル様ぁ!」
3人の返事は見事にハモっていた・・・・
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