第6話 計画の狂い
目的の場所に着いたが、草の影に隠れたメイヤがちゃんとおり、再会すると俺の胸に飛び込んで来た。
「セル様、良かった！」
今日のメイヤは神殿に行く為、従者業は１日休みを得ている為にお出掛け用の服を着ていた。
仕立ては良いが、決して派手ではない侯爵家の使用人として恥ずかしくない服だ。
俺は木に括り付けている紐を手に取ると一気に引っ張った。
すると地下への入り口が見えた。
カモフラージュしているから閉じればまず分からない。
幼き頃より今日に備えて隠れ家を作っていたのだ。
入り口を開け、【光】で中を照らすと俺は中へ入るようにメイヤへ促し、中に入るとそっと入り口を閉じた。
ここは草むらの中にあるので板の上に草むらの一部を移植しており、周りに溶け込むようにしている。
成長したメイヤはおっとり系の美人さんだ。
胸も順調に成長しており、いずれこの子を巡り戦争が起こっても不思議ではない。
メイヤを抱き締めた。
「少しこうさせてくれ」
俺は分かってはいたものの、生まれ育った屋敷から追放されたと理解し気持ちを切り替えようとした。
メイヤは優しく背中を擦ってくれた。
「君の事は俺の命がある限り必ず守る！」
命に代えてでもとは言わなかった。
駄目です！私の命なんかと言うに決まっているから。
この場所は町をほんの少し出た所に過ぎない。
１０畳程の空間になるように土を削ってある。
俺の魔力を使う練習はここでしていた。
夜な夜な屋敷を抜けて準備をして来た。
間仕切りを兼ねて棚を設置し、数日間生活するのに困らなくしてある。
カバンには１０日以上食い繋ぐ事が出来る食料がある。
事前にお金を渡して料理人に作らせ、メイドが取りに来たら全て入れるように指示してある。
勿論料理人とメイドにお金を握らせており、あたかも１日分の食料を渡したかのようにしている。
俺のお金で買った食材の為、屋敷の出納帳には記載されていないから分からないだろう。
その者達には特定の日に皆で大量の食材を仕入れに隣町へ出掛けるように警告をしてある。
隣町でしか買えない食材を仕入れにと。
そのような手紙を渡し、即時に燃やすようにとも。
その中に俺が追放されるだろうとの予知を書いて置いたから、まあ信じるだろう。
俺も甘いな。
俺が作った隠れ家と言うか、避難場所は地下を掘り５ｍほど降りた所に１０畳程の空間を作り、そこを住めるようにしている。
勿論ギフトの力で照明に困る事はないが、魔導ランプを置いてある。
降りて左手がトイレと風呂場だ。
少し小高い所に作ってあるのと、魔法にて色々な工夫をしてあるので地下水が滲み出て来たり等で困る事はない。
流石に脱衣場はないので階段の所で着替えないとで、右手が倉庫兼居住スペースだ。
土魔法で作ったベッドに布団を置いてある。
また、小さいながらテーブルと椅子も有る。
「セル様、ここは一体？」
メイヤを抱きしめていたが、彼女からしたら謎だらけで不安だろう。
「うん。これから何日かここで過ごしてから他国に行くんだ。ここでメイヤへ魔法と戦う術を教える。勿論僕が守るつもりだけど、何があるか分からないから自らの身を守る術を身に着けて貰いたい」
「魔法・・・ですか？」
「槍姫のギフトを得たから何かしらの魔法は使えると思うんだ。それと基本的な槍の使い方を覚えないとね。また、槍を仕入れないとだ」
ゲームのプロローグではメイヤは既にギフトを取得しており、ギフトを得る場面は最後から２番目のキルカッツが剣聖を得る所からスタートだった。
その為プロローグではメイヤが何を得たのか分からなかった。
追放されて町を出た翌日、隣町との中間点がゲームスタートだった。
何故か１８禁パートがあり、１８歳未満だと主人公から奪われたメイヤが犯され自死したと文章で書かれるが、１８禁解禁パートだとどのように犯されたのか映像があった。
妙にリアルで幼気な美少女が強姦される様や、その夜キルカッツが寝ている上で首を吊り、弛緩筋が緩んだ事により糞尿が顔に垂れ、キルカッツが糞尿塗れになり叫ぶシーンがあった。
このゲームは何万人ものユーザーが１つの世界に集まる形で、１人１人ストーリーが違っていた。
プロローグの映像もどんな技術を使ったのか、本物の映像だと言われたら納得するレベルの映像だった。
今思えばあれは何もしなければこうなるはずの、本物の映像だったのだろう。
１度は興味本位から見る選択をしたが、その映像に唖然として体が硬直した。
その為停止する事無く見てしまったが、泣き叫ぶ少女が犯され純潔を奪われる様に興奮するどころか、吐き気を催し映像が終わるとトイレへ駆け込み吐いた位だ。
何度もやり直したが、それ以降はもう見なかった。
俺はそんな酷い目に遭わせてなるものか！との思いでメイヤが痛いと言うまで思いっきり抱きしめていた。
そしてゲームでのプレイ開始時点で、少なくとも登場人物の運命を変えた。
俺はいつの間にかメイヤのお腹に顔を埋めて泣いていた。
「セル様！メイヤがお側におります！それより良かったのでしょうか？私はお館様に黙って出てきました」
「俺はメイヤを奴隷として扱うつもりはないけど、父は俺の所有物について言及しなかった。一応メイヤは俺の所有物であって侯爵家や父の所有物ではない。ただ、あの場にメイヤがいれば奪われ、父がキルカッツに君を与えるだろう。そして君は今晩犯される事になったと思う。そんな事はさせやしない！あっ・・・所有物とか言ってごめん。対外的な事だから」
「私はセル様だけの女です。もしそんな事が起ったらメイヤは死にます。セル様以外に汚されたらその場で命を絶ちます！」
「分かっている。だからそれを避けるのにこうやって準備をしてきたんだ。先ずは中に入ろう」
そうしていると違和感を感じた。
メイヤの反応に少し違和感があったが、外に何かの気配を感じたのだ。
俺はナイフを携え外を確認する事にした。
「メイヤ、外に何かの気配がする。確認してくる！」
「セル様！その・・・」
俺は気配を隠し、草むらに身を潜ませている者の背後に回った。
後ろから片手で胸を押さえ引き寄せ、喉元にナイフを突き付けた。
プニッとして柔らかさを感じた。
「ヒィー」
短い悲鳴が上がる。
こいつ女だ。
体付きから俺と同じ位の歳で鍛えてはいない。
「大声を出したら殺す。暴れたり逃げたら殺す。分かったら頷け」
その女は頷いた。
「今から手を放すが、黙ったまま手を頭の後ろに置き、ゆっくりこっちを向け！」
その女を見て唖然とした。
ハーニャだった。
もう１人の気配を感じたので声を掛ける。
「もう１人いるだろ？出て来い！」
すると恐る恐る１人の少女が出て来たが、姿を現したのはタニスだった。
「お前達！・・・ここじゃなんだから取り敢えず中に入ってくれ。話はそこで聞こう。それまでは喋るな！」
２人は頷いた。
改めて３人を見る。
メイヤは金髪が優雅に輝く少女であった。
彼女の瞳は深い青色で、そのくりくりとした形状が優しさを映し出していた。
しかし、彼女の身に纏わる奴隷の首輪はその美しさを物語るように心に刺さるような痛みを伝えていた。
タニスは性格を物語るかのような燃えるような赤いショートカットで、その闊達な笑顔は自由を求める魂を象徴し、懐疑的な瞳は過酷な現実への挑戦を示していた。
彼女は女性としての強さと勇気を持ちながら、男装が似合いそうな雰囲気を纏っていた。
ハーニャの水色の髪は風になびきながら肩で切り揃えられていた。
その細い顔立ちは繊細さと脆さを同居させ、その美しさは薄幸な存在を思わせた。
彼女の微笑みは世界の苦難を乗り越える力を秘めており、周囲に希望の光をもたらす存在となっていた。
俺はハーニャとタニスを地下へと続く隠れ家の入り口に押し込むと、もう１度周りの気配を探り、生き物の気配がしない事を確認して入り口を閉じた。
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