第四十話 最終STAGEへ

 和白はスマホを持った腕を力無くぶら下げて俯いている。馴染みのない遊び人向けのゲームに巻き込まれた和白の背中からは現状の不条理に対しての諦めが漂っている。恋人を失った傷心旅行中に謎のロボットに腹を殴られて。二度の電流を受けた上に四人の人間が死んでいくのを目の当たりにした男。


 その和白が先ほど叫んだことは真っ当な言葉だった。こんなゲームは面白くない。楽しい遊びに用いられている野球、カードゲーム、格闘ゲーム、スマホを用いた体験型ゲーム。これらのものに人が死ぬという要素を付け足した最悪のゲームを運営している管理人や企業のことは絶対に許せない。


 シオリの方を振り返ると彼女と目が合った。片方の頬には涙が伝っている。次のターンに俺は動けないからアイテムを盗んでも良いし。この際自分がこのゲームで最下位になったとしても恨みっこなしだ。

 

 俺は前方にいるロックを睨みつけた。そしてテロとも言える忌々しい攻撃を繰り返してきたスナイプを見て顎を引いて憎しみを込めた視線を向けた。あの度がすぎると言えるほどの悪ふざけの塊のようなロベルトの亜種は次のターンだけは絶対に攻撃ができない。きっと光の魔法は隣にいる青白いマスに存在する亡霊にも有効なはずだ。


「MOVE PHASE!」


「他プレイヤーのスキルが発生!マジックタイム!」「ビシィ」

「他プレイヤーのスキルが発生!マジックタイム!」「ビシィ」

「他プレイヤーのスキルが発生!マジックタイム!」「ビシィ」


「プレイヤー『和白』が『時の魔法 タイムスキップ』を使用しました。この5ターン目は実質の最終ターンとなります。次のエネミーのターンでこのゲームは終了となります」

「プレイヤー『シオリ』が『水の魔法 ウォータークリスタル』を使用しました。ゲーム場に霧が発生したことにより。三ターンの間エネミーの移動制御はランダムになります」

「プレイヤー『ぼん』が『光の魔法 フラッシュ・フラッシュ・フラッシュ』を使用しました。次のターンのエネミーの移動と攻撃は必ず失敗します」


 なんだよ。全員で勝利へと続く連携コンボを決めているじゃん。さっさとこのゲームは終わりにして宝石の額で決着をつけようじゃないか。死ぬまでは全員ライバルだと思うことにするよ。


 イヤホンの中に小鳥の囀りと風の草木がなびく音がする。馬が草原を駆ける音がしたかと思うとすぐにオーケストラのファンファーレの演奏が始まった。


「エオルロンダ王国に朝日が昇る。若き盗賊たちは手に入れたばかりの驚異的な魔術を駆使することで三銃士を見事踏破した。三人はそれぞれ別々の道を選んだ。北と東、西へと馬を走らせる彼らには輝かしい未来が待っているはずだ」


「王族たちは失った宝石の行方を追って血眼になって彼らを探すだろう。生き残った若き盗賊たちの旅は続く…」


「ゲームセット!魔法カードの効果によって強制的なターンの進行とエネミーの行動不能が確認されました。これにて王国の広場のゲームは終了となります!」


「では早速宝石カードの合計を参考にしたこのゲームのランキングを発表させていただきます!まず第二位の発表から始めます」


「第二位!シオリ!三十二万ドル!次のゲーム会場へと続く洗濯機は2番です。お疲れ様でした!やはりキーカードが手に入れられなかったのが痛かったですね」


 俺は覚悟を決めていた。和白は移動する回数が少なかったとはいえ前半の成績が良かったこともあるから、幸運のペンダントが奇跡のペンダントに変化したとしても俺が一位になる可能性は低い。俺はスマホをポケットに入れて深呼吸をした。


「ではこのゲームを持って敗退する三位のプレイヤーの発表です!」


「第三位!和白のりお!二十九万ドル!序盤は調子が良かったのに残念だったね!移動する回数が少なすぎたのが敗因かな?」


 誰の歓声も安堵の声すらも上がらないゲーム会場で俺は勝った気分になどなれなかった。


「第一位 斉藤ぼん!三十四万八千七百六十五ドル!ゲーム終了時にキーアイテムである五千ドルの幸運のペンダントが三十万ドルの奇跡のペンダントに変化したよ!ぼんくんは四番席の洗濯機に乗っていただきます」


「和白とシオリもアイテムを拾う選択を多くとるべきだったねえ。正直このゲームでは電流なんかにビビって三銃士と対峙する暇なんてなかったんだよ」


「和白はこのゲーム会場で処刑するから。そこで待っていろよ」


 いつの間にかゲーム会場の床のライトは消えていた。俺は何も考えることができなかった。ルキナの死体にもシオリの姿も見ることができない。床に座り込んでいる和白の横を通り過ぎて五番席の洗濯機にむかった。


 洗濯機の扉のロックが外れると蓋を開けて中に片足を入れた。生き残って家に帰りたい。勿論このマンションで起きた惨事や現実で行方不明になるであろうプレイヤー達の元々の所在や暮らしも調べるつもりだ。そのためには次のゲームでシオリに勝たなくてはならない。


 次のゲームでシオリが勝ったとする。それで彼女がアメリカに行くのであればそれも悪くない。どんなに酷いゲームでも全力でプレーするつもりだ。洗濯機の中に入った後に丸扉に背を向けた俺はスマホを放り投げて頭を抱えた。少し眠りたかった。



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