第三十五話 王国の広場 ロイヤルストラテジー!

「ああ、きついんだけど」


 広場で追跡者を睨んだルキナが独り言を呟いた。俯いて顔を拭うような仕草で絶望をあらわにしている。まだゲームは終わっていない。

 

 貧民の持ち物を漁る和白の顔は目元のクマが消え汗と昂揚が混じった光沢を放っている。マイペースなやつだな。

 

 シオリは武器屋の前で先ほどの俺と同じようにカウンター前面に寄りかかってアイテムを漁っている。小さな口をにっこりと三日月型にして俺と追跡者に目配せをして余裕を見せている。極悪非道。


 「勝負事だからな。悪くないじゃん」すっかり頭の冷えた俺はボソリと一言こぼしてからスマホを見た。シオリはこのラウンドには満足したようで他のプレイヤー全員が近づけない距離を維持して郵便局の前でスマホの画面を見た。シオリちゃんは後から「アメリカ行きの航空券」を回収するつもりだったのかもしれない。彼女は目があった俺を挑発的な上目遣いで睨んだ。曖昧な計算ではあるがシーフスキルは後三回くらいしか使えないはずだ。このラウンドでは彼女の航空券を譲るつもりはない。


沼地の盗賊団 団長の所有物


「偽物の幸運のペンダント 五千ドル」「交換の魔術シェイクハンド 二十ドル」「騎士団所属スナイプへの賄賂 紙幣カード三万ドル」「焼却の魔術バーン・ザ・ハンド 五十ドル」「新入りへの報酬 紙幣六万ドル」


 目の前にいる沼地の団長は話しかけなければただの木偶だ。俺は追跡者を確認した。マネキン達は後退させてもすぐに近づいてくるから突っ立っているわけには行かない。


 俺は意味深なカード名を無思考で無視して「騎士団所属スナイプへの賄賂」を盗んだ。そして一分後に追跡者とシオリを同時に警戒してから「焼却の魔術 バーン・ザ・ハンド」を盗んだ。


 そして残りの一分は手札の確認をするために二番席の洗濯機の前を陣取ってベランダ側の武器屋の前で待機した。シオリは貧民のロベルトが指を刺した天井の方を見つめてクスッと笑った。彼女が纏った余裕に満ちたオーラ。強者の威厳ともいうべき態度なのか五億円のために本性を現したのか。アメリカに何があるというのだろう。引きこもりの俺には想像がつかない。


 シオリがイヤホンに手を当てて何かを待っている。貧民のロベルトに聞いた時間を計算して第二ラウンドの終了を待っているようだ。和白もルキナもシオリを見て青ざめた表情を見せているだけでシーフスキルを使う勇気は出ないようだ。


「おお。皆様は追跡者を追い払う術を見つけたようですね。では追跡者のロベルトは退場となります。早速ですが『王国の広場』最終ラウンドを開始させていただきます。これまでのゲームは楽しんでいただけたでしょうか。フッ。楽しかったみたいですね」


 「アホみたいなロボットに殺されかけたね、すごく楽しかったよ」俺が悪態をつくと同時にイヤホンの奥の方からに洋式の太鼓の音がフェードインしてくる。大勢の民衆が慌てふためく声や店主が店を閉めるために片付けをしているガチャガチャとした音が響く。設定上夜中であるにもかかわらずカラスが鳴き猫やネズミが足早に走り出す。どうやらこれから起きる騒乱から逃れようとしているようだ。


「シャリーン!」という鈴の音が鳴った。


「どうも皆様。僕は君たちを見守っている亡霊道化師のノザワだよ!ここで最終ラウンドの前に途中のランキング結果を発表するよ」


 いつものピエロが声色を変えただけじゃないか。お前はノザワって名前なんだ。通報する時のために覚えておくぞ。


「一位 和白のりお 合計カード価値 十八万ドル しっかりと堅実にって感じなのに不思議と結果は一位だね」

「二位 仁藤シオリ 十五万ドル 圧倒的に攻めたプレイにノザワも感激しております。でも肝心のキーアイテムが入手できていないね」

「三位 皆藤ルキナ 八万ドル 中途半端なプレイとはいえ結構稼いだね。お金を稼ぐセンスはあるって感じかな」

「四位 斉藤ぼん 四万八千七百六十五ドル 貯金が少ないな!ゲームだけが取り柄なのに情けないね!ぼんくん!頑張れ、カッコ笑い!)


 声の演出でカッコ笑いとそのまま発声して付け加える辺りが無性に腹が立つ。


 俺が次のラウンドで幸運のペンダントを盗まれた場合それは同時に唯一の希望である奇跡のペンダントを失うことになる。知らず知らずのうちに勝ち筋が少ないプレイをしていたようだ。ミスった。


「ではみなさん床を見てくれ。これから次のゲームの概要を説明するからさ」


大理石の床の下から格子状の黄色い光が発生した。ちょうど人が一人入れるくらいの四角のマスが会場の床に広がっている。そして一マスごとに数字が当てがわれている。


「そのマスは横が五マス。縦が九マスの計四十五マスだ。これから君たちの配置をいうからすぐに配置についてくれ。第三ゲームで勝利したシオリは7番。ぼんは9番。負けた和白は22番。ルキナは24番だ。そのマスを勝手にはみ出すと首のチョーカーに電流が流れて死ぬから気をつけてくれ」


 洗濯機のある方向を見ると一番奥の方は41番から45番になっている。要するに俺とシオリは質屋と宝石換金店のある反対側にある配置からゲームをスタートすることになる。後ろを振り返ると広場中央にある四つの椅子がそれぞれ17番と19番。27番と29番の位置にある。デッドスペースである椅子に挟まれた場所に和白とルキナは配置されることになるだろう。


 広場にある店のカウンターにはシャッターが降りた。店主のロベルト達がシャッターの向こう側に消えてゲーム会場からはけた。そして広場を彷徨いていたロベルト達がのそのそと壁の方に歩きはじめた。会場の壁がスライドして奥の方にキャスト達が吸い込まれていった。


「王国の騎士団のメンバーは三人。彼らはスナイプとロックとショットという名前だ。三人はそれぞれ41番。43番。45番に出現する。君たちは一ターンに一度一マス移動することができる。一ターンごとにマスの上にランダムで宝石カードが出現するから君たちはそれを拾って資産を増やすわけだ」


「騎士団のメンバーは縦と横。三マス以内に攻撃をすることができる。それを上手く回避しながらアイテムを集めてくれ。マスを移動した時にアイテムを拾う選択と隣接したプレイヤーから宝石カードを盗むという選択を選ぶことができる。どちらを選ぶかは君たち次第だ」




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