第二十九話 三つの盗賊団

「やってられないぞ。ゲームの中ならいいけど現実で目の当たりにするとドッキリを通り越して傷害罪だよ。違う恐喝だ!くそなんだよ!ロベルトって全員同じ顔じゃないか!マネキン共が悪ふざけもいい加減にしろよ」


 俺は震える体に鞭を打って声のボリュームを絞りつつ愚痴という名のエモートスタンプを打ち込んだ。それはスマホではなく空中にボソボソと連打しただけの力ない反抗だった。


 ランドリタワーのゲーム自体が拉致監禁罪と殺人罪を兼ね備えた地獄の所業だということも忘れて俺は目の前で起きたことに対しての怒りをそのまま口にしていた。勿論サラリーマン姿のロベルトは俺の発言を無視して語り始めた。


「さて『真実を映し出す虫眼鏡』を手に入れる方法だが」


「そのアイテムは二千ドルじゃないのかよ。腹が立ってきたぞ。こいつらは現実でしゃべっていることは聞けないからずっと文句言っていやるからな!」


 捲し立てて入るものの俺の声はますます小さくなった。ピエロに文句を言われたら困る。


「この広場には現在三つの盗賊団が潜入している。お前の仲間だった、のりおとルキナは月の盗賊団。しおりは太陽の盗賊団。お前、ぼんは沼地の盗賊団だ。この街で最初に受け取った郵便物を誰に渡すかで所属が決まるわけだが」


「なんで俺だけ沼地なんだよ。選択を間違えたな。いや全てが間違いだ!受け子と掛け子みたいな扱いしやがって!」


 ルキナは最初に警備員のロベルトに話しかけて宝石換金店に行った。ふと我に返った俺が周囲を見渡すと和白も宝石換金店の前にいる。だがルキナは最初に郵便局にはいっていないはずだ。俺は小声で話すのをやめて冷静になってシオリを探した。シオリは支配人のロベルトの前でイヤホンに手を当てている。


 最初にサラリーマンのロベルトに話しかけた場合は最短で支配人と会話できるのだろうか。この広場の支配人がどういった立場なのかがまだわからない。


「沼地と聞いて気味が悪かったか?いや俺から金を盗もうとする奴は大抵の場合、地底を這い闇に紛れて動く根っからの盗人だと思うがね」


 月が一般ルート。太陽がリスクの高い勇気に満ち溢れている道を切り開く才能のある文字通り勇者専用のルート。だと仮定すれば俺の歩んだルートは一番汚れた罪人の道だということになる。沼地の盗賊団に入ることがわかっていたならもっと別の選択肢を取るべきだった。


 画面には選択肢が出ていた。この理不尽な処遇に対しての返事ができるようだ。俺は画面に顔を近づけた。過去一番で文章が長い。


1.アンタの言う通りさ!さてとさっさと仕事を終わらせたいな。回りくどいことはしたくない主義なんでね。本題に入ろうか。


2.ああそうなのかも知れないね。だけどこのチケットは何に化けているんだい?魔法とやらがあるなら解いた瞬間に呪い殺されるかも知れない。そう思うとやる気が無くなっちまうな。


3.それは違うな。俺は自分がやるべきことを入念に考えた上でお前に話しかけたんだ。その選択が盗賊らしいと言うのであれば否定はしないぜ。偉そうな支配人と話している太陽に選ばれたやつから何かを盗めばいいのかい?


4.盗めばなんでも手に入るなら世界を手に入れたいぜ。このチケットの正体はきっと覇王の魔術が記された本だ!金じゃ買えないものを盗んだ時に真の盗賊になれる。アンタだってそう思うだろう?


 俺は生唾を飲み込んでからもう一度選択肢を読み直した。選択肢の上に表示された制限時間は一分しかない。1と2は極々普通の選択肢だ。


 3の選択肢は現在支配人と何かしらの取引をしているシオリから何かを盗むことになるようだからシーフカードが必要になる。現在シーフカードは使用してしまったから所有していない。


 第三ゲームの後に語りかけてきた美少女のイメージが頭によぎる。敵に回すなら最後にしたいところだ。彼女が命を賭けて争うライバルだとしてもこの段階で重要なアイテムを盗むことはゲーマーの武士道に背くようなものだし大したものが盗めなかった場合が面倒だ。


 これは対戦ゲームなのか?それとも俺の人間性のテストをしているのか?頭が混乱してきた。


 4の選択肢は沼地の盗賊団に入った新入りの発言ならとびっきりのエリートとも言えるものだ。まさに悪人としてゲームを全うするための回答だ。だがこれが一番宝石を増やすという目的に直結する選択肢とも言える。


 だがゲームの世界でこの生き方を選ぶと大抵胸焼けを起こすようなシナリオが連続することが多い。例えば取引相手のアジトにいる人間を全員殺害するとか。国の王と交渉決裂する選択肢しか選べないだとか、物好きが選ぶゲーム世界の住人のマイナス好感度を極めるプレイスタイルだと言える。そして大抵の場合全員を殺すことになりうる。


 制限時間は後五秒。


 俺は4の選択肢を押した。どうせだったら全員を相手にしてやる。シオリちゃんだけ早々にリタイアじゃつまらないじゃないか。スーツを着たロベルトは両手の平を天井に向け横に広げてから頷いた。


「全てを手に入れたいだって?なるほどな。残念ながらそのチケットに化けている宝石の価値では不可能だ」


 俺はLOGボタンを押して前の文を流した。貧民のロベルトは宝石のことを「幸運のネックレス」だと仄めかしていたことを確認した。幸運では世界を手に入れることはできない…か。とんだ的外れな答えを選んでしまったのかも知れない。


 このことから考えられるのは最初にプレイヤーが手に入れるアイテムはそれぞれ違うものだったということだ。


 まず手に入れたアイテムの魔法を解くことでゲームを有利に進めることができる。要するに一人でゲームを進めて尚且つ進行度を競争する要素が絡んでくることになる。


「だがお前の凶悪な人格にふさわしいカードを二枚渡そうじゃないか。まずはそうだな。俺はあの太陽の支配人が嫌いなんだ、早めに排除したいところだな。そして月の連中は警備員のうちの二人に紛れ込んでいる。彼らはは自分たちの生活のためだけに盗みをする腑抜け共だ。そうだとしても少しくらい掠め取ってやるのも悪くない。そこにいる貧民はただの貧民だ。気にするな施しなど必要ない」


 商人たちの中には盗賊団はいないのか。


 そしてヒントだけ言い放って後の選択は自分で何とかしないといけない流れになったな。俺が世界を手に入れるといったことで沼地の盗賊団の団長がドン引きしているじゃないか。少し考えすぎだったようだ。


 俺はLOG画面を閉じて追加された二枚のカードを見た。


「ゴッドシーフ」のカード。二千ドル。手札を全て捨てる。この街にある一番高価なものとこのカードを交換する(自動で優先して選択される)現在の最高額カード宝石換金店所有『女王のルビー』五万ドル」


「変化の魔術」のカード。千五百ドル。一枚のカードを変化させることができる。自分がこのゲーム中に手に入れたものか話に聞いたものにしか変化させることはできない。すでに魔法で変化した宝石には変化することはできない。ゲーム終了時に元のカードに戻る。


 選択肢の中で最もビッグマウスな言葉を選んだこともあり強そうなカードが手に入った気がする。ゴッドシーフのカードに関しては現在ゲーム中に存在する最高額のカード価値を把握できるオマケがついている。


 変化の魔術のカードは所有していない何かとトレードするために使い捨てた方が良いかも知れない。サラリーマンのロベルトが話し始めた。俺はイヤホンを押さえてスマホの画面を見た。


「『真実を映し出す虫眼鏡』を手に入れるためにはあの店の主人が好きな『ピンクの雑誌』を差し入れする必要がある。雑誌は忙しい探偵か警備員の誰かが持っている。どうにかして手に入れたいところだな。そのカードをうまく使って手に入れて見せろ。虫眼鏡を使ってチケットの魔法を解いたら俺に報告してくれ」



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