第十五話 ハズレを引いたら爆死
一ターン目
今の俺のハンドには青のクローバー♧がワンペア揃っているから隣のシオリに流すカードは赤のスペード♠︎かダイヤ♦︎かハート❤︎のいずれかだ。制限時間はないから赤のスペード♠︎で決まりだ。掴んだ赤のスペードの箱を窓の隙間から出すことにしよう。(←♠︎)(♧♧♦︎❤︎)
俺は手の甲を上にしてから肩を落とし窓の奥に見えるカードを入れる穴に嵌め込んだ。わかっていたことではあるが五番席と六番席の二人が交換に出したカードは窓越しからだと絵柄がわからなかった。どうやら銀田と市来は一番席から四番席に見えるカードの絵柄がわからないことに戸惑っているようだ。
こういった近代的な設備のゲームは初老と昭和世代は理解が遅れるのかもしれない。おそらくあの二人はカード置きのあるテーブル下の爆弾には気づいていないだろう。
ベルトコンベアが起動する音がすると窓が閉まった。残念ながらベルトコンベアの機械の音はほとんど聞こえなかった。毎度のことではあるがランドリタワーの運営はゲームのムードが作れていないと思う。
俺に流れてきたカードの絵柄は黒で塗りつぶされていてわからない。もう一度窓が開くと中腰になった俺はすぐにそのカードに手を伸ばした。その時にカードが埋め込まれたプラスチックの枠に指が一本入るくらいの隙間ができた。
手元に来たカードの絵柄を見ると赤のハート❤︎だった。
二ターン目
現在青のクローバー♧が二つと赤の❤︎が二つと赤のダイヤ♦︎が一つ。早速俺のハンドにツーペアが揃った。(♧♧❤︎❤︎♦︎)
ロベルトに回ってきたハンドは黒く塗りつぶされていたが今、窓のディスプレイが更新されて表示されたようだ。ベルトコンベアの向こうにいる黒いロボットのハンドには青のスペード♤が一枚加わって。赤のクローバー♣︎が一枚。青のハート♡が二枚。青のダイヤ♢が一枚。青のスペード♤が一枚。青のハートでワンペアが揃っている。(♤♣︎♡♡♢)
ロベルトがジョーカーを捨てたところを見ると弱い手札が勝つこともあり得る。だが誰がどのカードを出すかはそれぞれの考え方があるからこのゲームは狙って勝つことが難しいはずだ。ロベルトは俺たちのハンドが見えているのだろうか。そうだとしてもゲームを外から支配することができるとは思えない。
また窓が開いたので俺はツーペアの役をキープして赤のダイヤ♦︎を左の三番席のシオリに流した。窓の外に流れてきた黒く塗りつぶされたカードを手にとって自分のテーブルの上に置いてみた。流れてきたカードを見た俺は思わず舌打ちをして頭を掻いた。
三ターン目
和白パイセンはルールがわかっているのだろうか。明かされていないルールがあるから悪くない判断なのかもしれないがジョーカーを俺に回してきたな。
(❤︎❤︎♧♧ J )
ロベルトの隣にある電光掲示板に表示されているツーペアは下から二番目の役だ。スリーカードを狙える状況であるから役に合わないカードをひたすら流していくのが無難だろう。だが次の五ターン目のためにジョーカーをキープすることも大事なのかもしれない。
まず五ターン以内にジョーカーを三枚揃えるためにはロベルトの前をジョーカーが通るかどうかを確認する必要がある。窓の向こう側で姿勢を正して立っているロベルトのハンドを見た俺は小さい声でつぶやいた。
「ロベルトは何も考えていないのか?ワンペア揃っていた青のハートを流して引いたカードは赤のダイヤかよ。ワンペアは色違いでもいいから揃っているけど赤のダイヤは偶然引いただけだ。何かがあるな」
ロベルトのハンドからはワンペアの片割れである青のハート♡がなくなっている。赤のクローバー♣︎と青のハート♡。赤と青のダイヤ♦︎♢が一枚ずつ。青のスペードが一枚♤。(♣︎♡♢♦︎♤)同絵柄なのであればワンペアが成立するけど弱い。
これによって一回目の清算の段階。時計回りで見て残り二ターンで俺のハンドにジョーカーが加わる可能性はゼロになった。ジョーカーを揃える以外のルートで負けないようにするしかない。
そしてすぐに手元の窓が開いた。俺は迷わずにジョーカーを流した。隣のシオリがジョーカーを二枚キープしていた場合。彼女がジョーカーを三枚揃える可能性があるが必然的にジョーカーの枚数が多いとそれ以外の役は使い物にならない可能性がある。
俺は右から流れてきたカードをすぐに見た。そして窓が閉じた瞬間にぼそりとつぶやいた。
「青のハートか。ツーペア以上の役の成立はかなり難しいよな。あと二ターンで何かが起きる」
ロベルトのハンドを見ると。ハンドに変化がない。俺は頭を掻きながら少し考えた後すぐに回答を出した。一番席の和白に流したカードと同色同柄のカードを引いたのか?あのロボット弱いな。(♣︎♡♢♦︎♤)
そして四ターン目も俺は役から外れた一枚を隣に流してツーペアをキープした。
そして和白から流れてきたカードをすぐに手に取って確認した。その時俺はパチスロの交換所で現金を受け取る感覚を思い出した。手元の窓が閉まる。
「赤のハートじゃん。スリーカードだ。よし狙い通り中間の役を揃えた。これで負けることも勝つこともないはずだ」
五ターン目
俺のハンドの内容は赤のハート❤︎が三枚と青のクローバー♧が二枚だった。
(❤︎❤︎❤︎♧♧)
一方、公開されたロベルトのハンドは赤のクローバー♣︎が一つ。青のハート♡が一つ。赤のダイヤ♦︎が一つ。青のクローバー♧が一つ。青のスペード♤が一つ。
整理すると
(♣︎♧♦︎♤♡)
色違い同絵柄のクローバーのワンペアか。あいつわざと弱い札を揃えていないか?俺は腕を組んだ。さあ五ターン目だ。俺はゆっくりと振り返ってテーブルの上のスマホスタンドを見た。
「おおおお。皆様カジノは初めてではなかったのですね。愚民の割にはなかなか良いプレイですね」
カジノには行った事がないな。それにこんな変なゲームはカジノにはないだろう。なんかイライラするな。
「では強い役を持った人間がナンバーワンなのか弱い役を持った人間がナンバーワンなのかのルーレットを開始させていただきます。スマホスタンドのライトのカラーは赤と青です!ご注目ください。ドゥルルルルルルルル」
ピエロはスマホの向こうから自分の声でドラムロールを流し始めた。スマホスタンドが高速で赤と青に点滅している。
狙いを持ってプレイをしていて良かった。弱い役を持っていても勝てる可能性がある以上スリーカードは最強だ。でも待ってくれよ。五ターン毎にルーレットで役の強さを逆転させることができるのであれあれば勝ちの条件ではなく。負けの条件しか生まれない。何を持ってして勝ちを決めるんだ?
ライトは赤で止まった。
「はあい!強い役を持った奴が勝ちだよ!普通だね!」
いや違う。これは負ける人間を決めるルーレットだ。
「負けた奴のハンドを公開するぞ!死人もカードの交換ができるから。よく覚えて参考にしろよお前ら!」
なるほど負けた人間のハンドは公開されるのか。ロベルトの隣の電光掲示板に名前と手札が表示された。
「市来 ♡❤︎ ワンペア ♢♧♤」
「シオリ♠︎♠︎ワンペア ♧♦︎ Pierrot」
「ロベルト♦︎♢ワンペア♣︎♡♤」
ピエロが「ふーん」とぼやいた。
ジョーカーではなくピエロなんだ。くだらない。
「シオリは同色の絵柄があるから勝ちとする」
「では市来とロベルトのどちらが負けるかをルーレットで決めまーす。市来は赤。ロベルトは青!はい!ルーレットスタート!ドルルルルルルルルル」
俺は窓越しに市来のいる六番席をみた。こちらから見える市来の背中の向こう側にあるスマホスタンドが赤と青で点滅している。そしてロベルトの方を見ると黒いマネキンの顔面にうっすらと赤と青のライトが点滅している。ルーレットが二つあるとややこしいから電光掲示板に表示した方がいいんじゃないかな。
そうか勝敗は敗者にだけ提示されればいいんだ。振り返ると俺のスマホスタンドには変化がない。
ライトの点滅はゆっくりとしたスピードに変化した。何が起きるのだろうか。赤、青、赤。
そして青で止まった。良かったロベルトの負けだ。
「良かったねお前ら。このターンはロベルトが爆風を受けて終了だ!残り十五ターン!」
「ばくふう?」
ロベルトの方を見た瞬間だった。目の前で雷が落ちた時のような閃光が弾け会場に地響きが起こった。そして分厚い窓、スタンドプレイウィンドウの前が粉塵で見えなくなった。
「ふざけんなよ。怖すぎる」
俺は窓から離れて茶色の壁に背中をつけた。深呼吸を繰り返して荒い息を抑えようとするが中々心臓の動悸が治らない。爆弾が放つ威力が想像を遥かに超えていた。
このゲームで負けると確実に死ぬ。
そう思った次の瞬間に分厚い窓の前の粉塵が掃除機に吸い込まれるようにして天井に登って行った。微かに窓の向こう側から風の音がしている。
「はい当然ですが。ロベルトはゲームを続行できます。すごいだろロベルトは!ベルトコンベアも問題ないんだな!これが!」
興奮するとこのピエロの日本語はおかしくなるようだ。何を言っているのかわからない。
背筋を伸ばして佇むロベルトの体から剥がれた粉塵が天井に吸い込まれていく。まるでファンタジー映画で爆風や砂塵の中から颯爽と現れる主人公みたいだ。いやトドメを刺したと思われたボスキャラが無傷で現れたと言った表現の方があっている。
常にロベルトが負けであれば全員が生存する可能性もある。でも生きるか死ぬかはルーレット次第だ。何がインスタントポーカーだよ完全に運ゲーじゃないか。最悪だ。
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