第十四話 非公開ルール制 カードゲーム

 そもそも五ターン目にハンドが弱かった人間、負けたプレイヤーがどうなるのかの説明がないじゃないか。逆に役が強い方が罰ゲーム、いやゲームオーバーになるのだろうか。


 ロベルトのハンドにはピエロの絵柄をしたジョーカーがある。まずロベルトが起こす初動の動きをよく見ておく必要があるな。ピエロが負けた人間はハンドを継続すると言っていたな。そうだとすれば五ターン毎に持ち札の点数を追加するシステムなのだろうかそれなら運が悪くてもチャンスがある。


 急に死ぬのが怖くなってきた。このムズムズ感はゲームオーバーを繰り返すことで次の行動を覚える死にゲーをプレイしている時の感覚に近い。でもこれは現実だから一度死んだら何もかも終わりだ。コンビニ夜勤の同僚である着衣巨乳のキャバ嬢の姿と快適なワンルーム。あれ?それ以外には思い出すものがないな。


現在の俺のハンド。

青クローバーが二つ♧×2。赤のスペード♠︎。赤のハート❤︎。赤のダイヤ♦︎

(♧♧♠︎❤︎♦︎)


公開されたロベルトのハンド

赤のクローバーが一つ♣︎。青のハートが二つ♡×2。青のダイヤが♢ 

そしてジョーカーが一つ (♣︎♡♡♢J)


 このゲーム会場では隣のレーンのプレイヤーとは会話できないように防音処理が施されているようだ。俺がいる二番席のレーンは何一つ物音がしない。空調の音がかすかにしているだけだからネカフェの個室だったら最上級の環境と言える。大抵の場合ネカフェは客が少なければ静かなのだが。チューハイの缶を開ける音やキーボードとかマウスの音がしない空間がこんなに寂しいとは思いもしなかった。


 厚みのある窓から五番席と六番席の手札が見えないだろうか。俺はロベルトを警戒しながら奥のレーンの窓を覗き見た。


 そこにはクリアボディの麻雀牌ようなカードを手に取って撫でている銀田シズオと市来こうきが見えた。いやいや初めて買ってもらったゲーム機じゃないんだからさ、可愛いおっさんたちだな。だが手に持ったトランプの絵柄が真っ黒に塗りつぶされている。俺は背筋に気配を感じた。背後にあるスマホスタンドからピエロの下品な声がした。


「ぼんくんさあ。君はゲームばっかりやっているせいで向こう側にいるロベルトが怖くないのかい?現実を見て生きていこうぜ」


 毎度のことではあるがこのピエロは言葉のチョイスが最悪だな。こうやって現実を見ている最中なんだよ。ゲーム環境の把握をしているんだ。こちらは命と五億円がかかっているんだぜ?


「その窓は特殊なデジタル加工がしてあるんだ。要するに覗き見禁止なんだよ。カードをレーンに置くときに窓が開くけど。手元の部分だけしか開かないからな。しゃがんで目線を下げてのぞいたらロベルトに殺されるから覚悟しておけよ。君はまた頷くだけなのかな?返事はさハイが一回でいいんだよ!」


うるせ。


「なーんか。ぼんくん。嫌いだなあ俺。マジでさあゲーマーって嫌なやつばっかりだ。勘が鋭いというよりかは民度が低いんだよなあ」


くそうるせ。貴重な情報をどうも。


 俺は言われた通り、そしてマニュアル通り頷いたがスマホからの返事はなかった。


 手札を時計回りに交換する時に少ししか窓が開かないのであればロベルトが反則をしたプレイヤーを銃で狙うのは難しいはずだ。もしかすると正確に膵臓だとか脊椎を狙えるのかもしれないが何かが引っ掛かる。


 そこで俺は腰の高さにある小さなテーブルの下を見ようかと考えた。窓の下を覗いた瞬間に窓が開いてロベルトに銃で狙われることに恐怖を感じて屈むことはできなかった。


 ロベルトの内部にあるカメラに映らないように手のひらを天井に向けてテーブルの下に入れて探ってみると板裏に窪みがあり加えてガムテープの感触があった。それは乱雑に貼り付けられているようで手のひらにベタベタと粘着剤が張り付いた。


なるほどな。


 頭によぎったのは刑事ドラマで見るテロリストが作ったプラスチック爆弾だった。大体こう言ったものはアマゾンだとかゾゾタウンの商品が入った段ボールサイズだけどそのイメージと比べると少し小さい気がする。



 探偵や刑事が爆弾を止めるために赤と青の線のどちらかを切るシーンをドラマなどでよく見かけることがあるが今手元に触れている塊には外に飛び出したケーブルの感触はない。あえてガムテープを緩く貼り付けているということはこの爆弾に気づく人間がいることが前提で用意されていると見て良さそうだ。


 これではっきりとした。このゲームに負けたプレイヤーはこのふざけたデザインの縦長個室が棺桶になる。周りの音が何もしないから窓も壁も相当頑丈なんだろうな。


 先ほどの野球ゲームでは「ウルフの一発逆転選択チャンス」(俺が勝手に名前をつけた)が発生してゲームが中断したために負けたチームがどうなるのかはわからなかったが今回はチームではなくソロプレイだから今回は確実に誰かが死ぬ。


 スマホからピエロのアナウンスがかかった。さてとゲーム開始の時間だ。


「ではでは、皆様!第二ゲーム ウィナーズチョイス インスタントポーカー!ゲームスタートとなります!目の前の窓が少し開くのでそこから手札のカードを一枚選んでベルトコンベアの枠にカチッとはめてくださいまし。制限時間は二十秒となっております!」


 分厚い窓がゆっくりと開いた。空調の冷えた風が手に触れると同時に。奥に見えるロベルトが訓練中の軍人のように起立した。


 窓の隙間から隣のシオリとルキナが気持ち悪さを堪えるしゃっくりが聞こえた。しゃっくりや嗚咽はセーフのようだ。


 ロベルトはカードゲームや囲碁が題材のアニメキャラのように大袈裟な動作で掴んだカードを天井に向けて掲げた後に枠の中に叩きつけた。あのロボットはノータイム(ゼロ秒)でカードを選んだ。あの片手を天に向かって伸ばす動作は実家の親父が好きだったサタデーナイトフィーバーとかいう映画のダンスに似ている。ゲーム運営陣の連中は昭和世代が多いのだろうか。


 そしてロベルトが選んだカードはジョーカーだった。一番席の和白に流したぞ。NPC(ノンプレイヤーキャラクター)が強いカードを捨てたな。コンピューターの質が悪いのだろうか。これで和白のハンドにはジョーカーが加わったわけだ。


 なんか怪しい気配がするな。まず強くもなく弱くもない役を揃えて一位でもなく最下位でもない位置を狙った方が良さそうだな。同じことをここでテーブルを囲んでいる奴らも考えているはずだ。爆死で人生を終えたくはない。

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