STAGE:2
午前二十六時五十八分を表示した画面の中ではピエロが寝ている。ピエロの育成ゲームのような画面を見て俺は舌打ちをした。普通の人間ならみんな寝ている時間だよな。
俺みたいなゲーマーと夜勤を兼ねている上に深夜に遠くの地域にあるコインランドリーに通っているやつなんか普通じゃない。新型コインランドリーを運営する会社が利用者のモニタリングをしているという俺の推理は半分当たっているのかもしれない。ランドリタワーに来る人間は少し変わった人間が多い気がする。
第二ゲームがあるとアナウンスされようが五億円がもらえると言われようが本来は来るはずのない助けを待つために駄々をこねて叫び回るくらいが普通だ。日本で見かけることなどまずあり得ないロボットが目の前で人を銃殺するシーンに遭遇すればなおさらだ。それにあんなに動けるロボットはまだこの世に存在しない。
結局全員黙って洗濯機型のエレベーターとかいう訳のわからないものに乗り込んだ。そして次の階で止まったエレベーターの前にある黒い壁はまだ開こうとしない。
突然、客を拉致して狂ったゲームに強制参加させたピエロの言っていることや非人道的なゲームの様子を冷静に分析していた俺が一番この状況に戸惑っているのかもしれないな。結局洗濯機の中には開くことの出来そうなパネルの隙間やボタンはなかった。
月明ウルフがロベルトに向けてバットを振れたのは多額の借金があったからだ。対して俺は目先の仮想通貨が欲しかったから洗濯にきただけの生ぬるい人間だ。ランドリタワーでは負の感情が強い方が強いプレイヤーなのかもしれない。黙ってゲームを続行した他の参加者もウルフと同じように何かしらの問題を抱えていると見て良さそうだ。俺はどうだろう、とりあえず将来のことを一切考えていないから罪が重いということにしておこう。きっとそうだな。精神衛生のために思考回路に一時措置を施しておく。
そしてこの中に運営側の回し者が紛れ込んでいるのであれば最上階に近づくにつれてわかってくるはずだ。五億円よりは命が大事だから思考を止めてはいけない。いや待てよ五億円を手に入れなければ死んだも同然なのか。勝つしかないな頑張れ俺。人狼が判明したところで何もできないかもしれないな。きつい。
ブルーのライトに照らされた洗濯機が揺れている。たまに関東で起きる震度の浅い地震を彷彿とさせる揺れは俺の中で湧き上がるモヤモヤを強めた。野球の次はもっとアクティブに体を動かすタイプのゲームになるのかもしれない。フェンシングだとかボクシング、ましてやプロレスだったら女性にも勝てない気がする。情けないな。
シャッターが上へと開いて。外の光と洗濯槽の中の青い光が混ざった。妙にカラフルな色だ。これは雨の日のパチンコ屋の入り口前の道路上にある水たまりを思い出すな。なんか元気が出てきたぞ。
俺は不安と閉塞感から解放されたい一心でロックが外された扉を内側から押し込んで開けた。そこに見えていたのは先程のフェンスで囲まれたレーンとは違ってシックな沈んだトーンの茶色い壁に挟まれた二メートルほどの通路だった。
「ネカフェを縦に長くしたみたいだな」
野球ゲームの際はフェンスの扉だった場所には壁があって窓のようなものが見える。カラフルな光はそこからさしていた。先程の充電スタンドの置いてある丸テーブルは奥の行き止まりから離れたところに設置してある。そして行き止まりの壁にある四角い縦長の窓の前には小さな台が設置されていて五つの小さな箱が置いてある。
こちらに見える箱の表面には何かのイラストが描かれているようだ。俺は視力はいい方でコンタクトレンズはつけていないが窓の奥からさす光のせいで焦点が定まるまでに数秒かかった。
前に進んで近づくと五個の小さな箱には。左から順番に青色のクローバーが二つ赤色のスペードとハートとダイヤが一つずつ描かれている。プラスチックの箱は透明でこちらに見えている表と裏にも同じ絵柄が印字されている。
トランプのハンド(手札)のように見えるが数字は印字されていない。おそらく後二色を含めた四つの絵柄があるのかもしれない。
俺の現在のハンド(手札)は青のクローバーが二つ。赤のスペード。赤のハート。赤のダイヤの一枚の計五つ。そしてガラス窓の向こうにはベルトコンベアが見えた。
なるほどこのベルトコンベアの上に一つの箱を置いて隣に流すのか。オッケー。
そしてさらに奥には四角で一周囲まれているベルトコンベアの全体が見えていた。そしてカラフルな光の光源がそこにはあった。天井に沿って電光の看板がぶら下がっている。眩しいぜパチスロの筐体みたいだ。
「WINNER's CHOICE!INSTANT POKER!」
俺は目を細めて「ウィナーズチョイス インスタントポーカー」と声に出した後に鼻から息を吐いた。勝者の選択、インスタントポーカー。なぜだろうまったくテンションが上がらない。運要素がメインのゲームで選択という言葉を用いたネーミングセンスも嫌なのだが他にも理由がある。
回転寿司のレーンのように座席に沿って設置されたベルトコンベアは会場中心を囲んでいる。一番席から六番席まで伸びていて市来こうきのいる六番席の前から右に角を折れた先にはタキシードをきたロベルトが背筋を伸ばして鎮座していた。
今回ロベルトは俺たちに混じって人数合わせのNPC(ノンプレイヤーキャラクター)として参加するようだ。そしてロベルトのハンド(手札)は公開されていた。ベルトコンベアの前に堂々と並べてある絵柄を俺はまじまじと見た。
赤のクローバーが一つ青のハートが二つ青のダイヤが一つそしてランドリタワーのマスコットであるジャグラー風ピエロ柄のジョーカーのようなものが一つ混じっていた。ロベルトの左には大きな液晶パネルが配置されている。
どうやらこの簡略化されたランドリタワー特製のポーカーゲームだけの強い役があるようだ。
上から順番に俺は見た。
一番上役はスリーピエロ。
ピエロが三つとその他は何でも良い。
二番目の役はランドリーフラッシュ。
同色の絵柄が四種類とそれ以外は別の色のカード。残りの一枚はピエロでも可
三番目の役はランドリーフォーカード。
同色の絵柄が四枚とそれ以外はどのカードでも良い。残りの一枚はピエロでも可。
四番目の役はツーペア。
同絵柄のカードが二枚ずつ。色は何でも良い。残りの一枚はピエロでも可
五番目の役はワンペア。
こちらも同絵柄のカードが二枚揃えば良い。色の組み合わせは何でも良い。ピエロが混ざっていても良い。
このゲームの参加者はロベルトを含めると七人。七人のプレイヤーが五枚の手札を持っているのであれば全部のカードの枚数は三十五枚。電光掲示板のルール説明では青と赤のカードしか表示されていないことに加えて全員に公開されているロベルトのハンド(手札)の絵柄の色は二色だから二色同柄のカードは八枚ずつで全部で三十二枚。ジョーカーの役割のあるピエロのカードは三枚あるということになる。
スマホからピエロが語りかけてきた。今回は低音のきいた整った声だった。
「ええ、皆様。第二ゲーム会場。ウィナーズチョイスカッジィノ(カジノ) インスタントポーカーテーブルへようこそ!早速スマホをスタンドにセットしていただいて自分のスタンドプレイウィンドウの前にあるテーブルの持ち札を確認してください。このゲームの詳しいルールの説明はありません。ですが電光掲示板とロベルトの公開されている手札をヒントにして皆さまがじっくり考えれば理解できると思いますよ」
テーブルは小物置きみたいだし、スタンドプレイウィンドウはただの分厚い窓なんだけどな。完全に予算の使い方を間違っていると思う。ベルトコンベアは大きな麻雀牌のような形をしたカードが滑り落ちないようにすっぽりと収まるサイズの枠が取り付けられていた。ここは良い感じ。
「…ですが基本的なルールを少しだけアナウンス致します。仕方がないなアホどもが!ゴホン!」
「一ターンに一度あなたたちの目の前にある窓が開きます。この時に声を発したり別のプレイヤーに語りかけるはルール違反です。違反を犯したプレイヤーに対してロベルトはテーブルの下に隠している拳銃でいつでもあなたたちを殺す事が出来ます」
「はい。わかりますよね。皆様は一ターンに一度。開いた窓の前にあるベルトコンベアにカードを一枚乗せて時計回りに交換します。そして五ターン毎に今現在持っている持ち札の役を確認していただきます。負けても勝っても次のターンも持ち札は継続してキープしていただきます」
「以上です」
「ではゲーム開始!ごゆっくりどうぞ!」
このゲームで負けたらどうなるのだろうか。順位がつく以上、まずは最下位になって死なないようにするにはどうするかを考えないとな。
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