ディザスター・ゲーム5
吸引機が意思を失くしたかのように回転を放棄し、自然停止した。
サードとテカプリはようやく立ち上がる。タイタンフレッド、ほんまKAINA、氷河の三人は窓辺で手を切って出血していたものの、誰も飛ばされてはいなかった。
サードはそら恐ろしくて、吸引機を見ることができない。テカプリのメガネに事務所の残骸にキリンAの胸から上が挟まっているのが反射して映っている。下半身はファンに刻まれて原型を留めていない。それだけで十分だった。
サードは味のしない赤い紙を吐き出す。緊張と紙に水分を奪われたおかげで、舌は干からびていた。
氷河は赤い紙をズボンのポケットに入れていたので、きれいな状態で出してきた。
タイタンフレッドの赤い紙はガムみたいに噛み砕かれたようで、口から摘まみ出されたときにはぐちゃぐちゃだった。
「クソ! キラー・ハニーの奴、俺たちが答えを叫んだのに扇風機を停止しやがらなかった!」
「誰かが絵柄を間違って読み上げたってことはないのかい?」とテカプリ。タイタンフレッドがあからさまに嫌な顔をする。
「ゲームはまだ終わってないと思う。出口が開いてないからね。赤い紙がヒントだと思うけど。キリンA……」氷河は言いながら、キリンAの亡骸に目を伏せた。
しわを伸ばしてそれぞれが三枚を眺めた。
「おい、ピンク髪。無視すんじゃねぇ、サードこっち来い!」
「無視してないわよ。どこからどう見ても学校の絵でしょ?」
サードの持つ長方形の赤い紙は唾液で滲んではいたが、絵は何とか見える。
学校の絵は当然ながら校舎が描かれている。正面から見て左に窓が縦横それぞれ三つある。右も同様で左右対称となっている。中央は二つの窓と六時四十五分を指す時計塔が描かれている。
「氷河、てめーのは?」
「僕のは時計だけど、漢数字時計なんだ」
「はぁ? なんじゃそりゃ。なんでそう叫ばなかったんだよ」
「時計は時計だよ。あの騒音の中ではっきり聞こえるように叫ぶには短く言った方が確実だと思ったし」
「てめーのせいだ! 扇風機が止まらなかったのは、ちゃんと言わなかったからだ!」
タイタンフレッドが氷河の胸倉をつかんだので、テカプリがいち早くタイタンフレッドを殴った。
「ぐっ。てめー何しやがる! よれよれのパンチなんか出しやがって」
「ご、ごめん。でも、君のはどうなんだ? 本当にNだったのか?」
「え?」
タイタンフレッドが自分の赤い紙を見て愕然となる。長方形の紙を横長に持つとNではなくZになる。
「嘘だろ。俺が言い間違ったのか」
タイタンフレッドが氷河から手を離す。ほっと一息ついたのか、氷河はブラウスの襟を正す。
「ん? おかしいで」
ほんまKAINAが割って入って来た。
「何でタイタンフレッドはんの紙だけ横向きが正解なんや? そもそもこの紙、縦横どっちが正解とかってどうやって分かるんや? それに、三枚中、二枚に時計が入ってるのもおかしいやん」
学校の校舎に時計が入っているのは当たり前とサードは思ったが、言われてみればそうかもしれない。
「氷河はんのは漢数字の文字盤ってのもおかしいしな」
漢数字の時計の針は短針がなく、長針が漢字の『三』を示している。
「あ、パスワードかも」
サードは先ほど盾を発見したデスクを探す。送風機の近くにオフィスデスクは集まっていた。キリンAの亡骸に目を伏せながら例のデスクを探す。コンセントが一台だけ長かったのか抜けていないパソコンを見つける。モニターにひびは入っていたが、稼働しているのでこのパソコンで間違いなかった。
学校の時計塔の六時四十五分と漢数字時計の三を入力してみる。六四一五、三でも、三、六四一五でもパスワードが違いますと表示される。
「Zはアルファベットの二十六文字目だから、二六に六四一五と三も試してみたらどうだろう。四ケタじゃなくなるけど」
テカプリの言う数字を並び替えてみても駄目だった。
「向きは?」
氷河が言った。
「向きって? ああ、そうか。それもそうだ」
テカプリがタイタンフレッドの赤い紙をひったくる。
「貸して下さいぐらい言えよ」
「君のミスのおかげで閃いたんだよ。君は最初この紙を縦長に持ってNと呼んだね」
感謝されているらしいことに気づいたタイタンフレッドは、目を白黒させている。
「正解はZだった。つまり、この長方形の紙の持ち方は、横が長くなるように持つんだ。同様に」と言ってサードと氷河に紙を貸してくれと頼んだ。サードも何となく意味が分かってきた。学校の絵柄が横向きになる。六時四十五分を指し示している学校の時計は横向きにすると、九時に見える。または、三時三十分。同様に氷河の漢数字の三を横向きにすると数字の一が三つ並んで111に見える。
「え、じゃあ、組み合わせとして考えられるのって」
もう少しで答えが導かれそうで、サードの声は弾む。
「この際、Zは絵柄の方角を示すヒントだと考えるなら、アルファベットの二十六文字目っていうことは気にしなくてもいいかもしれないね」
「じゃあ六時四十五分を横に倒した九時、どっち側に横倒しにしても漢数字の三時は一一一になるから。九一一一か、一一一九? で、それでも駄目だったら、九時じゃなくて三時三十分の方を採用して、三三〇一一一を試す? 四ケタじゃないから、こっちはなさそうだけど」
パスワードを試すと『九一一一』で認証された。サードは謎解きができてほっとする。勉強は得意な方ではないが、一先ず課題はやりきったという達成感を味わった。
「よっしゃああああああああ」
何もしていないほんまKAINAが喜ぶ。スマートウォッチから警告音が鳴り、タイタンフレッドら三人が先ほどしがみついていた窓の外の壁が左右に自動で開く。
「やっぱ出口じゃねぇかよ。窓は」
タイタンフレッドが歯茎を見せてにやりと笑った。キリンAを残していくことになって、サードは気まずさから一度振り返る。目を見開いたまま絶命している様は、こんなところで死ぬとは思っていなかったと訴えている。いたたまれなくなったサードは、なんとしてもここから脱出しなければと決意を固めた。
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