ラフ・ゲーム5
「鼻見つけた」サードは骨っぽい部分を触ってしまって、意識しないようにするのに苦労した。顔に残った鼻骨の上にすり合わせるようにして置いた。
「くそ、どこのロッカーやったかな」
ほんまKAINAがここで行き詰った。サードはぷるぷるしたものを発見し、上唇として当てはめた。
それから、薄い肉も見つけたので、それを額にした方がすっきりした。表面に穴が空いている。そうだ、あさピクは銃弾で亡くなったんだった。先に置いた穴の空いていない肉片は額の肉ではなかったのだ。じゃあ、どこの部位なの――。
「噛んでみたら分かるかも。僕は見えてるからどの部位か分かるけど、たぶん言ったら感電させられそうで」
氷河に言われ、サードは冗談でしょと叫ぶ。
「じゃあ指で触って分かる? たぶん、キラー・ハニーはこの福笑いで僕らに嫌がらせをしている。それに乗ってやるのは嫌だけど、それで答えが分かるならそうするべきじゃないかな」
噛めば分かるって。味で? いや、味なんかで――まさか硬さ?
「硬いのね? すじ肉? すじってアキレス腱とかでしょ?」
「顔にもある」
「どこ?」
「たぶん答えは言えない。すじってよく動かす部位のことだ。仮にも筋肉だから」
「よく動く顔の部位ってこと? まさか、頬肉?」
肉片を頬に当てると大きさがぴったりだった。左右どちらなのかは分からないが。ほんまKAINAが同じものを見つけて持ってきた。同じく左右不明なのでよりしっくり当てはまる方を優先した。みかんのココ♡は残りパーツが少なくなったことで右往左往している。サードも穴空きの額、上唇、右の頬肉しか埋められていない。貢献しないと死ぬのは自分かもしれなかった。
ほんまKAINAにだけは殺されたくない。
ロッカーをローラー作戦し、歯を持ってきた。ほんまKAINAは、ねちゃねちゃすんなぁとロッカーから何かを得たようだ。
歯を当てはめてこれ以上顔のパーツが欠けていないか、あさピクの顔を撫でる。この歯で終わりみたい――。
「なんか余るんやけど」とほんまKAINA。
「何持ってんの? ごめん当たった」
断って触って確認した。ぐにゅぐにょの物体は顔のパーツにしては大きめだった。
残り二分。
「知らんがな。見たくもないわ。てか、うちの手柄や。これがポイント制やったらうちの圧勝やねんで分かってんかボケ。渡すかいな!」
ほんまKAINAは優勝やと口走る。そんなものはないでしょと言ってやりたかった。
「もしかしてそれ、黒い袋に入ってたやつ?」
答えないところ、図星のようだった。
残り一分を切る。
死人の顔をこうもいじくりまわすと、吐き気がするが完成できていなかったときのペナルティが怖い。ほんまKAINAが一番当てはめている。こういうのが苦手そうなサードとみかんのここ♡にわざと声をかけたというのもあるのかもしれない。実際サードは物の位置を暗記するのが苦手だった。ほんまKAINAがキリンAにやらせなかったのは、あの子がゲーム好きだから自分が不利になると踏んだのかもしれない。
死体を触っているという意識が、気を抜くと触感で呼び起こされて少し吐いた。慌ててあさピクの遺体のあると思われる位置から顔を背ける。
「うわ、ゲロ女かいな。やめーや」
息を整えあさピクの身体に吐しゃ物がかかっていないことを、手探りで確認する。
あさピクの頭髪を撫でて違和感を覚える。頭部が丸みを帯びていない。雑に髪を被せたほんまKAINAは福笑いを失敗していることに気づいていない。
「ここ、やり直しよ」
サードは髪を外して頭蓋を触る。指で触ると切れ込みが入れられているのが分かる。
ほんまKAINAは自分がつけた髪の毛を押しつけられて、怒鳴る。
「勝手に何すんねん!」
拍子に、手にしていた柔らかい物体を取り落とした。ゴム製マット上とはいえ、それが弾け飛ぶ音を聞いた。ゴーグルをしないで見守っていたテカプリが嘔吐するような呻き声を出す。サードはこのゲーム、現物を目にしないで済むという点においては、ゴーグルをつけていて良かったのかもしれないと思った。
残り十秒。
ほんまKAINAが慌てて両手でかき集めたそれを、頭蓋の切れ込みからぱかっと開いた頭蓋骨の中へ押し込む。仕上げに髪をちゃんちゃと被せる。
残り二秒。
GAME CLEAR の文字がゴーグルの中で点滅する。祝福のファンファーレが聞こえる。タイマー以外真っ暗だったVRゴーグルの視界に、ハチがたくさん飛んでくる映像が流れ、それがRANKINGの文字を作った。
「一位サード。二十九ポイント。二位ほんまKAINA。二十三ポイント(二十九ポイント中、六ポイント減点)。三位みかんのここ♡十ポイントて、なんでや!」
ほんまKAINAが激怒する。
ゴーグル内でポイントが表示された。部位には難易度があらかじめ決められていたらしい。
最高難易度が頬肉だった。左右のどちらかは、問われていなかったが十ポイントあった。
【部位ごとのポイント 手で触った感触で判断のつきにくいものを高ポイントとしている】
【頬肉その一(左右問わず) 十ポイント サード】
【頬肉その二(左右問わず) 十ポイント ほんまKAINA】
【歯その一 八ポイント サード】
【歯その二 八ポイント ほんまKAINA】
【目その一(左右問わず) 五ポイント みかんのここ♡】
【目その二(左右問わず) 五ポイント みかんのここ♡】
【額の皮膚 五ポイント サード】
【脳 三ポイント ほんまKAINA】
【鼻 三ポイント サード】
【上唇 三ポイント サード】
【下唇 三ポイント ほんまKAINA】
【耳その一(左右問わず) 二ポイント ほんまKAINA】
【耳その二(左右問わず) 二ポイント ほんまKAINA】
【髪 一ポイント ほんまKAINA】
さらに、配置に関して歯は簡単に入る上にポイントが高得点だった。たぶんロッカー内での見つかりにくさや、紛失のリスクもあることから高得点を叩き出せる部位だったのだ。
頬肉に関しては触ったときの気持ち悪さに考慮して高得点がついているのかもしれない。それか、額の皮膚との区別のつきにくさからか。額の皮膚に穴が空いていなかったら分からなかったかもしれない。
さらに、一度配置した髪を外して脳を入れたことで、髪の位置が若干ずれてしまいほんまKAINAは一ポイント減点。脳を取り落として破損させたことにより五ポイント減点で、一番貢献したはずのほんまKAINAがよくも悪くもない結果となった。両目だけをはめ込んだみかんのここ♡が最下位になってしまった。
みんなゴーグルを外した、と思ったらみかんのここ♡だけ着脱することができずに戸惑っている。
「あんたたち、あんなの平気で触れるっておかしいわよ」
みかんのここ♡はたまらず金切り声を上げた。まぁ、サードは子供が生まれたらこんなのグロいとか言っていられなかったし、見えないおかげで乗り切ったのは少し自慢したいところだった。
「女々しい奴はこういうの苦手やろうな」
ほんまKAINAは意地汚く笑った。依然、みかんのここ♡は後頭部に腕を回してゴーグルを外しにかかっている。テカプリが手伝おうとしたとき、みかんのここ♡は悲鳴を上げた。
「痛い痛い痛い!」
悲痛な叫びにテカプリがみかんのここ♡を抱き留める。だが、もがき苦しんでいるのには訳があった。ゴーグルを固定するバンドがみかんのここ♡の頭蓋を締めつけ、食い込んでいる。バンドに押されて顔はヒョウタンのように飛び出たおでこと、同じく突き出た下あごに分かれていく。目と鼻が陥没し、眼窩(がんか)や鼻骨(びこつ)が立て続けに折れる。
驚いたテカプリが腰を抜かす。
みかんのここ♡の悲惨な断末魔がサードたちの鼓膜を震わせた。
VRゴーグルで陥没した顔の鼻だった部分や口、耳、裂けた頬骨から血肉が弾け飛んだ。
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