ラフ・ゲーム4

 ほんまKAINA、みかんのここ♡のゲームは終わり、今行われているのはタイタンフレッドのゲームだ。これら三つのゲームに名指しがあったことは結構重要かもしれない。それから、最初に全員が参加したカメラゲームで四つのゲームが行われた。この後にゲームがあるとすると五つ目のゲームになる。クマ事件のゲームを勘定に含むと、犯人は六つのゲームを編み出したことになる。動画は第五の動画までのはずなのだが。サードはゲーム数に対して死者数がそれほど多くないことに気づいた。そのほうがいいはずなのだが、なんだかこれだけで終わらない気がする。


「次のゲームで有利になるものがもらえるんだったら、あたしやってもいいわ」案外飲み込みが早かったのはみかんのここ♡だ。


 タイタンフレッドは何も言わないが、明らかにアイコンタクトでほんまKAINAに指示を出した。それを受けてか、ほんまKAINAも前向きだ。


「ええでええで。福笑いじゃ、そう簡単に死なへんやろ? きっと次のゲームが鬼門やと思うわ。これはサービスゲームやな」


「勝ちに行こう。サード代わってくれないかな?」


 氷河が代わると名乗り出たので、サードははっとする。耳まで赤らんでいないか心配になる。だが、すぐに思い直した。ここにいるのはみんなやましいことがある人間なんだ。サードもその限りではない。誰かに怒られるようなことはたくさんしてきた。今さら追及されたって、どれが何の罪に当たるのかなんて分かりっこない。著作権侵害は当り前だったし、それってみんながやってることだもん。みんな口に出して言わないだけで――。


「あかんあかん。途中参加はあかんのとちゃうか?」


「どうして? ゴーグルはまだ誰もかけてない」氷河は一歩も引かない。


「うちら、三人でやるって決めてんよ。なぁサードはん? 氷河はんと代わってもらうんか? ええ王子様見つけてもうてからに。ぷすっ」


 サードはいい加減、ほんまKAINAの屁みたいな笑いにイライラしてきた。


「私がやればいいんでしょ! 私に何の恨みがあるのよ!」


「知らん。関連までは知らん」


「じゃぁ、何を知ってんのよ」


 テカプリがサード、みかんのここ♡にゴーグルを手渡す。それから、氷河はほんまKAINAにゴーグルを手渡した。


「おおきになー。三人でやれば、一番上手い奴はご褒美。真ん中はなんもあらへん。下手くそは死ぬ。の三分の二の確率で安全なんよな」


「心からそう思ってる?」


 氷河の問いにほんまKAINAは意地悪く微笑む。


「こういうしょぼいゲームでないと、女は参加せえへんやんか? ほかのゲームでは男も女も死ぬけど、こういうゆるいゲームで死んでもらわんと。うちらばっか酷い目に遭うんわごめんやで」


 氷河が絶句している。サードもほんまKAINAの物言いに、思わず手が出そうになる。


「怖い顔せんといてや。ゆるいゲームや思うけど、やっぱ押しつけるんわ悪いからうちも参加するんやんか」


 一番にほんまKAINAがゴーグルを装着する。


「え、ちょっと待ってよ」


 慌ててサードもゴーグルを装着する。両目の部分にデジタル時計のタイマーが映し出された。やっぱりVRゴーグルだ。九分十秒のゲームのはずだが、タイマーはすでに動いており八分五十九秒になっている。


 みかんのここ♡も装着し終えたのか、声を張り上げる。


「ちょっと、ロッカーの近くで被った方がよかったんじゃない? タイマー以外、真っ暗で何も見えないわよ」


「うわ、ほんまや。まずあさピクの遺体どこやねん!」


「後ろを振り返って!」


 ゴーグルを装着していないテカプリが指示を出して、ぎゃあと一言短く叫ぶと倒れる音がした。電気ショックペナルティ発動でテカプリが倒れた。


「何してんねんな。うちらに教えてくれたんか? 感電か。あほやん」


 原因を作ったほんまKAINAはすたすたと歩んだ。足音だけでしか判断できないサードだが、ほんまKAINAが一人でロッカーからロッカーを往復していると気づく。

 ああやっていがみ合っていた時間にロッカーの配置と、中のあさピクの肉片の位置を丸暗記していたのか。


 サードは急に怖くなった。お腹が大きくなって足元が見えなくなった妊娠中期を思い出す。慣れたつもりだが、目隠しは違う。転んだら赤ちゃんが終わりだ。


「待って、ほんとにあさピクの遺体ってどこ?」


 ほんまKAINAが教えるはずもなかった。傍にいたみかんのここ♡があったと歓声を上げる。


 声の方角から、右斜め前にあさピクの遺体があるのだろう。


「こうしてられない」


 闇雲にサードは両手で前を探りながらロッカーにたどり着く。氷河とテカプリがロッカー扉を全て開け放してくれていたおかげで、中のものを確認するだけだ。ほっと溜息が出る。


 手でロッカー内を雑巾がけするように探ると、小指に小さい何かが当たって転がり落ちた。慌ててしゃがみ込むと、急なかがみ姿勢が悪かったのかこんなときにつわりが来た。


「吐いちゃダメ」


 自分に言い聞かせる。隣で氷河が支えてくれなかったら、危なくまた倒れるところだった。


「ものの位置は教えたら駄目だろうけど、倒れた人を起こすぐらいは大丈夫なはずだと思う」


「あ、ありがと。でも、感電したくないから、余計なことはしないでよ」


 つい言葉がきつくなる。


「また倒れそうになったら起こすよ」


 氷河がそっと離れる足音がする。


「うわ、髪の毛きっも! 見えへん状態で触ったら、キモすぎるわ!」


 文句を言いまくっているほんまKAINA。今のはきっと本心だろう。


 遅れは取らない方がいい。急いで床にあるはずの小物を探す。あさピクのパーツで最小のもの。歯に違いなかった。


 残り時間は八分五秒。


「時間は十分あるよ」


 氷河に言われて、おかしいと思った。


「どうして分かるの? あ、あった!」


 サードは歯を指でつまみ、あさピクの遺体があると思われるロッカーに足を向ける。氷河は横からついてくる。


「サードさんがんばれー!」キリンAの頼りない応援が届く。


 あの子ほんとうざい――。


「ほんまKAINAがゴーグルをつけたときから、心で数えてる」


 話しながらカウントダウンできる人がいることに驚きだった。邪魔をしない方がいいと思ってサードは黙ってあさピクまでたどり着く。足先があさピクの投げ出された足にぶつかった。


 手探りで顔を探す。血は乾いていたが、中は湿っており、それが反って生々しくてサードはあさピクの突起部分に歯を一度置く。突起部分はきっと、削がれているとはいえ、顔全体の中では比較的膨らんでいた削がれた鼻骨の残りの部分だろう。


「ちょ、はよしてや。次待ってんねん」


 しゃがんでいると後ろからほんまKAINAに尻を蹴られた。


「何するのよ! 順番でしょ!」


「サードくん。落ち着け。ほんまKAINAは協力する気なんかないんだから、君はあさピクの顔を完成させることに専念しろ」


 テカプリは口だけで止めはしない。横で氷河がぶつぶつとタイマーをカウントしている。私たちには見えるから関係ないはずだが、制限時間を気にかけてくれているのが少し嬉しい。ほんまKAINAの蹴りを止めてとは言えなかった。


 口は歯が残っていたからそれを探して、その横に刺せばいいんだと思いなおす。

「入った」


 歯茎には明確に穴が空いていて、案外入れるのは簡単だった。粘液か血液か見えないから分からないが、何かの液体に手が触れて肝が冷える。


「うわー、入らんやん。これもしかして耳かいな? 二つあるな。よし、耳やわ。押し込んでくっつけるわ」


 ほんまKAINAがいつの間にか真横に座り込んで苦戦している。残り七分を切った。


「目玉あったわよ。左右間違っても大丈夫よね?」


 みかんのここは両目玉を入れるらしい。三人横並びになっているのだろう。サードは二人がいじるあさピクの顔をさっと撫でて今の完成度を確認する。鼻もなければ、下顎も剥き出し。そうだ、唇がない。そういえば、たらこみたいな肉が二つと、何の肉片か分からないものが二つあった。


 時間はかかったが、肉片を一つ見つけて持ってきた。唇じゃなさそうだったが。


 手探りで血の上を三人の手が交差する。何を手にしているのかお互いに確認しようとしている。傍から見ている氷河、テカプリ、キリンAは何を思うだろう。死体に群がるゾンビにでも見えているんじゃないだろうか。


「ちょ、これ唇ちゃうか?」


 ほんまKAINAが歯と下唇を埋めたようだった。


「ちょ、あんさん、人が何持ってるか確認すんのやめーや」


「だって、私が持ってるものが唇じゃないんだったら、この肉片は何なのよ」


「肉片は肉片やろ。あほか。皮剥がれてるんやからそれちゃうか?」


 想像したら気持ち悪くてつわりがきた。


「こんなところで吐かないでよ!」


 みかんのここ♡が距離を置くようにして逃げた。


「……吐いてないでしょ」


 サードはあてずっぽうで肉片を額と思われる部分に置いた。あまりしっくりこない。だが、仕方がない、人間の顔を切り刻んで福笑いにしたこのゲームがイカレてるんだと思うことにした。


 額の骨には穴が空いていた。サードは肉片を撫でて穴が空いていないことに疑問を持つ。これじゃない。これは保留にする。ほかのも探して来ないと。


 残り六分。

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