(二)-6

 それに対し、茂原邦茂に告白された大貫エミには密かに慕っている人がいた。その相手は、鎌取鋭太といった。

 エミは図書委員として図書室に通う際、美術部の前を通るのだが、開け放しになっている美術室のドアから一心不乱に絵を描く彼の姿をたびたび目撃していた。アートについてよく知らないエミが見ても、その斬新な色使い、構図、テーマなど、他の生徒たちと明らかに違っていた。そんな鋭太に、エミはいつしか惹かれていた。

 だから学年一の人気者である茂原邦茂に告白されたとき、「勇者ゲーム」のこともあり、エミは鋭太に告白しようと決意した。そして茂原への回答を保留にしたのであった。

 それは密かな思い人がいたせいもあったが、なによりも茂原のことを慕っている多くの女生徒たちの嫉妬を回避したいというのも、理由の大部分を占めていた。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る