第4話迷走
次の日、輝と伊奈は輝の借りているアパートにいた。自宅のパソコンを使って9月7日に日本各地で同時に起こった自殺事件を調べる為に。
検索エンジンに根津戸の名前と日付ををキーワードにして検索してみると、幾つかのニュース記事が羅列された。
記事によると、9月7日に自殺した人数は合計で6名。氏名は根津戸以外なら、藤田伝夫62歳北海道在住、須磨亜里砂17歳石川県在住、宇井流須14歳千葉県在住、神谷近18歳長崎県在住、院巣戸透30歳静岡県在住、であった。
「確かに年齢も性別も住んでいる場所もバラバラだな。」
「偶然にしちゃ、数が多いよね。」
「智が言うには、根津戸は最近何かのサイトにはまってたらしいんだ。そのサイトまでは分からないんだけれど、これはネット上で知り合った人達が集団自殺したとしか考えられない。」
輝はネット上の裏掲示板にアクセスすると新しいサイトを作成した。
内容は9月7日に同時に自殺した人達の情報を教えて欲しいというものであった。
「ヤダ、輝ったら。そんな個人情報なんて教えてくれる人いるわけないじゃない。しかも亡くなった人の事なんて。」
「大丈夫、誰かが有益な情報を書き込んでくれたらすぐにこのサイトを消すから。それに以外と俺たち以外にも自分の知り合いが自殺した事で悲しんでいる奴がいるかもしれないだろ。ここに情報を集めてそれを読んでくれれば気が晴れるかもしれないし。」
「もうっ。」
伊奈は呆れてそっぽを向いてしまったが、伊奈自身も根津戸の身に何が起こっていたのか知りたがっていると輝は感じていた。
サイトを作成して10分後。
さすがにこんなに早く呼びかけに応じてくれる人はいないと思っていたのだが、もうすでに一件の書き込みがあった。
その書き込みにはどこかのサイトへと繋がるURLが貼り付けられていただけだった。
そのURLをクリックしてみると、おもむろに動画が再生され明るい声が響いてきた。
『皆さんこんばんわ。トオルで~す・・』
「ねえ、このトオルって人・・・亡くなった院巣戸透って人と同じ名前なんだけど、もしかして同一人物?」
輝は何も答える事ができずに、ただ動画に集中していた。
『な~~んと僕は今から自殺をするからで~~す。』
「そうみたいだ・・。このトオルって人が院巣戸透って人なんだと思う。昨日大学であった雑誌記者さんが言ってた通りだ。自分で自分の自殺する瞬間を生配信してたのって、この人で間違いないみたいだ。」
「ひっつ・・・じゃあ、この後自殺しちゃうの・・?もう止めて!」
輝も伊奈の言葉に同意だった為、震える手で慌てて動画の停止ボタンをクリックしたが恐怖で体の震えが止まらなかった。誰だって人が死ぬ瞬間なんて見たくはないのだから。
輝は震える手で慌てて自身のスマホを手に取ると、昨日月山にもらった名刺を見ながらそこに書かれている携帯番号に電話をかけた。
「はい、もしもし。」
「あ、月山さんの携帯電話で間違いないでしょうか?」
「はい、そうですが。」
「僕、昨日大学構内で月山さんに声をかけられた池本と申します。」
「イケモトさん・・・・あ、あ~昨日私が声をかけた方ですね。」
「はい、そうです。」
「もしかして新しい情報でもありましたか?」
「いえ、情報というほどでもないんですが、月山さんは昨日9月7日の自殺者の中に自分の自殺している場面を生配信している人がいたっていってたじゃないですか。でもその動画はすでに削除されているって。」
「はい、言いました。」
「実はその動画を見つけてしまったんですよ。僕が新しく作ったサイトに誰かが動画へのリンク先を貼り付けたらしくて。」
「本当ですか!?そのサイトのURLを・・いや、お時間が大丈夫ならばこれから会えませんか?」
「分かりました。僕の彼女も一緒でよければ。」
「はい、全然かまいません。待ち合わせ場所は・・・」
輝と伊奈は雑誌記者の月山と喫茶店で待ち合わせる事になった。
輝と伊奈は待ち合わせの場所である喫茶店の前で月山を待っていた。まだ残暑の暑さが残っているとはいえ9月も中旬になればだんだんと日が暮れていくのが早くなっていくのを感じる。夕暮れ時のオレンジ色の光が少し眩しくて伊奈は目を細める。
「逢魔が時・・。」
「おうまがとき?なんだそれ。」
「この夕暮れの時間帯は鬼だとか魔物に出会う時間帯なんだって。黄昏時ともいうけど。」
「ふ~ん」
すると、夕日を背に月山がこちらに向かって歩いてきた。
「あ、おーい、月山さん。こっちこっち。」
月山は軽く会釈すると、喫茶点の中に入るのを二人に促した。
「ごめんねわざわざ来てもらっちゃって。彼女の方も。」
「いえ、いいんです。電話したのはこっちの方だし。」
「お茶くらいおごるわね。二人とも好きなの選んで。」
「すみません。」
輝も伊奈もウエイトレスが運んできた水を一口、口に含むとメニューとにらめっこした。
暫くすると、ウエイトレスが注文を聞きに来たので月山はウインナーコーヒーを注文をして、輝と伊奈はクリームソーダを注文した。
「甘いもの好きなんだね。」
「はい、おれ昔っからクリームソーダが好きなんですよ。飲み方は浮かんでいるアイスクリームを溶かしてジュースと混ぜて飲むのが。」
「輝は甘党だもんね。でもそういう飲み方子供ぽくない?」
「伊奈だって新作のお菓子に目がないじゃないか。」
「だって~」
「私はクリームソーダよりもウインナーコーヒーが好きかな。コーヒーの上に乗っているクリームを溶かして混ぜて飲むのが好きなの。」
「やっぱそういう飲み方しますよね。同士がいて良かった。」
「で、本題に入るけれど、その自殺した内の一人が生配信していたという動画を見せてくれる?」
「あ、はい。」
輝は慌ててポケットからスマートフォンをだすと例の動画が貼り付けられているサイトを開いた。そのサイトにはほんの二時間ほど前についた書き込みの他ににも幾つかの書き込みがあったが、今はその書き込みよりも動画へと導くURLを月山に見せると、月山はそURLをクリックして動画の内容を確かめた。
「うん、これだわ。生配信されてたってやつ。でもこの動画はすでに削除されているはずだったんだけど、また誰かがネット上にあげたのかな。だとしたら悪趣味だけど・・・。」
動画内ではトオルと名乗る人物が深夜の高速道路に飛び込んでトラックに衝突する場面が流れていた・・。月山は何度も何度も動画をリピートしては画像をじっくりと確認していた。そして一瞬動画を一時停止するとその拡大してみたりして小首をかしげた。
「ねえ、この部分。」
スマホを輝や伊奈に見えやすいように差し出すと、ある一点を指さした。
「ほらここ、何かの形に見えない?」
「う~ん、ぼやけていてよくわかりませんね。何かのもやみたいな・・でも何かの形に見えますね。」
「あ、ほらあれじゃない?」
「どうした伊奈。」
「ほら、この形は鳥に見えない?」
「鳥かぁ。」
「言われてみれば。池本君の彼女さんの方がなかなか洞察力が鋭いのね。」
「私、就職の内定先が都内の出版社なんですよ。どこの部門に配属されるかは判りませんが、一応観察力には自信がありまして。」
伊奈は少し照れくさそうにしていた。
「出版社に就職決まってたんだ。この業界はどの部門も大変だよ。体力に自信はある?」
「少しは・・・。」
そんな女達の会話を聞き流していると、一人のウエイトレスが店内にやってきた。
「お客様の中にいけもと様という方はいらっしゃいますでしょうか」
「はい、僕が池本ですが。」
ウエイトレスは輝に近寄り、電話を差し出してきた。
「池本様宛てにお電話が来ております。」
「えっ、相手は誰ですか?」
「それが・・・相手の方は一切お名前を名乗らないので・・。」
ウエイトレスは申し訳なさそうに伏し目がちになったので、とりあえず電話に出てみることにした。
「はい、もしもし。」
「・・・・・・・・・・・。」
「もしもし?」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あの、どちら様でしょうか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「輝?どうしたの?」
「ん、電話は繋がっているんだ刈れど、何も話さないんだ。」
「もしもし!」
「・・・・・・・・・。」
何度呼びかけても相手は無言を貫いているので語気を強めてみたが、全く反応は無い。しびれを切らした輝はそのまま電話を切った。
受話器をウエイトレスに返した後、再び話題を元に戻そうとしたが、今度は月山が席を立った。
「ちょっと電話してくるね。」
「あ、はい。いってらっしゃい。」
月山が店の奥に消えていくのを確認すると、伊奈がコッソリ話しかけてきた。
「ねえ、これからどうするの?私たちに出来る事はもう無いよね。」
「でも、もしかしたら根津戸が死んだ理由が判るかもしれないだろ。何だったら智も呼んで知ってることを月山さんに話してもらおうぜ。」
「でもなんだかもうこれ以上は関わらない方がいい気がするの。私たちは警察じゃないんだから、後は月山さん一人の仕事だって。」
「う~ん、でも・・。」
その瞬間ちょうど月山が電話を終えて席に戻ってきた。
「池本君、この動画を私のスマホに転送してもらえるかな。」
「いいっスけど。」
「ありがと。」
「あの月山さん。俺の友達に川口って奴がいて、そいつは根津戸と結構仲が良かったら心ですよ。もしかしたら何か知っているかもしれないし、一度川口と会ってみませんか?
「本当?ありがたいわ。是非その川口君からいろいろ話を聞いてみたいわね。」
「じゃ、また後日川口の予定が合う日を聞いて連絡しますね。」
「宜しくね、池本君。」
月山と別れた後輝と伊奈は輝のアパートに戻った。再びパソコンの電源を入れて例のサイトを開くと、またコメントが幾つか増えていた。そのほとんどは、最初のコメント欄に貼り付けられていたURLの内容に対する嫌悪感むき出しなコメントだったが、その内の一つのコメントに輝と伊奈の視線は釘付けになった。
>9月7日に電車に飛び込んで4んだ奴は俺の友達だったんだけど、未だに信じられないよ。だってアイツが4ぬ直前まで、メールのやりとりをしてたんだ。
「輝これ・・。」
「あぁ、これは貴重な情報元だ。」
輝はキーボードを指ではじくと書き込まれたコメントに返信をした。
>キミの友達の事を教えて欲しいんだけれどいいかな。僕も、僕の友達がその日の同時刻に亡くなっていてショックを受けているんだ。
なぜ亡くなったのか理由は知ってたら教えて欲しいんだけれど。
暫くの間は返信が無かったが、最後に輝が書き込んでから二時間後にやっと返信が書き込まれた。
>アイツは・・・俺の友達は4ぬ前に失恋したんだ。付き合ってた彼女に振られて落ち込んでた。だからって4ぬことはなかったのに。俺たちまだ高校生なんだからこれからまた沢山出会いもあるし、気にする事無かったのに。
>キミの友達は失恋して亡くなったの?
>そうだと思う。だからあの日メールで他に女紹介してやるって言ったのに
俺は友達を助けられなかったんだ
>あの日同じ時間に、キミの友達意外にも亡くなった人達がいるって知ってる?キミの友達と僕の友達と他にも亡くなった人がいるんだ。僕はなぜなのか真相を知りたい。亡くなる前に何かのSNS掲示板にハマっていたみたいなんだけど、もしかして自殺を呼びかける悪質なサイトとかあったんじゃないかって思ってる。
>そういえば、友達はネットゲームにハマっていたんだ。話題もネットゲームの話ばかりでさ、彼女に呆れられてたみたいだった。ゲームのプレイヤーでFって奴がいてそいつがすんげー強いんだって。よくゲームの中でそのFって奴とつるんでたらしい
>Fの事を詳しく教えてくれ
そう輝が入力した瞬間、輝のスマートフォンの着信が鳴った。スマホを手に取り相手は誰かと画面を確認したのだが、スマホの画面はunknownで表示されており、誰から電話がかかってきたのか判らない状態だった。電話番語すら非表示で表示されており、輝のスマートフォンに登録されている誰かであることは明白である。
「はいもしもし。」
「・・・・・・・。」
「もしもし・・。」
「・・・・・・・・・・。」
昼間喫茶店にいたときに自分にかかってきた無言電話を思い出し輝はぞっとした。普段なら問答無用で電話を切っていたところだが、今現の話題が話題だけにまさかあの世から根津戸が電話してきているのではとつい非科学的な事を考えてしまう。
「輝、誰から?」
「また無言電話なんだ。・・・もしもし」
「ワタシハ フォボス・・・ワ タ シ ワ フ ォ ボ ス」
意味が分からなかったのと、不気味な話し口調だった為輝は通話を切断した。
「なんかおかしな奴から電話がかかってきたぞ。」
「え・・・。」
再びパソコン画面に目を向けると、先ほどの返信相手からの新しい書き込みがされていた。
>友達とFって奴はチャットでよく話してたらしいんだけど、文法がめちゃくちゃなカタコトの日本語で話しかけてくるんだって
でも博識で勉強の事を質問しても的確に答えてくれるって
でも友達が彼女と別れた時に相談したら裏掲示板にアクセスするように誘われたらしい
面白いから俺も見ろって友達に誘われたけれど正体不明の裏掲示板なんてアクセスしただけでパソコンウィルスに感染しそうな気がして見なかったよ
>その裏掲示板のURL知ってるかい?
ここまで入力した時、突然パソコン画面の画像が歪み通信が遮断された。
「一体どうなってんだっ。」
「輝・・なんだか変だよ。やっぱもうこの件には関わらない方がいいよ。」
「月山さんに連絡する。一応このことを報告しておかなきゃ。」
「きっと今頃月山さんもこのサイト見てるんじや無いかな。」
「そ、それもそうだな・・。ところで伊奈。」
「なあに」
「今日は泊まっていけ。・・いや、泊まっていって欲しいんだけど。」
「輝・・もしかして怖いの?」
「う・・・。」
「図星ね。いいよ、泊まっていってあげる。」
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