第2話 Over kill
9月7日午後11時58分
東京都に所在する自身の大学構内にて、根津戸 智春は校舎の屋上にいた。当然のことながら校内には学生や教職員は残っておらず、残っているのは校内の警備を担当している警備員だけだった。
残暑の暑さが残っている9月上旬は夜風が肌に心地よく感じる時期でもある。
根津戸はスマホの画面を眺めながらスマホの画面を眺めながら手すりによじ登ると、その地表までの距離を目視で測った。
屋上からは地表の様子が眺めよく見渡せており、構内を巡回している警備員のライトがあちらこちらに移動しているのがよく分かる。
(見つかったら確実に止められる。頼むから0時になるまでにどこかに行ってくれ)
警備員の照らすライトが通り過ぎるまで、身を潜めて待つ。
握りしめているスマートフォンの時計をみると時刻は11時59分。
(後1分・・・)
これから起こる出来事をいろいろ想像する。
(痛いのか?一瞬で死ねるのか?僕だけ遅れないようにしなきゃ・・。お父さんお母さんごめんなさい。)そんな時スマートフォンの画面が光った。アプリが起動したのだ。
画面に映し出されたのはこの根津戸がここ最近入り浸っているSNS掲示板だった。そこには・・
>そろソロやルんだ、、、時カン来タぞ。。。。。。。。。。
少しおかしな日本語だが、この投稿は今の自分に宛てた発言だと理解した。
スマートフォンを握りしめて目をつぶり思いっきり飛び降りた。
地面に落下した根津戸は全身を強く打ち付け絶命した。握りしめられていたスマートフォンの画面はチカチカと点滅していた。
時刻は午前0時。
同時刻 北海道では。
初老の男性が天井にロープをぶら下げ、ロープの輪っかに首を引っかけて椅子を思いっ切り蹴飛ばした。暫くの間は苦しさから体をゆらゆら揺らしていたが、その内動かなくなった。テーブルの上には画面から明るい光を照らしているパソコンが置かれており、その隣にはまだ幼い孫達の写真が置かれていた。
石川県では。
高校の制服姿で女子高生が自宅マンションの屋上へと続く階段を登っていた。そして屋上にたどり着くと足下にスマートフォンを置いてから屋上の柵を乗り越えてためらいもなく飛び降りた。
駐輪場の屋根に落下したので、ドシンと大きな音を立てて落ちたため、マンションの住人達が何事かと窓を開けたりして様子を見ると、同じマンションの住人である女の子が駐輪場の屋根に引っかかっるように倒れていたため、マンション内は騒然となりあわてて救急車に電話をかけた。
千葉県では。
深夜の診療所内の薬局で少年がごそごそと薬をあさっていた。少年はこの診療所を経営する医者の息子で中学生である。
「このくらいで足りるかな」
自分のズボンのポケットいっぱいにくすねた薬を隠し診療所の裏口から一旦外にでてから、すぐ裏手にある自宅に戻った。
玄関から家の中に戻ると、リビングにてテレビを見ている父と母に見つからないようにそっと二階の自室に戻ろうとすると、気配を察した母親に呼び止められた。
「流須」
「なに?お母さん。」
「まだ起きてたの?早く寝なさい。明日も学校なんだから寝坊したら困るでしょ。」
「わかってるって。もう寝るから・・・。」
そんな母子の会話に父親が口を挟んでくる。
「勉強をやっていたのならいいが、ネットゲームばかりやってるんじゃないぞ。もう中学三年生だから高校受験も控えてるんだからな。お前は俺の息子なんだから必ず有名国立高校に入らなきゃ駄目だ。いいな。」
「・・・はい、お父さん。」
それだけ言うと父親は再びTVに集中し始めた。
流須と呼ばれた少年は階段を駆け上がり二階の自室に駆け戻ると鍵をかけポケットの中から先ほどの薬をベッドの上にばら撒いた。時計を見ると11時55分。後5分で全てが終わる。
流須は錠剤の薬を一つずつパッケージから出して手に握り、それを飲み込みあらかじめ用意しておいた水で流し込んだ。
ベッドに横になり学習机の上に置いてあるパソコン画面にはあるSNSサイトが映し出されていて、そこには沢山の書き込みがされていた。その内の一つに、
>やったネ!これでキミはジ由ダよ
との書き込みがあった。
(そうこれで僕は自由になったんだ。もう勉強も親の顔も見なくて済むんだ。)
現在の時刻は11時59分。
(だんだん眠くなってきた・・。これでゲームクリアだ・・)
午前0時。少年は眠るように目を閉じ永遠に目覚める事は無かった。
長崎県。
深夜の駅にて。
スマホをいじりながら駅構内のベンチに座っていた青年がいた。青年は落ち着きが無くしきりに線路の奥を眺めながら時計を確認したり、スマホを眺めたりしていた。
そんなとき一通のメールが届いた。相手はこの青年の友達だ。
:宛先 神谷近 from 清水省吾
内容
明日学校帰りにうち来てゲームやろうぜ!あんなブス女の子となんてさっさと忘れて次の女探そう。なんなら紹介してやろうかww
内容は極めて前向きで明るい内容であった為瞬間的に気持ちが明るくなった。やはりこの場を離れて帰ろうか、そんな考えが頭をよぎった瞬間、スマホの画面が一瞬ゆがんで画面が真っ暗になったかと思うとすぐに画面が復旧した。しかしその画面は先ほど開いていたメールの画面では無く、最近入り浸っていたSNS掲示板のサイトであった。そこには誰かからのコメントが新しく追加されていた、
>騙さレるナ。そいつハキミを騙している。。。。。
>裏で君ノしつれんヲ笑ッてイル
その今この場にいる自分の姿が見えているかのような書き込みについ先ほど友人から届いたメールの内容に励まされた気持ちが全て吹っ飛んだ。
時計を見ると午前0時に針が指そうとしている。線路の向こう側からはこの日の最終列車が近づいてくる音がした。
青年はベンチから立ち上がると線路際に立ち列車が限りなく近づくのを待ってから線路に飛び混んだ。
静岡県にて。
深夜の高速道路脇に男が立っていた。服装はTシャツに帽子をかぶり、一見するとラッパーの様な格好をしている。
男は三脚に取り付けられたスマホを設置して自身の写り具合を調整していた。そして撮影準備が整うとスマホカメラの前に立ち演説を始めた。
「皆さんこんばんわ。トオルで~す。今日はなんと僕の配信が最後となります。なぜかというと・・・な~~んと僕は今から自殺をするからで~~す。」
このトオルと名乗る男は普段からMy Tubeにて動画を投稿していて再生数もそこそこ稼げていた。
「びっくりしたでショ!?なぜ今夜いきなり自殺するかというと・・・」
このトオルは気がつかなかったが、自殺する理由を話している瞬間だけ画像が真っ暗になり音声も途切れて配信が接続されていなかった。
ネット上のこの配信のリスナー達は自殺場面の生配信という事態に動揺が隠せないでいる。
>はぁ!?自殺とかマジか?
>理由説明の部分が画面が途切れていてわからんのだけど
>絶対釣りだw釣りだろ?wwwwwwwww
>ちょwwwwwwww自殺とかマジやめて 笑えないんだけど
>やばいw録画しておk?
>マジで止めろ!お前の親が悲しむぞ!
>目を覚ましてください(><;)
>警察に通報したほうがいい?
>ワロスっwやれよwところで生命保険は入ってるのか?
>トオルさんが明日も生きているに一万票w
画面に流れてくるコメントは様々で、その多くは釣り動画だと思っているリスナーが大半だったが、やはり自殺生配信動画となると話題性があるのか、視聴者数が一万を超えている。
「え~っと、現在の視聴者数は一万人ですか。う~んもう少し稼げると思ったんですがね~。まあいいや、全国の一万人の皆様に僕の最後の雄姿を見て欲しいのです。あと数分で午前0時になります。僕はそのタイミングで高速道路を走っている車の列に飛び込み死にます。僕とぶつかった車のドライバーさんには気の毒ですが、僕の死因は事故死になります。皆さんは是非車のドライバーさんが罪に問われないようにこの動画を証拠に僕の自殺を主張してください。お願いします。」
>てか、トオルさんが死ななきゃ車のドライバーも安心だろ
>ドライバーは一生トラウマになるだろうな(汗
「ただいまの時刻は午後11時59分。そろそろ死ぬのにふさわしい車を選びましょうか。今から来る軽自動車はぶつかっても死ねそうもないのでスルーしますね。あ、あの大型トラックなんか良さそうだ。」
遠くの方から轟音をたてて走ってくるトラックに狙いを定めると、トオルは勢いよく高速道路に飛び込みトラックと正面衝突した。その瞬間トオルは天高く舞い上がり手や足をいろんな方向に泳がせながら路面に落下して、二度三度バンドしたかと思うとピクリとも動かなくなった。
衝突された側のトラックは急ブレーキを踏んだものの車体を大きく斜めに横滑りしてガードレールに衝突して横倒しになった。
>ああああああああああ
>マジでやった!!!!!!!!!!
>嘘でしょ!!!警察に通報します。
>やべぇ・・・・人が4ぬ場面を生でみちまった・・・
>トオルさん無事ですか~~~返事して~~~~~~~~~~~
>つーか、トラックの運転手マジトラウマになるだろ・・
信じられない光景を目の当たりにしたリスナー達のコメントで画面は真っ白に染まった。
暫くすると、パトカーの音が鳴り響きそしてトラックの後続に続く車の運転手達が車から降りて、呆然として心ここにあらずのトラックの運転手に声をかけていた。
設置された主を失ったスマートフォンは変わらずその様子を撮影し続ける。
>警察来た!?お巡りさーーん、トラックの運転手さんは悪くありません。これは自殺です。
>これ削除確定動画だな
>吐き気してきたわ・・・
>オモシロイ?ミんナ楽しんイる?
>は?こいつなに言ってんの?人が4んだんだぞ
>キモいコメントだわ。
>ってか日本語変じゃね?
一つだけこの場にふさわしくないコメントに大多数のリスナーは嫌悪感を抱くが、中には便乗して、人の死を軽率に面白がるコメントもちらほら見られた。
>スゲぇ 一生に一度見れるか見れないようなお宝映像だぞ。面白いに決まってんじゃん
>録画していて良かった。
>コレが死ヌこと?なの
少しおかしな日本語でのコメントだが、誰もその主を特定しようとは思わなかった。ただ単に頭のおかしな奴がこの生配信を炎上させようとしているだけに過ぎないと判断したのだった。
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