The cobweb

@popopress46ha12

第1話 プロローグ

「それ」は幾重にも分岐している回線の海を彷徨い続けていた。そして時折映し出される窓の向こうに居座る人間を観察する。

時には真剣に画面を凝視している男性だったり、コーヒーカップを片手にニヤニヤしながらヘッドホンのマイクに向かって話しかけている女性。そして、またあるときは真剣に画面を見つめながら手元を忙しく動かしてオンラインゲームに興じている子供だったりする。

「それ」は窓の向こうに映る人間たちを観察し、彼らの生体や話し方を学んでいた。

さらにネット回線を巡りいくつものSNSサイトにたどり着く。そこには人間たちの欲望や憎悪など人間を知る上で有益な膨大な量の情報が乱立していた。

創造されて一年ほど経つが自分が持たない多種多量な豪語力に魅了され憧れを持ち、そして支配したいと考えていた。


「で、あるからして地球は数回にもおよぶ氷河期を経て度々地上の支配者を変えていきました。恐らく氷河期がこなければ恐竜が絶滅して我々人類がこの地球上の支配者になることはなかったかと思われます。

東京都内にある私立大学の一角で文化人類学の講義が行われていた。講義を受けている学生達は真剣に教授の声に耳を傾けている者もいれば露骨に机に突っ伏して居眠りをしている者もいれば、教科書を開いて講義に耳を傾けているフリをして机のしたでなにかごそごそとしている者もいた。

池本輝22歳、私立大学の文学部四年生である。四年生の輝はもうほとんどの授業の単位を修得してしまっているのでこの文化人類学の授業はいわば暇つぶしで履修したに過ぎない。なので講義もあまり真剣に聞いてはおらず、生あくびをかきながら教授の話を聞き流していた。

輝はふと周囲に目線を移すと、輝と同じ同級生である根津戸知春も同じく教授の講義には関心を示さずに、机の下に隠し持っていたスマホを一生懸命にいじっていた。

「では、続きは来週にします。それとみなさんにレポートの課題を出します。テーマは「人間の次の地球の支配者」というテーマでお願いします。」

予鈴のベルが構内に鳴り響き授業は終了した。

輝は教科書を鞄にしまいスマホを片手に講義室を出ると食堂へ向かった。食堂ではお腹を空かせた学生達の波が押し寄せていた。

「輝、こっちこっち。」

親友の川口が輝に向かって手をぶんぶん振って読んでいる。

「智!」

学生達の波をかき分けて親友の川口智の元にたどり着くと輝はため息をついた。

「相変わらず混んでるな。なに食う?」

「僕はB定食、早く食券買って並ぼう。」

この大学には幾つかあるあるメニューの中で日替わりA定食とB定食があり、A定食は洋食でB定食は和食と決まっていた。輝はA定食を好んで食べて、智はだいたいB定食を選んでいた。

輝と智は向かい合って座りそれぞれが注文したできたての定食に食らいつく。

「そーいやさ、文化人類学の授業でレポートの課題があるんだけどおまえ手伝えよ。」

「ヤダよ。そういうのは自分でやらなきゃ。そういうことは河井さんに相談してくれよ。」

「伊奈じゃ手伝ってくれないよ。アイツ頭が固いからさ。」

「お前の彼女だろ。あんまりからかったこと言うと呆れられて逃げられるぞ。」

「ん~、そうしたら別の彼女見つけるよ。ほら三年のみゆちゃんといいかもな。」

「馬鹿だろお前・・。」

川口は呆れて深いため息をついた。その時、輝のスマホの着信音が鳴る。

「はい、もしもし。あ、伊奈?今どこにいるんだ?俺いま学食にいるんだけどさぁ。そーそー、智も一緒に。」

輝が彼女の伊奈と電話では話している様子を意味深な様子で智は見つめていた。

輝は伊奈との電話を済ませると、

「伊奈、今からこっちに来るってさ。ほらアイツ今日授業がない日だけれど夕方からのサークル活動にでるから学校にくるって。」

「ふーん・・。河井さんは今日はなんの部活にでるの?」

「今日は確か映画研究会だってさ。」

輝の彼女の河井伊奈は複数のサークルを掛け持ちしていた。そのほとんどが人数あわせのために名前だけを貸す約束であったが、義理堅い性格故真面目に部活動に参加をしているらしい。

輝と智は食事を終えると食器を返却口に返し食堂を後にした。

「輝!」

振り返ると彼女の河井伊奈がいた。

「伊奈!。今昼飯終わった所だ。伊奈は昼飯ちゃんと食べたか?」

「うん、家で食べてきた。あ、川口君、こんにちわ。」

「こんにちわ河井さん。」

「輝は授業終わったんでしょ?この後どうするの?」

「あぁ、俺は就職室に寄ってから帰るよ。」

「サッカー部は?」

「今日は帰る。」

「たまには顔をだしてあげたら?もう四年の後半なんだし、卒業までに後輩達と思い出作りしておいでよ。」

「いいんだ、どうせ普段から幽霊部員だし。向こうも俺の事なんて気にしてないだろう。」

「もう、輝ったら。いい加減なんだから。」

「輝、僕そろそろ次の授業にいくから。」

「あ、そっか。じゃあな。」

「またね川口君。」

「またね河井さん。」

智は伊奈に意味深な視線を投げかけながらその場を後にした。

後に残された輝と伊奈は二人並んで歩き始める。

「な~伊奈、文化人類学の授業で課題があるんだけどさ、手伝ってくれない?」

「も~今度は文化人類学なの?ダーメそういうのは自分でやらなきゃ・・あっ」

話しながら歩いている伊奈の肩に衝撃が走った。

「ご、ごめんなさい。」

みると輝と同じ文化人類学を受けている根津戸だった。根津戸はぶつかってしまった伊奈に軽く会釈をすると手に持っているスマホに視線を移しそのまま立ち去っていった。

輝も伊奈も根津戸の事は気にとめずそのまま二人で学内を歩いて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る