第7話
「今日はこの辺りにしようか」
ヒラヤマさんの言葉を機に、僕たちは帰る準備を始める。結局最後まで僕は武器を取り出すことができなかった。
「大丈夫よ、最初はそんなものだから」と、ウスイさんはフフフと笑って言う。
そうは言うが、僕は少し肩透かしを喰らっていた。
「エクソシストって扱うのこんなに難しいんですね」
「そうだね、僕も使い始めて七年経つのに、まだランク2だしね」
やはりランクの話になると、ヒラヤマさんは苦笑を浮かべる。
「さて、そしたら玄関まで送るよ」
そうしてヒラヤマさん達に送られ玄関に着く。すると、オオチさんと、僕と同じくらいの歳に思える男の子が何やら話をしている。
「あ、ヒラヤマさん良いところに!」
慌ててそういうオオチさんに、ヒラヤマさんが何があったのか聞くと、後ろから男の子が現れて説明する。
「初めまして、オンジ リクと言います。実は昨日から兄が帰って来ていないんです。それで、よく出入りしていたここに来ているんじゃないかと思って」
その男の子は高身長で、ちょうど百八十センチ程だろうか。切れ長な目に黒髪のイケメンだ。オオチさんの態度は心なしか優しく思える。
だが、今はそんなことを考えている場合ではないらしい。
「君、オンジ君の弟なのかい! 確かにオンジ君は昨日来ていたようだけど……」
「あの子自由奔放だから、支部に帰ってこず自宅に帰ったのかと思っていたわ」
ヒラヤマさんとウスイさんは各々、新たに発覚した事実に驚いている。
「でも、あの人なら大丈夫じゃないかなと思うんですけど。普段はあんな感じですけど、祈祷師屈指のランク7なんですよ!」
オオチさんの言葉に二人とも頷いている。あんな感じというのは否定的な表現なのだろう。
オンジという人物が気になった僕は、質問をする。
「オンジさんですか……。そういえば昨日僕が襲われたときに、助けてくださった方の姿がないようなんですが」
「それってどんな格好だった?」
質問で返すオオチさんに、僕は昨日の記憶を蘇らせる。
「そういえば、服を後ろ前に着ていて……」
「それだ!」
その一言で皆が頷く。あの人はいつもそんな感じだったのか。
そうして、最後に見たあの人のことを、思い出せる限りのことを伝えた。
「とりあえず支部長に報告を。それと親御さんに説明も」
ヒラヤマさんは、僕の話をメモにまとめた後、すぐ行動を始めようとする。
「それなら心配いらないですよ。俺たち孤児ですから」
その言葉に、皆が言葉を詰まらせていると、オンジ君が不意に僕の方を見て言った。
「な、なんだその生き物は」
正確には僕ではなく、僕の肩に乗るピイちゃんのことが気になったようだ。
「ああ、これは僕の友達のピイちゃんって言って……」
そこまで言って皆の顔を見ると、一様に固まっている。
「待ってくれ、君たちなんの話をしているんだい」
そして今度は、僕がヒラヤマさんの言葉の意味を、少しの間理解できずに固まる。そして、段々と理解していき……。
「皆さん見えてないんですか?」
そう言うと、皆が頷いている。一人、ウスイさんだけはぼんやり見えているらしいが、それでも輪郭ははっきりしていないという。
「ごめんオンジ君、一緒に来てもらっていいかな? 君にも素質があるみたいだ」
「素質? なんの話ですか」
「それも後で話をさせてもらうよ」
そうして、ヒラヤマさんとオンジ君は、支部長室へと向けて歩いて行った。
「それにしてもあんた、結構小さなソウルもはっきり見えるのね」
少し恨めしそうな顔で、オオチさんがこちらを見てくる。
「なんかあんたに負けてるみたいで嫌だわ」
僕は苦笑を返すと、ウスイさんが微笑んで言う。
「あらあら、まだ負けたわけじゃないじゃない。私はミドリちゃんが努力してること知ってるわよ」
「もぉー! そう言ってくれるのホノカさんだけですよ!」
そういうと、甘えるようにウスイさんに抱き着くオオチさん。
「あーあ、いなくならないで欲しいな」
「フフフ、そんなこと言わず笑って送り出してほしいわ」
「分かりました! 最後は絶対笑顔で送り出しますね!」
やはりウスイさんは優しいなと、改めて実感することができた。その証拠に、僕と話すときはツンツンしているオオチさんがあんなに甘えている。
「なにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い」
その光景がほほえましく相好を崩していたのだが、オオチさんの言葉に僕はすぐに姿勢を正す。
「す、すみません! それでは僕は帰りますね!」
そうして僕はジャップ・ファムを後にした。
帰り道の出来事である。歩いてバス停を目指す途中、街中で三人組の男たちとすれ違いざま。
「あっれー? もしかしてオオトリ君?」
その声に振り返ると、三人組の一人。知っている顔があった。
「か、カラスマル君? 久しぶりだね……」
それは小学校から中学校までともに過ごしたクラスメイト、カラスマル スバル君だ。久々に会ったが、見た目がかなり変わっている。元々黒かった髪は赤く、ピアスや指輪などジャラジャラとアクセサリーが付いている。
彼は昔からあまり良い噂がなかったが、高校に入りさらに悪化しているようだ。
それに、まわりにいる人も似た格好をしている。
「ねえねえ、まだ精霊さんは見えてるのー?」
へらへらと笑うカラスマル君は、グイっと顔を近づけてくる。
「なんっだよそれー! はっはっはっはっは!」
そんなカラスマル君を見て、隣にいた彼の友人が笑い声をあげる。
「そ、そんな訳ないじゃん。ははは」
苦笑する僕に、ニヤリと笑うカラスマル君は「ふーん」と言って話を続けようとする。
「そういえばオオトリ君さー……」
「ご、ごめん僕そろそろ行かないと!」
そんなカラスマル君の言葉を遮って僕は走り出す。
「おい、ちょっと!」
と、引き留めようとするカラスマル君の声が背後から聞こえるが、それでも僕は無心で走り続けた。曲がり角を曲がると、僕はエクソシストに触れる。
「最初からこうしておけば良かった」
練習をしていた際、ヒラヤマさんからエクソシストの使い過ぎは反動があると言われていた。普段から力に頼りすぎるのは良くないとも言われていたが、これくらいなら良いだろう。
小学生の頃、僕は見える能力のことを同級生に不審がられ、友達は離れていった。
それ以来、僕は見える能力を隠すようになったのだ。
それでもたまに、昔のクラスメイトと話すと動悸がするな。そんなことを考えながら、僕はエクソシストにより強化された身体で自宅へと向かった。
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